「まだまだいけるわ、内なる獣を爆発させるのよ!」
「そんな物は居ない!!」
デミトリさんとレオが手合わせを始めて数時間が経った。本当に朝までやるつもりなのかな?? デミトリさんは疲労を押してなんとか喰らいついてるように見えるけどレオは汗一つかいてない。
「二人共すごい体力ですね」
「ああ。幽氷の悪鬼との戦闘もあったのに、レオ殿とこれだけ手合わせを続けられるとは……それでもデミトリ殿は自分が弱いと思っていたのだから、本当に不思議としか言いようがないな」
「……」
アルセ様とレオはこの世界の出身だからデミトリさんと感覚が違うのかもしれない。レオがデミトリさんを叱咤してる時は口を挟まなかったけど、デミトリさんの考え方と俺の考え方は結構似てるんだよな。
俺は勇者の加護があっても戦うのが怖いし、元の世界に帰るために嫌々魔王討伐の旅を続けてるけど……デミトリさんは加護を貰えなかった上に、俺とミコトとリサが授かるはずだった呪いまで押し付けられた状態で転生させられたって言ってた。
しかも何があったのか詳しくは教えて貰ってないけど、ガナディアの人達がデミトリさんの悪口を言ってる人を何回か見かけたし、亡命したってことはガナディア王国で相当嫌な思いをしてたってことだよな……?
そんな生い立ちなら自己評価が低くて、石橋を叩いて渡る様な戦い方になっても仕方ないと思う。
「ともあれ、レオ殿に指導してもらい前進できそうで本当に良かった。レオ殿に巡り合わせてくれたユウゴ殿にも感謝しないといけないな」
「そんな、俺は何も……」
アルセ様は貴族なのに、俺の砕けた敬語も全然気にしてないし本当に気さくな人だな……俺が急に現れてからずっとデミトリさんの事をフォローしてくれてた王家の影の人達もそうだけど、デミトリさんの周りは気持ちのいい人達ばかりだ。
――だめだ。
今までの付人やリゲルとジョンと比べちゃって、やっぱりレオだけじゃなくてデミトリさんも旅に来てくれたら良いのに……そんな我儘な気持ちが芽生えそうになったのに気付いていつもの癖で掌を抓る。
「……ユウゴ殿、後数時間もすれば日が昇ってしまう。そろそろ休まれてはどうだろうか?」
あちゃあ、見られてた……アルセ様に気を遣わせちゃったな。
「大丈夫ですよ! 勇者は丈夫なんです。それに、一応回復魔法が使える俺が居た方がいいじゃないですか?」
「気を遣って貰って申し訳ない。ありがとうユウゴ殿。ただ、くれぐれも無茶はしないで欲しい」
俺の無茶なお願いと相談を親身に聞いてくれたデミトリさんにも、デミトリさんの事を心配してるアルセ様にも迷惑を掛けたくない。
それに……デミトリさんの話を聞いて、ディアガーナ様の事を信じ続けても良いのか分からなくなった。
『簡単に言うと生贄だな。そんな俺が勇者パーティーの一員なはずがない……命神は嘘を付いているか、事実を曲解しているか、情報を秘匿して良いようにお前に伝えている可能性が高い』
デミトリさんについて重要な情報を隠す事を何とも思ってないなら、ディアガーナ様は他にも俺に嘘を付いたり隠し事をしてるかもしれない……それなのに、俺は夢で天啓を授かったらその通りに行動しないといけない。
今回の天啓は『幽氷の悪鬼を討伐してデミトリを勇者一行に勧誘する事』だった。
絶対に俺が倒さないと! って、自分でも良く分からない強迫観念に囚われて幽氷の悪鬼をキルパクしたけど……また新しい天啓を授かって『デミトリを仲間にする』って命じられたら、自分の意志とは裏腹に行動しちゃう可能性がある。
「……ディヴァイン・ヒール」
「ユウゴ殿? 怪我を……?」
急に回復魔法を俺と、ついでに横に座ってるアルセ様に掛けた事に驚いたアルセ様を安心させるために首を振る。
「アルセ様も眠いですよね? 回復魔法を掛ければ、ある程度眠気も覚めるので」
「わざわざすまない、ありがとうユウゴ殿。助かったよ」
夢の中でしか天啓を授からないなら、しばらく寝なきゃいい……徹夜も慣れてるし、回復魔法を使えば結構いけるはずだ。
なんとか頑張って寝ずにガナディア王国まで戻ったら、流石にディアガーナ様もデミトリさんを巻き込もうとするのを諦めてくれる……よな?