「コルボはアースルスと並んでアムール王国の国旗に描かれている国鳥です」
「国鳥だったのか!?」
「はい! 常に番を労わるその姿は支え合う愛の象徴とされています。王家がギルドと協力体制を敷いて入念に生息分布を把握し、時には間引き、時には討伐禁止令を出す程慎重にコルボの個体数を管理しているのはそのためです」
ファビアンが言っている事が本当なら、適当な冒険者に討伐を依頼していい魔獣ではないような気がするが……
『もう、恋人が出来るって言ってたからアムールに付いて来たのに全然モテないしもうハラーンに帰ろうよ!!』
シャウデの森で出会ったコルボの討伐依頼を受注していた冒険者達が、ハラーンという聞いたことが無い国の出身だったことを思い出す。
「国鳥と言う事はアムールの国民に好かれているだろう? 俺がコルボの討伐依頼を勧められたのは――」
「私はギルド職員なので声を大にして言えませんが……恐らくデミトリさんが考えている通りだと思うとだけお伝えします」
――あの冒険者達も俺もアムールの出身ではなかった。国鳥だから討伐し辛いと考えるアムールの冒険者達に配慮して、わざわざ他国の冒険者に依頼を斡旋しているのか……
「国鳥として国民に愛されているからこそ、万が一コルボのテイムの方法が広まってしまえば王家が厳しく密漁を取り締まったとしても乱獲され、瞬く間に絶滅するでしょう……」
ファビアンの憂いも分からなくはない。年に五十羽間引くだけで個体数を規定の数に保てると説明されたが、恐らく全体で数百羽程度しかいないのだろう。
「先程の説明を聞いた上で、テイムの方法を広めるつもりは無いから安心してくれ。ただ、俺が王都でコルボの雛を連れ歩いていたら騒ぎになるんじゃないのか?」
「幸いな事にコルボの雛を見た事のある人間は多くないですし、気づかれたとしても祝福の力で従魔契約をしたと言ってください」
――先程説明していたもう一つのテイム方法か。
「仮に祝福を持っていたとしても、他国の人間が勝手にアムールの国鳥をテイムしたと公言しても問題ないのか?」
「コルボは国鳥ではあるものの魔獣であることには変わりありません。個体数の減少を防ぐために討伐禁止令が出されている期間を除けば、基本的な扱いは他の魔獣と変わらないんです。テイムする事を禁ずる法律は無いので、そこについては問題ありませんが……」
――言い淀んでいるが、法を犯していなくても気を悪くする人間は確実にいるだろうな……
「……テイムされた魔獣をテイマーから引き剝がす事は不可能に近いですが……デミトリさんごとコルボを手に入れようと考える人間が現れるかもしれません」
予想の斜め上の発言に思考が追いつかない。
「誰かに絡まれたら……その時は私を頼って下さい。先程説明した通りコルボの保護は王家の管轄なので、ギルドを介して王家と連携して何とかします」
「……分かった。何かあったらギルドを通してくれと言えばいいのか?」
「はい。それでも食い下がられたら、私の名前を出しても構いません」
「ぴー……」
寝言の様に鳴いたコルボの雛に視線を落として、短く息を吐く。
――保護して育てると決めたからには、何とかするしかないな……
「安心しきっていますね……あまり引き留めてしまっては悪いので、そろそろ魔獣の飼育方法について説明しますね!」
ファビアンがそう言いながら、いくつか本を取り出した。
「コルボがテイムされた記録は無いので、他の肉食の怪鳥のテイム事例と冒険者から報告されたコルボの生態記録から説明します――」
――――――――
ファビアンから一通り魔獣の飼育方法について説明を受け、宿に戻る前に討伐依頼の完了報告を済ませた。雛に親の死体を見せないように上着のポケットの中に隠したが、幸いな事に干し肉を食べて満腹になった雛は起きることなくつつがなく納品と依頼の完了報告を終える事に成功した。
宿に戻り店主に雛を見せ冒険者証に新たに刻印された従魔登録完了の証を提示して宿泊の許可を得た後、ようやく部屋に戻り一通り心配事が片付いたことに安堵していた頃には日が暮れかけていた。
コルボの雛をテーブルの上乗せ、収納鞄に仕舞っていたボロボロになってしまった服等のありもので雛の寝床の準備をしていると、ヴァネッサが買い物を終えて部屋に戻って来た。
「かわいい……!」
「ピッ?」
部屋の扉を開け、テーブルの上で寛ぐ雛を見たヴァネッサの第一声に安心する。彼女が部屋に魔獣が居る事にどう反応するのか心配だったが、テーブルの横に駆け寄り屈みながらコルボの雛を観察する様子から感触は悪くなさそうだ。
「説明させてくれ。実は――」
――――――――
「国鳥かぁ……」
「ピー?」
コルボの雛の頬を優しく指先でつつきながらヴァネッサが複雑な表情をする。
「私は保護するのに賛成だけど大丈夫かな? ファビアンさんってテイマーの人も言ってたけど、変な人に絡まれそうだけど」