「冒険者ギルドでコルボの従魔登録を終え、ギルド専属テイマーのファビアンという方から色々と説明を受けた。何事も無ければいいが……国鳥を求める人間にちょっかいを出されるかもしれない」
「あー、そうだね……」
エリック殿下も色々と合点がいったのか一気に表情が険しくなった。
「ファビアンからは国鳥であるコルボの保護はアムール王家が主導していて、冒険者ギルドと連携していると説明された。コルボをテイムしたことによって問題に巻き込まれたらギルドを頼って欲しいとお願いされたんだが……」
「言いたい事は何となく分かったよ! ギルドの名前を出しても引き下がらないような、高位貴族に絡まれた時の対処について事前に相談がしたいんだね?」
「ああ」
「僕と行動を共にするなら猶更事前に決めておいた方が良いね。ほら、王立学園に通ってる生徒にはアムールの高位貴族の子息令嬢が多いから……国鳥が欲しいって騒ぎそうな子も何人か心当たりがあるし」
――ちょっかいを出してきそうな人間を、エリック殿下がすぐに思い浮かべることができる位にはコルボが人気なのか……
エリック殿下がソファの上で振り返り、イバイと目を合わせる。
「もしもデミトリが高位貴族に絡まれたら僕を通してって言って貰うのが良いと思うんだけど、イバイはどう思う?」
「デミトリ殿は殿下の客人なので、殿下の庇護下にあると言っても過言ではありません。私もそのようにするのが良いと思います」
「よかった! じゃあそうしよう!」
「面倒を掛けてすまない」
エリック殿下だけでなく、イバイも優しく微笑みながら首を振った。
「気にしなくても良いよ! 僕も助けてもらうから持ちつ持たれつだ」
「そう言って貰えると助かる。俺からの相談事は以上だ」
「それじゃあ今日はもう遅いしお開きにしよっか。イバイ、ナタリア嬢とデミトリ殿の見送りをお願い」
「承知致しました」
話が纏まり、ナタリアとイバイと共に応接室を後にしてすぐイバイから声を掛けられた。
「ナタリア様、デミトリ殿、殿下に代わって私一人で見送る事を謝罪致します」
「えっと、謝罪して頂く必要はありませんわ?」
「ああ、一国の王子にわざわざそこまでさせたら逆に申し訳ないと思う」
俺とナタリアの返答に、イバイが一瞬硬直した後そっと目を手で覆い天を仰いだ。
「大丈夫ですか……?」
「すみません……感動して……」
今の会話のどこに感動する要素があったのか分からないが、イバイが調子を取り戻すまでナタリアと静かに待つ。
「お待たせしてしまい申し訳ありません。もう大丈夫です」
こちらに深くお辞儀をしたイバイが再び歩み出したので、彼の後を付いて行く。しばらくすると、イバイが再び話し出した。
「……先程は失礼しました。殿下は連日女生徒に言い寄られ、約束も無く殿下にまとわりつく令嬢を帰す時私を含めた護衛が見送る事が多いのですが……『自分で見送らないなんてエリック様はレディーの扱いを分かってない』などと逆上する令嬢が多くて。謝る癖が染みついてしまったみたいです」
表情は見えないが、俺達の前を歩くイバイの背中からは哀愁が漂っており相当な苦労をしてきたのだと分かる。
「王族を相手にそんな事を要求する輩が居るのか……? 命知らずと言うか……」
馬鹿と言う単語が喉元まで出かかった。
「王立学園には貴族だけでなく平民の生徒も通います。貴族家の令息令嬢が家の力を振りかざして平民生徒を虐げないため、学園では学生が皆平等という決まりがあるんです」
こちらに振り返りながらそう言ったイバイは苦い表情をしている。
「そして、学生平等を曲解して好き放題する生徒が一定数います」
「それでも、王族を相手にそんな……学園内での行いが学園外や卒業後の自分に不利益をもたらすかもしれないと思うと、私なら恐れ多くてそんな事できませんわ……」
ナタリアの言う通りだが、好き放題しているのは恐らくそこまで予見できない生徒達なのだろう。
「殿下は本当に、本当に苦労されていて……ずっと我慢していたのですが、限界を迎えかけた時アルフォンソ殿下からの報せでデミトリ殿がアムールを訪れると知り、すぐに我々従者団に相談されました」
「俺が護衛として同行する件についてか……?」
「はい。デミトリ殿が仰ってくれたように自分の我儘で我々が気分を害さないか心配して……我々としては殿下の心の平穏が最優先ですし、そのように心を揉ませてしまったのが申し訳ないぐらいだったのですが」
学園の門に辿り着き、イバイがこちらの方を向いた。
「デミトリ殿。殿下の願いを聞き入れて下さりありがとうございます。殿下の事を何卒宜しくお願い致します」
イバイに応えるために、いつか見たラウルを真似て胸の前で右腕を折りヴィーダ王国流の敬礼をする。
「護衛の任を引き受ける以上、イバイ殿や他の護衛達の分も含めて護衛中は全霊を尽くしてエリック殿下を守る事を約束する」
「!! ありがとうございます!」