「あのままデミトリを帰しちゃって大丈夫だったかな?」
「問題ないでしょう。デミトリ殿をヴァネッサ嬢達に今すぐ会わせるのは得策ではありません」
イバイが言うなら間違いないんだろうけど……。
「……デミトリが言ってたみたいに、変に拗れる前に話した方が良くなかったのかな?」
「エリック殿下、女性が傷付いていたり……言い方が悪くなってしまいますが機嫌が悪い時、何も準備もせずに話し合おうとするのは一番の悪手です。そしてなぜ機嫌を損ねているのかもまともに考えずに、取り敢えず話そうとするのはもってのほかです」
普段怒られる時よりも一段と迫力があるイバイの様子に気圧される。ここまで力説するなら、やっぱり言う事を聞いてて良かったのかも。
「私もそれを学ぶまで、何度も失敗してきました……」
「イバイが? 奥様と凄く仲が良さそうなのに」
「私とアイリーンの関係が良好なのはこれまで様々な障害を共に乗り越えて来たからこそです。その道のりは決して平坦なものではありませんでした」
しみじみとそう言いながらイバイがソファに座ってる僕と視線を合わせる様に屈んだ。
「エリック殿下もいずれお分かりになる時が来ます。それこそ、セレーナ嬢と関係を深めたいなら今の内に学ぶべきでしょう」
「そ、え!? あ――な!?」
「常に御傍にいる私が気づかないはずがないでしょう……デミトリ殿を頼るのも良いですが、殿下から動かなければ一生関係の進展は望めませんよ?」
「っ……!?」
なんでそこまで――まさか!?
「イバイ以外にも知られてるの!?」
「それは……どうでしょう。少なくともデミトリ殿は気付いていると思いすが、彼以外に関しては正直分かりません」
「ぐ……」
そんな……隠せてたと思ったのに……。
「……気付かれてたんだ……その、諦めた方が良いと思う?」
「何を仰るんですか! ヴィーダ王国の第二王子と言う立場を懸念しているのであれば、アルフォンソ殿下がグローリア様と世継ぎを設けられるまで慎重になるのは分かりますが……その条件さえ満たされれば、エリック殿下が誰を婚姻相手に選ばれたとしても問題ありません」
「でも……」
「セレーナ嬢を好いているんでしょう?」
今更否定しても意味はないよね……。
「……うん」
「なら難しい事を考えるべきではありません。当たって砕けるべきです」
「砕ける前提なんだ……」
「言葉の綾です! とにかく、今のままでは関係を深められないのは明白でしょう? 本気で気持ちをぶつけられるつもりなら、私も全力で協力致します」
普段から頼もしいからこう表現するのは失礼かもしれないけど、イバイがいつもと比べて数割増しで頼もしく感じる。
「ありがとう、頑張ってみる!」
「その調子です殿下!」