「――それでね、魔術士とニ対一だったにも関わらず戦って勝ったんだ! 一人は不意打ちで倒したらしいのが少し残念だけど、中々見込みがあるよ彼は!」
「ふーん……」
こんなに嬉しそうなフリクトは久々に見る。真っ赤な瞳を輝かせながら、デミトリという青年について熱心に語り掛けてくる。
「ヴィセンテから聞くだけじゃなくて、僕も直接見たかったよ!」
「加護をあげてないし、愛し子でもないから無理でしょ」
「それはそうだけど……サシャはあまり彼に興味がないの?」
――私は……
「あの子達の事を、頼りになりそうな子に任せられるのは良い事じゃない?」
「……魔法は?」
フリクトが困った顔をする。
「うーん……彼は魔力は多いけど魔法が使えないみたいなんだ」
「……魔法も使えない奴にカテリナを任せられないわ!」
「心配する気持ちも分かるけど、少しずつドルミル村に近付いてるみたいだし。それに彼は善意で動いてくれてるんだ、過度な期待をするのは酷だと思うよ?」
「自分は神呪を贈ったくせに……」
カテリナ達についてフリクトが話してくれた日、彼が妙な事を口走っていたので問い詰めたらすぐに神呪を贈った事を白状した。
「本当に大事な時に逃げ出さずに立ち向かえるように、エールを送っただけだよ?」
「魔法も使えないのに神呪のせいで危険な目に遭ったらどうするのよ!」
「やっぱりサシャはやさしいね、心配しすぎだよ! 戦う相手の調子がたまたま絶好調だったり、ちょっと格上と戦う可能性が上がるだけだよ? 逃げたら大変な目に会っちゃうかもしれないけど、逃げなければ良いんだから」
能天気なフリクトの返答に、頭痛がする。
――脳筋め、ヴィセンテがあの神呪のせいで何回死にかけたと思ってるの!?
「ほら、おいで」
フリクトの腕の中に収められ、苛々が最高潮に達する。
――抱きしめればなんとかなると思って……! 神呪のせいでカテリナ達の恩人が死んだらどうするのよ!
神力を贈り物に込める。
「……流れ出るのは己の血か、魔力か、選択せよ……」
「何か言った?」
「ふんっ」
――――――――
神呪:水呪魔濁
力を持て余す愚者の魔力に、水神の呪詛が混じり合う。うねる魔力の奔流に飲み込まれたくなければ、水を制する他道はない。