「リーゼがすみません……」
「大丈夫だ。指摘された事は耳が痛かったが……正論だったし教えてくれて有難かった」
俺が言い訳じみた事を言ってしまう度にリーゼで正論で返され、ついには呆れて去ってしまうまで都市で仕事を探す方法をこんこんと説明された。
「リーゼも僕と同じ孤児院出身なんです。僕より年上だったのもあって、王家の影に拾われる前は孤児院の手伝いだけでなく働きに出てたので……少し熱くなってしまったのかもしれません」
「同じ孤児院の出身なのか」
「はい! 光神教が運営する教会付属の孤児院で育ちました」
久しぶりにその単語を聞き無意識に体が強張る。
「あ、気分を悪くさせてしまいましたか!? すみません! その、色々とあったのは分かっていますが光神教は――」
「あー大丈夫だ。むしろこちらの方こそ妙な反応をして申し訳なかった」
「本当に大丈夫ですか……?」
「嘘を付いても仕方が無いから正直に言うが、ラベリーニ枢機卿や聖騎士達のせいで光神教会に対して苦手意識があるのは確かだ。だが、頭では彼等が教会の中でも一握りの過激派だった事は理解している」
『ご存じの通り光神教会は孤児の保護、貧困層への炊き出しを含む支援と奉仕など建国した初代王の志を引き継いだ立派な組織です! 開戦派と無関係な教会関係者には手を出さないでください』
教会を滅ぼそうなどと、物騒な事を言い出したヴィーダ王とアルフォンソ殿下を諫めるために必死になっていたグローリアの発言を思い出す。
あの場では感情が昂っていたため極端な発言をしていたが……聡明なヴィーダ王や過去の王達が、教会が危険だと判断していたら野放しにはしなかっただろう。
国の宗教と定めて光神教会と今まで共存して来た時点で、ヴィーダ王家が開戦派とのいざこざが発生するまで問題視していなかったのは明白だ。
ラベリーニ枢機卿と言う前世で言う所の腐ったみかんが排除された今、光神教会をそこまで危険視しなくても大丈夫なはずだ。
「……良かったです」
「? まだ何か引っかかっているようだが?」
「デミトリさんみたいに、ラベリーニ枢機卿達と教会全体を切り離して考えてくれる方ばかりではないので」
「そうか……」
孤児院で保護して貰った恩義もあるだろう。今回の一件で光神教会に対するヴィーダ王国の市民からの信頼はかなり失墜しただろうし、カミールが思う所があるのは自然か……。
「でも取り返しのつかない事になる前に食い止められて良かったです! 教会が信頼を取り戻す道のりは長いですけど、教典にも書かれていた初代ヴィーダ王の格言通り『死ななきゃ安い、諦めなければなんとかなる』の心構えで頑張るしかないですね!」
……城塞都市エスペランザでミケルに渡された建国記を読み、初代ヴィーダ王が光神導かれていたと知った時から薄々疑っていたが、やはり異世界人だったみたいだな。
ガナディア王国の守護神として認められ、ユウゴを勇者として召喚する形で分かりやすく人の営みに介入している命神。ヴィーダ王国の守護神であり初代王を導いたと言われている光神も、何かしらの形で国の行く末に関与して来そうなものだが……俺の知り得ない所で介入しているのか……?
「……俺は光神や初代ヴィーダ王について建国記で呼んだ情報しか把握していないが、そんな格言を残していたのは知らなかった。光神教の経典には建国記よりも色々と情報が載っているのか?」
「歴史書に近い建国記と違って、教典はヴィーダ王国の建国に至るまでの初代王の冒険譚に近い内容も含まれているんです」
「なるほど……」
必ずしも同じではないかもしれないと思っていたが、前世の聖書に近いものなのか。
「もし教典に興味があるなら、ボルデでも教会に行けば購入できると思いますよ?」
「……そうだな。敬虔な光神教の信徒になるつもりはないが、ヴィーダで暮らす以上教典の内容は知っておいた方が良さそうだ」
また一つやる事が増えてしまったが……ここまで来たらもう腹を括るしかないだろう。暇を持て余すよりもましなはずだと割り切ってしまおう。
「僕も育ててくれた牧師様とシスターには恩義は感じてますし、孤児院を運営してくれてる光神教会に感謝こそしてますけど、敬虔な信徒じゃないので大丈夫ですよ!」
「違うのか?」
「はい! 身寄りのない僕やリーゼを助けてくれたのは神様じゃなくて牧師様やシスター達で、それが光神の教えのお陰って言われてもぴんと来なくて……」
……どういった経緯でカミールが孤児になったのかは分からないが、困っていた時に手を差し伸べてくれた牧師達ではなく、彼等が信奉する光神に感謝しろと言われても納得できない気持ちは何となく分かる。
「こんな事を言ったら罰当たりかもしれないですけど……僕、保護された後に教典の内容を読み聞かされて初代王に嫉妬したんです」
「……」
「未来の王族だから当たり前かもしれないですけど、初代王は特別で光神に導かれたけど、僕やリーゼには神様は見向きもしてくれないんだって考えると……」
「カミール――」
「あ、今はもうそんな風に思ってないので心配しないでください! それに、複数の神呪を授かってるデミトリさんの前で話すべきではなかったですね、すみません!?」
カミールが物凄い慌てようで頭を下げて来たので首を振って制止する。
「全く気にしていないから止めてくれ」
「でも……」
「それで言うと俺みたいな例が目の前に現れたんだ。神に妙に目を付けられたらどうなるのかが分かった分、初代王に嫉妬する気持ちなんか吹き飛んだんじゃないか?」
「え!? そ、そんな――その……デミトリさんの境遇を聞いて、ちょ、ちょっとだけ、そう思ったかもしれないです……」