「俺は誰かとパーティーを組むつもりは無いから他を当たってくれ」
「そこをなんとか!!」
「腕を掴むな」
縋って来たカリストを振り払うと、大げさにのけぞったあと地面に倒れて目に涙を溜めながら上目遣いでこちらを見上げて来た。
「……何を考えてるのか分からないが逆効果だぞ」
「僕のベイビーフェイスを見て心を揺さぶられないなんて……!」
「ねぇ、もう行こうよ」
「ピ!」
「そうだな……」
「待って! お願いだから話だけでも聞いて!! さっきのお礼にお茶でも奢るから!!」
叫びながら土下座をし始めたカリストから目を逸らしヴァネッサの方を見る。ヴァネッサも、彼女の肩に止まったシエルまでも感情が抜け落ちたかのように熱のない瞳でカリストを見下ろしている。
「……話を聞いた後デミトリが断ったら、もう付き纏わないって約束できますか?」
「っ!? もちろん!!」
「どうする、デミトリ?」
「……話を聞くだけだからな」
――――――――
商業区域の中心に近い大通り沿いのカフェのテラスで、溶け切らない量の砂糖をカップにいれてスプーンでがりがりと必死に混ぜようとするカリストを眺めながら思わずため息を吐く。
横並びで座ったヴァネッサと顔を見合わせてから、互いにテーブルに出された珈琲を取り嗜みながらカリストが話し出すのを静かに待つ事にした。
「中々溶けないな~、砂糖じゃなくてはちみつがあるか聞けばよかった」
「……俺達は珈琲を飲み終わったら店を出るからな」
「え!? 前から思ってたけど余裕が無さ過ぎだよ、コミュニケーションを楽しもうよ!」
「そのこみゅにけーしょんとやらを楽しむ相手を選ぶ権利だってあるだろう」
ちらりとヴァネッサの方を見て目配せをすると、カリストには気づかれないように小さく頷き返してくれた。カリストがおそらく異世界人なのは事前に共有していたので、俺がわざとらしく前世の言葉をなまらせながら話した意図も理解してくれているはずだ。
「この世界の人達はみんな余裕が無いよね、こんな面白おかしい世界に生まれただけでラッキーボーイなのに……」
――魔物や魔獣に襲われず、生まれた国にもよるかもしれないが生活の安全がある程度保証された前世で過ごした世界のほうが断然ましだと思うが……。
「……そろそろ本題に入ってくれないか?」
「せっかちカチカチだねぇ……もう一度聞くけど、僕と冒険者パーティーを組んでくれないかな?」
「断る」
「……本当に? あんな運命的な出会いをしたのに?」
運命的な出会い……?
「たまたま夜間警邏の依頼で巡回していたお前にちょっかいを出された事のどこが運命的なんだ」
「だってあんなにド派手な戦闘をしたんだよ! お互いを認め合うきっかけとしては――」
「戦ったのは俺とセレーナで止めてくれたのはヴァネッサだ。俺とお前が認め合う要素は皆無だろう」
「細かい事は気にせずフィーリングでいこうよ!」
話にならないな……。
「曲がりなりにもソロで銀級なんだろう? 俺なんかに拘らなくても他のパーティーから引く手数多なんじゃないか?」
「うぐっ、それは……」
痛い所を突かれたのか、カリストが苦々しい表情を浮かべた。
「デミトリはアムール出身じゃないんだよね?」
「そうだな」
「僕は……元々金級の冒険者パーティーに所属してたんだけど追放されたんだ」
セレーナから話を聞いていたから追放については把握していたが、一応あの件について確認しておくか。
「追放されたのに冒険者を続けられたのか?」
「え、何か勘違いしてない!? 追放された理由はギルドの規律違反とか犯罪行為じゃなくて、ただの仲違いだからね!? 重い方の追放じゃなくて、軽い方の奴だから!!」
追放に重いも軽いも無いと思うが……以前マルコス達に説明を受けた追放は正式な冒険者ギルドからの追放で、カリストがされたのはパーティーからの解雇のみと言う事かもしれないな。
「ようは首を切られたと言う事だろう? 金級パーティーから解雇されるなんて余程の事をしたんじゃないか?」
「うーん……したっていうか、僕のサポートがなかったことにされたというか……とにかく、追放された後誰かが僕の真価に気付いて声を掛けてくるのを待ってたんだけどアムールの冒険者達からは避けられちゃって――」
「それで外国から来た俺に目を付けた訳か……事情を知らず色眼鏡で判断しない相手を探しているなら別に俺に拘らず他国に行けばいいんじゃないか? 隣国のハラーンなんてどうだ?」
「勇気を出して自分から誘ってみたのに冷たい……! でもアムールでパーティーを組めないならそうなっちゃうよね~」
さりげなくヴィーダを選択肢から除外してハラーン行きを勧めてみたが、カリストの反応からして彼もアムールでの活動には限界を感じていたみたいだ。