「……聖女か賢者のどちらかの事をユウゴが好いていたら多少光明が見えたんだが」
「え、どうして?」
「思いを伝えて両想いになれれば、取り敢えず二人の内一人は元の世界に帰る事になったとしても旅に同行してくれるだろう? どちらとも付き合うつもりが無いのであれば、妙案はすぐに思い付きそうにもないな……」
「うっ……そこをなんとか……!」
もう少し自分でも考えてみないかと提案し掛けたが、ユウゴの悲壮感溢れる表情からして一人でずっと考えた結果答えが出なかったに違いない。
聖女と賢者が魔王討伐の旅への同行に協力的ではないのが、本当にユウゴとこの世界で結ばれたいからなのであれば……俺が即席で考えられる方法だと確実に誰かが不幸になるが……。
「……多少の犠牲は厭わないのであれば、一応案はある」
「なるべく三人全員が納得した上で帰れる道が望ましいんだけど」
「勿論俺もそれが一番良いと思う。だが聖女と賢者がこの世界に残る事を望んでいる以上、全員が幸せになる魔法の様な解決策はないと思うぞ?」
「そうだよね……」
ユウゴも心の奥底ではそんなに都合の良い方法がないと気付いていたんだろう。俺と話す事で万事解決するような事はないだろうが、相談に乗る事で彼が前向きになれる事を祈るしかないな。
「念のため確認するがユウゴが元の世界の事を大切に思っていて、家族や友人の事が気掛かりで帰りたいという事はちゃんと伝えているのか?」
「うん。二人からこの世界に残ろうって言われた時、話したら分かってくれるって思ってちゃんと説明したんだけど『私達とここに残ろう』の一点張りで話にならなくて……」
二人から言われた……??
聖女と賢者は恋敵のはずだが、結託しているのだとすると想像以上に面倒な状況らしい。何を考えているのか全く見当が付かないな。
いずれにせよ、ユウゴが大切に思ってるものを諦めて自分達の思い通りに行動してくれないなら魔王討伐に一切手を貸さない姿勢を貫くあたり、二人共中々いい性格をしていそうだ……。
「聖女と賢者の事を一番良く分かっているのはユウゴだ。他人の俺がどう説得すればいいのかを説いてもあまり意味が無いだろう。だから俺からは彼女達の意志を一切考慮しない案しか共有できないが……それでもいいか?」
「……一人で考えるのは限界だったから、ぶっちゃけどんな案でも助かる!」
「そうか。真っ先に思いつくのは一緒にこの世界に留まると嘘を付いて魔王討伐に同行させる方法だが……なぜ元の世界に帰りたいのか説明してしまった上に、一度彼女達を拒絶しているから信じてもらうのは至難を極めるだろうな」
「多分信じてもらえないと思う。俺、嘘を付くとすぐにばれるんだ……」
ユウゴは人を欺くのが得意ではなさそうなのは何となく察していたが、この案がだめとなるとかなり困るな……元の世界に帰った後揉めるだろうが、一番聖女と賢者が傷付かない案だ。
「……そうなると従わざるを得ない状況を作るか、二人の事は諦めて他に仲間を募る事位しか正直思い浮かばないな」
「実際、ディアガーナ様の天啓に縋って最後の案を実行しようとしてたんだけど……従わざるを得なくなる? 案について詳しく教えてくれないかな?」
無理やり従わせる事については考えが及ばなかったか……。
「何と言って魔王討伐の旅に同行するのを逃れているのか分からないが、子供が思い付くような言い訳だろう? どうせ賢者は『魔王に対抗する魔法の研究をする事』、聖女は『魔王の脅威からガナディア王国を守るために祈りを捧げる事』を天啓で命神に命じられたとでも言っているんじゃないか?」
「細かい部分は少し違うけど、ほぼドンピシャ……」
「そしてユウゴは二人を拒絶してしまった負い目から、彼女達が嘘を付いているのを指摘する事が出来ないといった所か?」
「うっ……」
痴話喧嘩が原因で滅ぶ道を辿るかもしれないとは、ガナディア王国の事は別に好んではいないが少しだけ同情できるな。
「……俺も勇者の使命については詳しくは知らないが、魔王討伐の要は勇者のはずだ。ユウゴの方が発言権が上だろう?」
「そうだと思う」
「であれば、二人が命神に逆らって偽りの天啓を理由に勇者の使命に同行していないと告発すれば、ガナディア王国は彼女達の首に縄を掛けてでも旅に同行させるんじゃないか?」
「でも、そんな事をしたら二人は――」
ただでは済まされないだろうな。
縄ではなく、隷属の腕輪を付けられて無理やり従わせる位平気でされそうな上に、魔王討伐後の扱いも酷いものになる可能性が高い。
「どん底まで落とされれば魔王討伐後この世界に留まろうなどと考えず、素直に元の世界に帰るかもしれないが……それでもこちらに留まる事を選んだら相当悲惨な目に遭うだろうな」
「……」
「デミトリ殿!!!! 無事か!?」
「アルセ殿!」