「ン゛ァ゛ッ゛、゛ガ゛、゛ッ゛ェ゛ア゛ァ゛ア゛ア゛!?」
チュパカブラが雄叫びを上げながら放った何かが地面を抉り、防御のために張った水壁が衝撃で歪む。
「ッ゛ェ゛ェ゛エエエエ!!!!」
「魔法が使えるチュパ・カブラなんてめずらしいね」
「感心している場合じゃないだろう……!!」
先程の攻撃が効いているのか、正確に俺に向かって放っている訳ではなくチュパカブラを中心に無造作に風魔法が飛んでいる。念のためミラベルの方を確認すると、木々の間を飛び移りながら攻撃を躱していた。
「弱ってるからもう一回殴れば倒せると思うよ?」
「……」
ミラベルの発言を聞いて収納鞄に伸ばしていた手を止める。
『攻撃が通じるなら、基本的には相手の攻撃をある程度防御できるって考えても良いわ。でも無理は禁物よ!』
レオの教えを忠実に実践するのであれば、攻撃だけでなく防御も身体強化以外の魔法に頼らない状態で通用するのか検証するべきかもしれないが……どこまでが『無理』の範疇に入るのかが分からない。レオは実践を繰り返して感覚を掴むしかないと言っていたが――。
「メアアアアアア!!!!」
魔法を放つのを止めて、叫びながら立ち上がったチュパカブラと目が合う。糸の切れた操り人形の様に首を垂らしながら、真っ赤に染まった瞳を器用に動かして俺の方を見ている。
「メェエエ!!!!」
「魔法が効かないのが分かったら結局突進か」
「メッ!?」
「おー、すごいね」
突進して来たチュパカブラの体当たりを受け止め、そのまま尖ったチュパカブラの角を掴んで反時計回りに思いっきり首を捻る。そのままの勢いで地面に叩きつけてから駄目押しでチュパカブラの首に膝を乗せると、甲高い音が鳴り動かなくなった。
「デミトリって見かけに寄らず力持ちなんだね?」
いつの間にか木々の上から地面に降りていたミラベルが、未だにチュパカブラを押さえつけてる俺の横に立ちながら感心している。
「そうでもない。身体強化のおかげだ」
「そうなの? 全然魔力の揺らぎを感じなかった……魔力制御が上手なんだね」
「色々とあって魔力の制御だけはかなり練度が高いと思う」
「そうなんだ。薬草の採取でも重要な要素だからデミトリは自分が思ってる以上に薬草学に向いてるよ!」
採取に重要な要素……?
「ピンと来てないでしょ? 実際に見せた方が早いからクリク草の所に行こう」
「あ、ああ……」
収納鞄に息絶えたチュパカブラを仕舞って、興味が既に魔獣から薬草に移ったのか弾むような歩き方でクリク草の方へと向かったミラベルの後を追う。
「デミトリが使えるのは、さっき見た感じだと水属性の魔法?」
「そうだな」
「益々薬草学を学ばないのはもったいないよ。水属性の魔法は薬草採取と相性が良いから」
「植物が水を必要とするからか……?」
「そういうわけじゃないよ」
笑いながらミラベルが掌の上に火球を浮かべる。
「チュパカブラが放ってた風魔法とか、私が使える火魔法は全く使い道が無いわけじゃないけど……基本的には繊細な薬草の採取には不向きなの。逆に水属性と土属性の魔法は、植物を傷つけずに採取する方法が多いって利点があるの」
「確かに、火属性と風属性の魔法は採取のために活用するのが難しそうだ」
「……これまた意外な反応だね。ちょっと話題が変わっちゃうけど、デミトリは風魔法と火魔法にどんな使い道があると思う?」
興味津々と言った具合でこちらを見上げたミラベルの瞳がフードの奥から見える。そこまで期待に満ちた目で見られたら下手な事を言えないな……。
「そう、だな。風魔法なら、直接採取するのは力加減が難しいかもしれないが魔法の制御さえ誤らなければ薬草の周囲の土を丁寧に除去して掘り起こす事が出来そうだ。火魔法は……」
「……やっぱり難しいかな?」
「すまない、採取に関しては限定的な活用方法しか思い浮かばないな」
「え、急に聞いたのに一応思い付いたんだ? それに、採取以外の使い道も思いついたの?」
不思議そうにこちらを見つめられるが、正直大した考えではないので言うのが少し恥ずかしい。
「……農業でも倒木や不要になった樹木を焼いて、その灰を肥料として活用するだろう? そう言った使い道もあれば、薬草園を管理するなら雑草の処理や繁茂してしまった葉や落ち葉の処理、温暖な気候でしか育たない薬草の管理をするならその環境維持に使えるんじゃないか……?」
「うんうん」
最後の方は自分でもかなり浅い知識を披露しているのが露呈してしまい疑問形になってしまったが、うんうんと頷いてるミラベル的には合格の回答だったらしい。
「風魔法と火魔法は採取に向いてないかもしれないが、他の用途で活躍するんじゃないか?」
「良いね、何個か私も参考にしてみたい発想が聞けて良かった」
大したことは言ってないので、ここまで嬉しそうにされると反応に困る。
「今更だが、当てずっぽうで思い付いたことを共有しただけだから話半分に受け取ってくれ。もっと考える時間があれば他により有用な活用方法があると思う」
「ありがとう。火魔法の使い手ってだけで薬草学の分野では大成できないって決めつける人も居るから、真剣に考えてくれて嬉しいよ」
は? なんだその選民意識に捕らわれた考え方は……。
「……そんな馬鹿共の戯言に聞く耳を持つ必要は無い」
「ふふ、誰かにそう言って貰える内はがんばれるよ」