依頼を終え王都への帰路についていたトワイライトダスクの面々と共に王都に向かうことになり、日が暮れて来たのでハーピー達に襲われた場所から少し離れた位置で野営する事になった。
ジェニファーとイラティは遠慮しようとしたが、ナタリアの説得に負け今はヴァネッサとレズリーと共にまとまってセヴィラ辺境伯の用意してくれた大きめの馬車で休んで貰っている。
残った男性陣で焚火を囲んでいると、おもむろにエミリオが口を開いた。
「デミトリ達と会えてよかったよ、最近街道沿いに魔物が出現する事が異常に多くて……」
「移動中魔物に遭遇する事が多いと思ったが……そんなに問題になってるのか?」
「収穫期だからだろうな……」
アムール出身のアルセの発言に、全員の視線が彼に集まる。
「アムールの収穫期はどうやら魔物達の繁殖期と被っているらしい。毎年収穫期になると魔物や魔獣による被害が増える傾向が強い」
「そうだったんだ……依頼に向かう時も街に帰る時も魔物と遭遇する事が多いから大変だよ」
「ヴィーダで依頼をこなしていた時と比較すると体感で倍は疲弊しているな……」
マルコスとエミリオの切実な愚痴にアルセが苦笑する。
「先月王都で収穫祭が開催されただろう? そろそろ収穫期も終わりを迎えて冬になる、魔物の数も少し減るはずだ」
「そうなると、今後は冒険者ギルドへの依頼も減るんじゃないか?」
「そうでもないと思う。ギルドへの依頼は討伐依頼に限らないし、繁殖期は興奮した魔物による突発的な被害が多いだけだ。通常の討伐依頼の数は変わらないと思うぞ?」
俺の質問にアルセがそう答えると、マルコスが不思議そうに首を傾げながら問いかけて来た。
「デミトリ殿も冒険者だろう、なんでそんな他人事なんだ?」
「……色々と事情があって、一応冒険者だがもう何週間も依頼を受けていないんだ」
「もったいないよ!」
急に大声を出したエミリオに驚いてしまい焚火にくべようとしていた薪を落としそうになる。
「ソロで銀級なんでしょ? しかもハーピーを無傷で倒してたし、荒稼ぎできそうなのに」
「荒稼ぎ……とにかく、あれはアルセ殿の魔法があっての事だ。彼が身を挺して奇襲を防がなかったら今頃どうなっていたか分からない」
「あ……ごめんなさい、アルセさん!」
失言をしてしまった事に気付いたエミリオが慌てながらアルセに頭を下げた。
「気にしないでくれ、この通り診て貰ったかいもあって今は平気だ」
「全く、発言には気を付けた方が良いといつも言っているだろう?」
「ごめんってマルコス……でもソロで銀級に到達できる実力があるのに依頼を受けないのは本当にもったいないよ」
「それは私も同感だが……」
現役の冒険者の彼等からしてみれば、働き盛りの年齢で依頼を受けない冒険者はおかしく見えても仕方がないのかもしれない。
「……ヴィーダ王国を離れた二人は知らなくて当然だが……俺はガナディア王国からヴィーダ王国に亡命した身だ。冒険者として活動していたのも、色々と……政治的な理由があったんだ」
「そこまで教えてくれてもいいの?」
「詳細は共有できないが亡命の件はヴィーダ王家が関係各所に発表済みだ。貴族達や冒険者ギルドには既に知れ渡っている以上、伝えても問題ないはずだ」
「ガナディア王国か……」
アルセはナタリアから聞いていたのか驚かなかったが、エミリオとマルコスにとっては寝耳に水だったのだろう。
マルコスが少し考えてから、腰を掛けている倒木の上でこちらに向き直る。
――やはりガナディア王国に対する印象は良くないのだろうか……
「デミトリ殿、それなら尚の事冒険者を続けないのはもったいない」
「マルコス殿……?」
「ガナディア王国は冒険者ギルド非加盟国だろう? せっかくヴィーダ王国で冒険者になれたんだ、しかも短期間で銀級まで到達したんだ。白金級も夢じゃないかもしれない!」
拳を握りながら力を込めてそう言ったマルコスの様子に困惑していると、エミリオが呆れたように両手を上げながら首を振った。
「マルコス、そこまで等級が上がったら色々と面倒でしょ? 金級まで等級を上げてから老後のために貯蓄するのが一番いいって」
「エミリオ、何度も言うが冒険者になったのであれば普通白金級を目指すだろう!」
口論を始めてしまったマルコスとエミリオを眺めながら焚火に火を追加していると、横に座っていたアルセが小声で話しかけてきた。
「デミトリ殿は冒険者は続けるつもりはないのか?」
「そうだな……元々は亡命する成り行きで冒険者登録された身だ。続けるかどうかは俺個人では判断できない」
「……続けたくはないのか?」
「続けたくないと言うよりも、続けたいとも思っていないと言うのが正直な気持ちかもしれないな? いずれにせよ、ヴィーダ王家の指示に従う他ない」
「そうか……」
俺の回答に対して少し残念そうにそう返したアルセの反応が気になり彼の方を向く。
「アルセ殿も続けた方良いと思うのか?」
「いや……どうだろうな? 私は貴族に生まれたためその道を歩むことはないと早々に諦めたが、幼少の頃読んだ冒険譚に心を躍らせた」
昔を懐かしむような少し悲しそうな、そんな曖昧な表情を浮かべたアルセの瞳に揺れる焚火の光が反射する。
「他人事かつ勝手ながらマルコス殿の言っていた様に、せっかく冒険者なれたのであれば白金級を目指してみるのも一興だと思ってしまったのかもしれない」
「そうだろう! やはり男なら一度はそう夢見るだろう!」
「だから! 白金は現実的じゃないって!」
いつの間にか口論を終えていたマルコス達が会話に割って入り、意外と現実主義だと判明したエミリオの熱弁にマルコスの猛反論が続き夜が明けるまで冒険者業について語らう事になった。