「夜番は私とユウゴが引き継ぐから寝てても良いわよ?」
「ユウゴ殿に夜番をさせて我々が寝ているのをあの二人に見られたらまた揉める事になるだろう」
アルセは微妙な反応を示したが、対策部隊の指揮を任せられている彼に徹夜をさせる訳にもいかない。
「アルセ殿、寝ずの番をするのは違うだろう? 心配なら俺が起きておく――」
片手を上げてこちらを制止した、般若の様な表情を浮かべたアルセに睨まれ黙る。
「どちらかが休むのだとすれば、休まなければいけないのは自分だと言う事をデミトリ殿には自覚して欲しいな?」
「す、すまない……」
「ふふ、青春ね。あの子達の事を思い出すわ……」
俺達が休みそうにも無いのを察して、ユウゴと共に焚火の横に備えられた倒木にレオが腰を掛ける。
――あの子達……? そう言えば――。
「レオちゃんはパーティーで冒険者として活動していると聞いたんだが、仲間達とは王都で合流するのか?」
「……私は勇者の使命に同行って決まった後、パーティーを解散したの」
「! もしかして俺のせいで――」
慌て出したユウゴの横でレオが安心させるように首を横に振る。
「ユウゴのせいじゃないわ。私、発情バイクロップスなんて不名誉な二つ名を付けられてるじゃない? 妙な噂を流されたり色々と仲間達にも迷惑を掛けちゃってたから、元々折を見てパーティーを解散するつもりだったの」
寂しそうにそう言いながら、レオが遠くを見つめて語り続ける。
「私と一緒に組んでるだけで変な噂が流れちゃうんだもの……嫉妬とやっかみには本当に困っちゃうわ」
「「「……」」」
全員反応に困って黙ってしまったがレオの格好については突っ込まない方が良いのだろうか……?
女性的な口調とかなり特殊な見た目からは、アルフォンソ殿下が噂されていると言っていた「女癖が悪い」という印象は微塵も抱かないが……違う意味で噂が流れそうではある。
「あの子達はもう十分強くなったし私が居なくても大丈夫だから、そろそろ冒険者業も潮時かもしれないって思った矢先に今回の誘いを貰ったの。ソロになっちゃったけど、冒険者人生最後の大仕事に丁度良かったわ!」
「そ、そうならいいんだけど……」
ユウゴが悶々としているのに気付いているのか分からないが、レオがこちらに体を向けて強引に話題を切り替える。
「それにしても、さっきユウゴに死体を見せてもらったけどデミトリちゃんは良く鬼と一対一で無事だったわね?」
「あー……まともに戦闘せず逃げ回っていただけだからな。攻撃しても傷一つ付けられなかった」
「もう、変な謙遜は逆に嫌味だと思われるわよ? 鬼と対峙したら並みの人間は逃げられずに殺されるだけなんだから」
『無駄に謙遜するな、人によっては嫌味だと捉えられるぞ?』
いつかマルクに言われた事と似たような事を言われ面食らう。
「すまない、そんなつもりは無かったんだが……」
「鬼と渡り合えて、私の事を知ってたって事はデミトリちゃんも冒険者なのかしら?」
「一応銀級のソロ冒険者だ」
「銀級……??」
途端にレオの目付きが鋭くなり、穏やかだった空気に緊張感が走る。
「最後に依頼を請けたのはいつ?」
「確か、数週間前コルボの討伐依頼をアムール王国で請けたが――」
「その前は?」
「その前は……記憶が曖昧だが、メリシアの街でタスク・ボアを納品した」
「タスク・ボア……」
腕を組みながら何か思案するような仕草を見せたレオが、真剣な表情でこちらに問い掛けて来る。
「私が推薦状を書いてあげるから昇級試験を受けてみないかしら? 最低でも金級以上の実力があるのは私が保証するわ」
「レオ殿!?」
アルセが突然の申し出に驚愕しているが無理はない、そもそも俺が戦ってる所を見たわけでもないのにそう言い切れる根拠が分からない。
「鬼と対峙して生きて帰れる実力があるのに、銀級で燻ってるのはもったいないわよ?」
「俺は色々と面倒な立場なんだ……冒険者登録をしたのも命じられたからで、冒険者として大成するつもりはない」
「そうなの……? 私もギルドと仲間の反対を押し切ってパーティーを解散して、今回の依頼が終わったらそのまま引退するつもりだから、他人の冒険者人生についてとやかく言える立場じゃないかもしれないけど……んー……」
考え込んでしまったレオの横で再びユウゴの表情が暗くなる。
「……やっぱりレオの仲間はパーティーを解散するのに反対だったの?」
「反対してたのは否定しないわ……部外者になんて言われても構わないって引き留められたけど、年頃の女の子達がいつまでも私なんかと一緒にいるせいで謂われない中傷を受けるのを私の方がもう耐えられなかったの」