「久しぶりね、ピィソシット」
「っ! お久しぶりです、ディアガーナ様!」
純白の玉座の上に優雅に腰を掛ける命神を前にして、膝を折りながら首を垂れる。
――なぜ、ディアガーナ様がお戻りに!?
命神代行を任せられ早数カ月、少なくともあと数年は会う事がないと思っていた上司の突然の訪問に理解が追いつかない。
「あの子達は、その後どうしているかしら?」
頭上から聞こえてくる鈴の鳴るような声とは対照的な、強烈な圧を全身に帯びながら必死に呼吸を整える。
「み……皆、無事ガナディアに召喚されました! 現在ガナディア王家に保護され、指導を受けながら順調に訓練を積み重ねています!」
「そう、優秀な子達なのね。あなたの導きもあっての事かしら?」
「勿体、無きお言葉……あ、ありがとうございます!」
顔を上げることができない。存在を否定するような圧力に抗いながら震えていると、視界の端でディアガーナが手元で弄んでいる何かをくるくると回転させている様子が見える。
「それじゃあ、そろそろあの子達を彼と引き合わせるように神託を送らないといけないわね? 大事な神託だから、私が直接送ります」
「っ……!? いえ、ディアガーナ様のお手を煩わせるほどではありません! 私の方で――」
「あら、おかしいわね? 私に神託を送られたら、何か困ることでもあるのかしら?」
「滅相もございません、ただ――」
「ただ?」
――まさか、気づかれているのか!?
「ディ……ディアガーナ様に任せられた大切な仕事なので、私めの方で最後まで――」
「大切な仕事って自覚は、あったのね?」
神の意思としか形容のしようがない、圧倒的な力に圧し潰されながら地面に這いつくばる。
「見ているんでしょう? 出てきなさい、クーラップ」
「やっほー、ディア様」
忌々しい準神見習いの、嬉々とした声が聞こえてくる。
――まさか、奴がばらしたのか!?
「滑稽だよねぇ。ディア様に力を貸し与えられただけで調子に乗っちゃって」
クーラップの耳障りな声が頭の中に響く。目を開けず確認できないが、わざわざ這いつくばっている自分の耳元で囁いている様だ。
「自分は神になるんだって、準神様は調子に乗っちゃったのかなぁ? ディア様がわざわざ準備してくれたのに、変に欲を出して勝手な事するなんて馬鹿だよねぇ」
「勝手なことをしたのはあなたも同じでしょう、クーラップ」
「え?」
真横で、何かが地面に叩きつけられる鈍い音が響き渡る。
「ディ……ア……さ、ま!?」
「クーラップ。あなた、彼に神呪だけ授けて転生させたわよね?」
「そ……それは、ピィソ、言わ……れ――」
「もういいわ」
クーラップの気配が、瞬時に消滅する。
「ピィソシット、あなたには期待していました」
「ディア……ガーナ、さ――」
――――――――
「はぁ、どうしようかしら」