「おかえりヴァネッサちゃん。デミトリさんと話せた?」
「……依頼を請けて外出中みたい。エリック殿下には『もうちょっと部屋で待ってて』って言われたけど……」
ヴァネッサちゃん、魔力があり得ない位揺らいでるけど大丈夫だよね……?
「その、長期間不在になる依頼は請けないと思うので……帰ってくるまで引き続き私の部屋で過ごして頂いても――」
「ナタリア様。一人だと心細いのは分かるけど、いつまでも私とヴァネッサちゃんがお邪魔してたらペラルタ様と話せませんよ?」
「ペラルタ様は関係ないです!?」
城塞都市ボルデに到着するまではこんな状態じゃなかったのに……ナタリア様はずっと様子がおかしいし、ヴァネッサちゃんもデミトリと離れ離れになって気が立ってるし……。
デミトリに戦えない事を指摘されて凹んじゃった私が言えた立場じゃないけど、ここまでガタガタになるかな……。
「ナタリア様。私達の事はともかくペラルタ様と話した方が良くないですか? 今もヴィラロボス辺境伯夫妻と一緒に対策部隊の指揮を執ってるんですよね?」
「そ、そうですけど……」
ナタリア様がヴァネッサちゃんの指摘に顔を真っ赤にしながら俯いてるけど、なんで悩んでるのか私にはあまり理解できない。
「婚約者なら会った方がいいんじゃないですか? 王都での責務を放り出してまでナタリア様を思ってボルデに来てるのに、ナタリア様が屋敷に引きこもって一度も会ってないのがばれたら変な噂が立つかもしれないですよ?」
「でも……」
「セレーナ、ナタリア様も色々とあるの……」
ヴァネッサちゃんが訳知り顔でそう言ってるけど……ペラルタ様が居るか居ないかは関係なく、どのみち今の状況でナタリア様が屋敷に引きこもってるのはよくなくないかな??
「……私には、ペラルタ様に合わせる顔が無いんです」
「減る物じゃないから普通に会えば――」
「ナタリア様は恥ずかしいの」
ヴァネッサちゃん……? ナタリア様も予想外だったのか、ぽかんとした表情でヴァネッサの事を見つめてる。
「ナタリア様はこれ以上幽炎に大切な人を失うのが怖かったから良い意味で冷静沈着……何か問題が起こっても最前線に立たずに後方から指示を出しそうなペラルタ様に惹かれてたの」
「!?」
「そうだったの?」
「うん。それでいざ婚約したら真逆の性格だったから傷付きたくなくて距離を取ったけど、ボルデの危機に飛んで来たクールな上に情熱的な一面もあるペラルタ様に惚れ直しちゃって、幽炎の元凶が消えて障害が無くなっちゃったから本当にどんな顔をして会えばいいのか分からないの」
「な、え、はぁ!?」
言葉にならない音を紡ぎながらナタリア様の顔が赤を通り越して真っ青になる。
「なんで知ってるんですか!?」
「え、だってナタリア様から説明してくれたじゃないですか」
「わ、私は!! ペラルタ様の性格が想像してたのと違うとしかあなたとデミトリには説明してないはず――」
「直接は教えてくれなかったかもしれませんけど、何となく事情は察せられる程度には情報を教えて貰ってましたよ?」
ナタリア様とヴァネッサちゃんが今までどんな会話をしてきたのか分からないからナタリア様の方を見ると、ぶんぶんと首を横に振ってる。ヴァネッサちゃん、変に鋭い所があるから……。
どう受け止めればいいのか分からないけど、ナタリア様の反応的にヴァネッサちゃんの言ってる事は間違ってないってことだよね……?
「そうなると……ナタリア様をこのまま一人にするのも忍びないから、取り敢えずペラルタ様と話す場を設けるのが最優先かな?」
「うん……ナタリア様の件が片付いたら、デミトリと会いたいけど……その前にセレーナちゃんのイップスを治すのが優先だね」
「「いっぷす??」」
「……私の故郷の方言だから、気にしないで」