「レオは中々いい事を言うね!」
フリクトがデミトリ達の事を観察しながら興奮してるけどその様子を見てるトリスの目は座ってる。
腕を組みながら苛立ちを隠せずにいる彼女の神経をこれ以上逆撫でないように、何回かフリクトの脇に肘を入れるけどびくともしない。
「ちょっと、フリクト……!」
「やっぱり戦士は戦いの中で成長する。己の肉体を――」
「感心してないで、約束通りデミトリの神呪を解いてくれないかしら?」
業を煮やしたトリスが繋がりを閉じちゃった……デミトリがあれから元気にしてるのか気になってたから、一目見れただけでも嬉しいけど。フリクトのせいで見守る機会を失って私もイライラが募っていく。
「……さっき言い掛けたけど、戦士として成長するには強敵との戦いは必要不可欠で――」
「次の強敵を倒したら解呪するって約束したわよね? 幽氷の悪鬼を倒したから条件は満たしてるでしょう?」
「でも……魔法しか使ってなかったし、止めもユウゴが刺したよね? 僕の神呪を解くには不十分なんじゃないかな~なんて――」
調子のいい事を言って……! 激昂したトリスの神力が膨れ上がっていくのが分かる。
「私に嘘を付いてただで済むと思ってるのかしら? ……消すわよ?」
「ご、ごめん! すぐに解くから!」
フリクトは昔からトリスの事が苦手そうだったけど、闘神が聞いて呆れちゃうわ……最初からダメ元で聞いてみるつもりだったのか、物凄い変わり身でフリクトが早速解呪を開始した。
「全く……」
「ごめんねトリス、これ以上ちょっかいを出さない様に私がちゃんと見張っておくから」
「ありがとう。ディータスの件でも迷惑を掛けてるのに申し訳ないわ」
「気にしなくていいわよ。遊び相手が出来てフリクトも喜んでるし」
「お前、ら……覚えてろよ……」
フリクトとの手合わせで満身創痍の状態で、一部始終を床から眺めてたディータスから恨み言が聞こえて来たけど無視する。そんな事より――。
「あの……今更だけど私の神呪は良いの?」
「フリクトの神呪のせいでデミトリが死なない様に、数段強い神呪を授けてくれたのよね? 今の段階でデミトリは解呪の条件を満たしてないから無理やり解呪したらサシャの負担になるわ」
「でも……」
「サシャが授けた神呪の内容は誰かさんと違ってちゃんと考えてくれた物だから悪影響がないし、自然に解呪条件を満たすのを待った方が良いと思うわ」
優しい声音でそう言われて少しだけ気持ちが楽になる。出会った順番は前後しちゃったけど、ずっとトリスの愛し子に勝手に神呪を授けている状態なのが気になってた。
「いずれにせよ、このまま魔術士としての腕を伸ばしていけば解呪できるのもそう遠くない未来じゃないかしら」
「うん! 私の愛し子……カテリナに似て水魔法の才があるのは私が保証するわ。このまま極めて行けば――」
「小僧は一旦魔法よりも、肉弾戦に慣れた方が良いと思うぞ」
「……あなたにデミトリの何が分かるのかしら?」
横やりを入れて来たディータスの発言を聞いてトリスの声に険が戻る。話が纏まりかけてたのに余計な事を言わないでよ……!
「俺が誰なのか忘れたのか? 欲神だぞ?」
「欲神であっても私の愛し子が何を求めてるのか、知ったような口を利いて欲しくないわね」
「欲が視えるんだから知ったような口じゃなくて知ってるんだ」
地べたに這いつくばって、思いっきりトリスに見下されてるのに何でそんなに自信満々なのよ……。
「小僧が心の奥底から求めてる安寧を手に入れるためには魔法だけじゃ明らかに足りない。鬼を一人で倒せない程度の魔法の腕なら、尚の事体を鍛えとかないと死ぬぞ」
「ディータスは分かってくれるんだね!!」
解呪を終えたフリクトがディータスの元に駆け寄って熱く抱擁する。
まだ抵抗できるほど体力が回復してないディータスが、人形の様にぶんぶんと振り回される姿を見て気が抜けたのか、少しだけトリスの神力も収まってく。
「寄るな鬱陶しい!! 俺はお前と違って偏った考えじゃないからな!? 均等に能力を伸ばした方が良いって言ってるんだ!!」
「ちっ……ディータスの癖に」
「小僧には一応恩があるし、親切心で忠告してやってるのに舌打ちするのは違うだろ!」
「僕と拳を交えたからディータスは理解してくれるんだね、嬉しいよ……!」
「違ぇよ話を聞け馬鹿野郎!!」
「はぁ……」
ため息を吐いて、もみくちゃになってるフリクトとディータスに背を向けたトリスが転移用の闇を出現させた。そのまま帰っちゃうのかと思いきや、闇に消え入る直前で足を止めてこちらに振り返って問いかけて来る。
「サシャはどう思う?」
「……私の好みで言ったら水魔法を極めて欲しけど、それがデミトリにとって最善なのかどうかは分からないわ。そう言う意味では、私とフリクトは似た者同士で考えが両極端だから……悔しいけどディータスの言ってるみたいに均等に伸ばすのは一理あると思う」
「そう……ありがとう。参考にするわ」
満足な答えになってないと思うけど、トリスはそのまま帰ってしまった。
「トリスはああ言ったけど、よくよく考えるとそうしたら器用貧乏になって勿体ないよ!」
「フリクト、今の言葉を取り消せ……!!」
もう……! この二人はいつまで喧嘩してるのよ!
「なんでさ?」
「俺は器用貧乏って言葉が大嫌いなんだ」
「大多数の人間がそうしようとしたら器用貧乏になっちゃうのは事実でしょ?」
「ちっ、ふざけるなよ! 何が器用貧乏だ……魔法も肉弾戦も両方極める位欲張って何が悪い? 勝手に無理だと決めつけて欲を捨てる行為が一番腹が立つんだ」
ディータス……。
「二人共頭を冷やしなさい……フリクトは謝って、ディータスは落ち着いて」
「ちょ、サシャ!? 僕の味方じゃ――」
「フリクト。デミトリの事がお気に入りなのは分かるけど、だったら猶更ディータスの言い分を聞くべきよ。デミトリは魔法も戦闘の技術も、磨けば極められるってディータスは信じてるって事でしょ?」
「……ふん」
「ディータス……! ごめん、そういう事だったんだね!」