「はぁ……」
想像していた以上にヴァネッサ達の事について悩んでいるのかもしれない。あの失礼な冒険者達への対応も平時ならもう少し穏便に……。
どうだろう? 本当に穏便に対応できただろうか……? 流石にあそこまで大事になる前に収められたはずだと思いたいが……。
全面的に奴らが悪かったことには変わりないが、冷静になってから振り返ると俺の対応も良くなかった。怒りに任せて魔力の揺らぎを放ちながら威圧しなければ攻撃して来なかったかもしれない上に、奴らの態度が不服だったとは言えこちらが折れて道を譲るなり……幾らでも穏便に済ませられたはずだ。
あれだけ苛立ってしまったのは呪力が精神に影響をもたらしていたからだろう。
「……」
今まで制御できていると思っていた呪力が、精神状態次第でいつでも牙を剥くかもしれない事実が重くのしかかる。改めて呪力と向き合わなければいけないのかもしれない……いつか調べるつもりで手を付けられていなかったが、これを機に呪力や呪術に関する情報を本格的に集めるべきか……?
なぜか未だに増えていくやるべき事に頭を悩ませながら、依頼票を片手にクリク草かもしれない植物を岩の上から摘む。
「……クソ、葉の形状が良く見ると微妙に違うな……」
ヒエロ山の麓に広がる森に入り、クリク草を探し始めて数時間経っているが今の所見つかる気配が全くしない。幸い朝一にギルドを訪れてその足でヒエロ山に向かったので、日が暮れるまでまだ余裕があるが……この調子で見つけられるだろうか。
生い茂った森の中でも日中光を浴びられる位開けた空間の、更に岩の上に生えているというかなり分かりやすい植生条件だったため、探すのにそれ程苦労しないと高を括っていた自分の考えの甘さに呆れる。
ある意味これは冒険者の等級が急激に上げられた弊害かも知れない……鉄級や銅級の冒険者として、採取依頼を何回か経験していればと考えてしまう程度にはクリク草の採取に苦戦している。
「……迎えに来て貰うのは明日ではなく、明後日の方が良かったかもしれないな」
「そんなに深刻そうにしてどうしたの?」
「!?」
寄り掛かっていた岩から飛び退いて周囲を確認するが誰も居ない。ゆっくりと腰に掛けた収納鞄に手を伸ばし始めたのとほぼ同時に頭上から笑い声が聞こえ、見上げると木の枝の上に誰かが居る。
「武器を抜こうとしてるの? 私も警戒した方が良いのかな?」
――何でこんな所に人が……。
目深に被った黒いフードのせいで良く見えないが、緑色の髪と褐色の肌、そして口元だけが確認できる黒装束はどこか王家の影と似た印象を受けるが明らかに装備が違う……まさか別の国の間諜――。
止めよう。
すぐに疑って掛かろうとした思考を無理やり停止させる。先程の冒険者達と同じ失敗は繰り返したくない……怪しすぎるが、見た目で判断せずにまずは話しが通じる相手か確かめるべきだ。
「……襲う気が無いならこちらから攻撃するつもりは無い」
「襲う気はないよ?」
「そうか……すまない。嫌な事があって、少し過剰に反応してしまった」
「嫌な事? せっかく森の中なんだから、深呼吸して嫌な事は忘れた方が良いよ」
「……そうだな」
目を閉じて、限界まで澄んだ森の空気を肺に満たしてから吸ってからゆっくりと吐き出す。
「ふふ、そう言われて素直に深呼吸する人はあんまりいないよ? でも悪い人じゃなそうでよかった」
「……俺は依頼を請けてこの森に来てるんだが、もしかして同業者なのか?」
「そんなところ」
詳しくは話すつもりは無いみたいだな……。
「君は何を探してるの?」
「……薬草を探している」
「手に持ってるそれも薬草だけど」
「そう、なのか……?」
「ポーションを飲んだことないの? 原型が無くなる位握りしめてるの、原材料の一つのペイス草だよ?」
無意識に拳に力を入れてしまっていたのか、確かに先程摘んだ薬草は掌の中でぐちゃぐちゃになっていた。
「勿体ない事をしてしまったな……」
「材料の中では一番手に入りやすいから部類だからそこまでに気にする必要ないと思うけど……さっきペイス草と全然似てない毒草も摘んでたけど、その調子で探し物は見つかるの?」
「え!?」
確かにペイス草を摘む前に、クリク草の説明に当て嵌まっていそうな草を摘んだがあれは毒草だったのか……。
「……薬草の採取がここまで難しいとは」
「依頼を請けてるんだよね? 手伝ってあげるから一緒に探そ」
「いや、迷惑をかけるのは――」
「手当たり次第に薬草を握り潰される方が迷惑だよ。必要な人が薬草を採取できなくなるでしょ?」
彼女も採取依頼を請けているのか? ……少なくとも俺よりは知識があるのは明らかだ。ここは意地を張らずに助けを求めた方が良いかもしれない。
「……すまない、手を貸して貰えると助かる」
「ふふ、素直なのは良い事だよ。探してるのはなんて薬草なの?」
「クリク草と呼ばれている薬草なんだが……」
「珍しいね。調合にもほとんど使わない草なのに……奇特な依頼主が居るんだね」
「用途については聞いてなかったが、そんなに珍しい物なのか?」
「え~、だれが何のために出した依頼か把握してないの? 悪用されたらどうするの?」
ギルドが精査した依頼だからと油断しきっていたが、確かに今回の依頼は納品物の特性や使用用途を一切把握していない。これから冒険者として請ける依頼を増やすなら意識した方が良いかもしれない。
「指摘の通りちゃんと確認するべきだったな……これから気を付ける。ありがとう、その――」
「自己紹介がまだだったね。私はミラベル」
「デミトリだ」