「我々を王都に送り届けるつもりが無いと!?」
「ユウゴ様!! 勇者の使命を愚弄するこの者達に鉄槌――モゴ!?」
「移動中に舌を噛んだら死んじゃうから、大人くしててね」
騒ぎが聞こえそちらに視線を移すと、猿轡をはめられ縄で縛られたリゲルとジョンを担いだユウゴと目が合った。
「おはようデミトリさん」
「ユウゴ……!?」
昨日今日とでレオのお陰で大分見慣れたが、紐パンツとしか形容できない鉄製の何かだけを着たユウゴがガチガチと寒さに歯を震わせながらこちらに近付いて来る。
まだそれなりに距離があるが、ここからでも彼の全身が鳥肌で覆われているのが分かる。
「レオさんにトレーニングしてもらうから、まずは形から入ろうと思って!」
「……その、寒いだろう? あまり無理をするのは――」
「無理してないよ! トレーニングだけじゃなくて、昨日有名税の話を聞いてこの格好なら色々と予防できそうだとも思って」
……ユウゴが納得しているのであればこれ以上言及するのは避けた方が良いのか? 俺とレオの手合わせに付き合わせて、寝てない為判断がおかしくなっていないか心配だが……。
「レオちゃん」
「心配しなくても大丈夫よ」
リゲルとジョンを降ろしているユウゴを見守りながらレオに小声で囁きかけると、思いの外優しい声色で返答が帰って来た。
「まだ出会ったばかりで事情は把握しきれてないけど、あの子かなり思い詰めてるでしょ? 今はユウゴの覚悟が揺らがない様に好きにさせてあげてるけど、鍛えた後はともかく今の段階で鎧を着てないのは戦闘になったら危ないでしょ? 気持ちが落ち着いたらちゃんと鎧を着せるわ」
「そ、そうか……」
鍛えた後でも鎧を着ないで戦闘するのはあり得ないと言いたいが、昨日手合わせしてレオの実力を知っている手前強く言い返せない
「このままだと魔王と戦う前にユウゴが凍え死んじゃいそうだから、私達は行くわね!」
「ごめん、急がせちゃって」
「いいのよ! それじゃあまたねアルセ様、デミトリちゃん」
「「んんんーー!?!?」」
レオがユウゴの降ろしたリゲルとジョンを結ばれた縄を掴んで強引に持ち上げ、騒ぎを聞きつけて駆け寄って来たアルセと俺に別れを告げた。
「その、達者でな」
「無事を祈っている」
「色々とありがとう、アルセ様、デミトリさん! またね!」
ユウゴを気遣ってか、レオが付人達を担いだまま走り出し後を追うようにユウゴが駆け出す。流石白金級の冒険者と勇者と言うべきか、身体強化を掛けた状態とは言え驚異的な速さで雪上で目立つ肌色の背中が小さくなっていく。
「デミトリ殿、本当に彼等は大丈夫なのか……??」
「多分、大丈夫だとは思うが……」