「ちょっと、壊さないでよ!」
「……腹立たしいわ、こんな小悪党相手に……!」
闘技場で戦うデミトリの様子を水面から眺めながら、勝手に座った私の玉座のひじ掛けを破壊しそうな勢いで握るトリスに抗議したけど全く聞く耳を持ってもらえない。
身体に収まりきらない怒りを吐き出すかのように、デミトリが戦っているレイモンドって小物に罵詈雑言を浴びせかけるトリスを見て呆れてため息を吐く。
「散々私にはちゃんと説明しろって言ってたくせに……神呪とトリスの加護があるから石化の邪眼みたいな存在を書き換える異能は効かないって事前に言えば良かったじゃん」
「それは……!」
私に指摘されるとは思わなかったのか、大口を開きながらトリスが驚愕の表情を浮かべる。
「っ……聞かれたら答えていたわ」
「はぁ~気持ちは分かるよ? あんまり認めたくないけど愛し子への干渉の仕方は私達考え方が似てるし」
「……ミネアと一緒にしないで……」
口では強がってるけどトリスの声に覇気が無い。認めたくないだけで、トリス自身が私の言ってる事が合っているのを一番良く理解してる。
繋がりを利用して見守るという一点を除けば、私は過干渉を極端に嫌う神に分類される。
トリスにネチネチと説教された、ヴァネッサに加護と神呪の説明をしなかったのも……愛し子にした時点で矛盾してるけど、私に縛られず人生を謳歌して欲しい一心から。
トリスも私に似てて、なんでもかんでも教えてあげたり神が介入して解決するのは愛し子の為にならないって考えてる。
私達が好き放題したら……他の神からいろいろ言われたり止められるかもしれないけど、それこそ国どころか世界を壊すことだって出来てしまうから。
デミトリの性格も相まって、トリスはどこまで手を差し伸べて良いのか分からなくなってるのかもしれない。
「私の方から一方的に色々と教えたり手助けし続けたら……デミトリの人生はつまらないものになるわ」
「それは私も否定しないけど……もう! そんなことより繋がりを通じて見守る許可は貰ったんでしょ? 武闘技大会の試合もわざわざ私の領域に来ないで自分で勝手に見ればいいのに」
見下ろす私に上目遣いをしながら、トリスが弱弱しく呟く。
「一人で見守ってたら助けちゃいそうだから……」
「……私に止めろって事?」
「……」
――仕方がないなぁ……。
「せめて玉座を返して」
「……一緒に座る?」
「もうそれでいいよ……」