「……」
「ちょっと休みましょうか」
「え!? あ、うん」
王都まであとどれくらいだろう? デミトリさん達と別れてから数時間は移動してると思うけど……。所々雪が残っててとてもじゃないけど暖かいとは言えないけど、国境沿いと比べたら大分寒さもましになった草原の中心でレオが雑に担いでたリゲルとジョンを地面に落とした。
途中から何も言わなくなったなって思ってたけど、白目向いて気絶してる……。
「この子達もあの移動方法は少し刺激が強すぎたみたいね」
「国境に向かった時も抱えて移動してたけど、縄でぐるぐる巻きにしたのが良くなかったのかな?」
徹夜のテンションで思いっきり縛っちゃったけど、冷静になってみるとあれはやり過ぎだったかも。
「うん、命に別状は無さそうだし一旦忘れましょ! そんな事より――」
レオがこっちに寄って来て俺の肩を掴んだ。
「何をそんなに焦ってるの?」
「……焦ってないよ」
「ユウゴ、私を仲間だと思うなら安心させるために嘘を付こうなんて考えないで本当の事を言って?」
「だって……俺、レオとデミトリさんより弱いから……」
一晩中二人の手合わせを見て嫌と言う程それを自覚した。俺は勇者の特権なのか分からないけど強めの魔法と身体強化を使えるけどそれだけだ。
手合わせの合間で休憩を兼ねてデミトリさんに回復魔法を掛けた時、異能の事とか今まで戦った相手の話を少しだけ聞いた。
なんでも反射する異能ってなんだよ……。
その異能者と戦ったのが俺だったら絶対に詰んでた。そんな相手に普通に勝って、一目見ただけで俺よりも強いレオと当たり前の様に渡り合ってるデミトリさんと自分の実力の差に、どんどん不安が膨れ上がって行った。
「勇者だから自分は特別なんだって心のどこかで思ってたんだ……」
「……」
「でも、レオからほとんどの勇者が魔王と相打ちになったって聞いて気づいたんだ。一発当たれば魔王とか魔族を倒すのに特化した魔法を貰っただけで、俺は……」
……魔王さえ倒せればどうなってもいい、それこそ捨て駒なんじゃないか……?
「かなり深刻な悩みだとは思ってたけど、相当悩んでたのね……打ち明けてくれてありがとう、ユウゴ」
ぽんぽんと、俺の肩に乗せていた力強い手で叩かれてバランスを崩しそうになる。
「何も聞かされてないみたいだし、私が調べられた断片的な情報になっちゃうけど……今の内に勇者について教えてあげた方が良いわね」
「……調べた……?」
「それはそうよ! 私が冒険者になったのは勇者の英雄譚に憧れたからよ?」
「レオが?」
なんだか、失礼かもしれないけどもの凄い以外だ。
「勿論よ。男の子は誰しも勇者に憧れるでしょ?」
「はは、そうだね」
異世界召喚に巻き込まれた事は正直迷惑だったけど……『俺が勇者か』って少しだけワクワクしちゃったのは否定できない。レオの言う通り、男の子ならみんな自分がヒーローになるのに憧れてるのかも。
「大人になって、調べていく内に英雄譚に纏められた輝かしい活躍以外にも色々とあった事に気づかされたけど……私の知ってる事を全て教えるわ」
「お願い」
「でも相打ちになった勇者たちの話は後回しね。いずれ学ぶべき反面教師として彼等の失敗も教えるけど……まずは私が憧れた、魔王を倒して生き延びた最強の勇者達の話よ! 彼等に関する文献を調べ尽くして、更に私が考察した最強の勇者育成論を先に教えるわ! 加護を授かった神によって微妙に扱える力に差があったけど、基本的な能力には大きな違いは無いから――」
どこからともなくレオがメモ帳みたいな物を取り出して、ページを高速に捲りながら物凄い早口で語り始めた。
「ほ、本当に憧れてたんだね?」
「勿論よ! だからユウゴも安心して、私がいたら百人力って言ったでしょ? 今はまだ不安かもしれないけど、少なくとも私と同じくらい強くなるように鍛えるわよ!」
「れ、レオちゃんより? そこまでは――」
こんなことを言うのも本当に失礼だけど、レオちゃんに敵う未来が想像できない。今の内に訂正しないと……!
「――デミトリさんと肩を並べられるくらいの方が、まだ現実的じゃ――」
「デミトリちゃん? んー……」
そんなに変な事を言ったかな……? あ!?
「その、デミトリさん程度なら俺でも追い付けるみたいな失礼な考えじゃなくて――」
「大丈夫よ、短い付き合いだけどユウゴがそんな事を言う子じゃないのは分かってるわ。ただ、デミトリちゃんと肩を並べるのはちょっと難しいかもしれないわ」
「そうなの? レオちゃんよりも……?」
「あの子、魔力に呪力が混ざってるからだって言ってたけど私より魔力量が多いわよ」
「え!?」
手合わせ中に何回かレオちゃんが解放した魔力の余波を喰らったけど、あれ以上……!?
「戦闘経験と身体強化の乗ってない純粋な膂力ならまだ私が勝つけど、色々とコツを教えてあげたからそれ以外の能力は今後どんどん伸びるわ! 私も簡単に追い抜かれるつもりはないけど、ちゃんと鍛錬を続けたら次回手合わせをした時の結果は分からないわね」
「……!? でも、治療してた時ずっと『レオちゃんに敵う訳がない』ってうわ言みたいに――」
「あの子は勝手に自分の限界を決める悪い癖があるの。あの実力で小石を握りつぶせるわけがないって言ってたのが良い例ね。どこかで『普通の人間が出来るのはここまで』って線引きをしてて、その一線を踏み越えてしまうのを恐れてるような戦い方だったわ」
……転生者だからかな。正直、そんな事普通出来ないだろって思う気持ちはめちゃくちゃ共感できる。
「それって、デミトリさんに教えてあげた方が良かったんじゃ……?」
「それはデミトリちゃんの為にならないわ。急に自分の限界を決めつけるなって言われても困っちゃうでしょ?」
「確かに……」
「だから手合わせをして自分の限界を更新する方法を叩き込みつつ、大きな事故が起こらない様にある程度実力を把握するのを手伝ってあげたの。後は彼がそれを実践してくれるのを期待するだけよ!」