「……」
「わざわざ私の領域にまで来て黙ってるなんて貴方らしくないじゃない。いつもなら聞いてもない講釈を垂れるくせに不気味ね」
自ら封印されてから話してなかったけど、ここまで拒絶されてるとは思わなかったわ……。
「……デミトリにユウゴを助けるように言って欲しいの」
「第一声がそれなのね、飽きれちゃうわ……今更デミトリに何をさせるつもり?」
「今は貴方の愛し子かもしれないけど、デミトリは元々――」
「貴方の部下のピィソシットとクーラップに人生を滅茶苦茶にされた被害者でしょう?」
「ぐっ……」
当然だけど、デミトリの記憶を辿って事態を把握してるみたいね……。
「……色々と手違いがあったのは認めるわ。でも今はそんな事を気にしてる場合じゃ――」
「そんな事……」
トリスティシアの深紅の瞳が熱を失くし、蔑む様に玉座からこちらを見下ろして来る。
「分かるでしょう? このままだと――」
「魔族に人が滅ぼされるって言いたいの? それがどうかしたのかしら?」
「……!? 人類が滅ぼされたらデミトリも――」
「勝手に私の愛し子の行く末を決めつけないで欲しいわ……」
急激に膨れ上がったトリスティシアの神力の影響で領域の境界に無数の罅が広がる。
「トリス、落ち着いて……!」
「落ち着いて……??」
領域を囲う結界がトリスの神力に耐えきれず、砕け散った境界の先に光を呑み込む深淵が広がる。
「私が勇者召喚を担当した時、私の愛し子が窮地に追いやられた時……『生きとし生けるものは皆平等』って綺麗事を言って手を貸してくれなかった癖に。自分の愛し子が勇者になった途端当たり前の様に助けを求めるなんて、随分と都合の良い尺度で物事を測るのね」
「違うわ! あの時は――」
「どうせ『仕方が無かった』って言うんでしょう? その言葉をそのまま返してあげるわ。ディアガーナ、あなたの愛し子に何があっても仕方無いわ」
「……」
寝る事を拒否してしまって神託を授けられないユウゴと、魔王討伐の旅に非協力的な聖女と賢者。このままじゃ本当に……。
「トリス。正義神のあなたにもう一度お願いするわ。正しい事をして……!」
「……誰かの正義は誰かにとっての悪なの。貴方は訴え掛ける神を間違えてるわ」