「誰だ?」
辺りを見渡すが、通りは今自分以外無人だ。身体強化を掛けながら、ヴィセンテの剣を取り出すために収納鞄へと手を伸ばす。
「僕と契約して、魔法戦士になってよ?」
――なんで疑問形になったんだ……
話しかけてくる声の主は未だに見つからないが、声色からして女性だろうか?警戒は解かず、近くの建物に背中を預けて死角をなくしながら声の主に話しかける。
「姿を現せ」
「そうしたら、僕と契約――ケホッ、ケホッ!?」
呪力を込めた水魔法の霧を周囲に放つ。足元で何かが動き回っているのが分かり、その場を飛び退いた。地面を見ると、カズマを倒した後ちらりと見えた怪しい光が飛び回っていた。
「何この水、呪い!? やめっ、ゲホッ!!」
光の周辺から霧をどかし、ドーム状の霧の籠で光を覆う。霧から解放されたことで楽になったのか、せわしなく飛び回ることを止めて光がまるで肩で息をしているかのように宙で上下に移動する。
「なんでこんなことするの!?」
「お前は何者で、目的はなんだ」
「私は……鍛冶神様の作り出した神器、ラス! あなたと契約しに来たの」
「……一人称がぶれてないか?」
「それは……」
――顔は見えないが、感情表現は豊かだな……
明らかに落ち込んだ様子で放っている光が鈍り、地面すれすれまで怪しい光が高度を落とす。
「前の前のますたぁから、教えてもらった台詞を言う時だけで普段は僕って言わない……」
「ますたぁ?」
「ご主人様。あの台詞も、契約する時の礼儀だって教えてもらったの……」
――なんとなく前世の俺が知っていそうなセリフだったが……ますたぁはもしかしてマスターか? それより……
「……お前の、前の主人はカズマか?」
「うん」
「俺に関わらないでくれ」
水魔法の籠を維持したまま、その場を後にしようと大通りに向かって歩き始める。背後で、籠を突き破って怪しい光がこちらに一直線に向かってくるのが分かる。
「待っゲホッ!!ケホッ、わゲッ、オエ!!」
――鬱陶しいな……
「ケホッ!んん、ゲッ!」
水魔法の霧を晴らして、怪しい光の方に向き直る。
「一度だけ話を聞いてやるから、その後帰ってくれ」
「ケホッ! なんで、こんなに、酷いこと、するの?」
咳をしないように気を付けているのか、言葉を短く途切っている様子に少し罪悪感が湧く。
「……俺はお前と関わりたくないんだ。俺を殺そうとした奴と契約してたんだろ?」
「それは、前の――」
「そこも問題だな。負けたらすぐ鞍替えする様な奴から怪しい契約を持ちかけられて聞く耳を持つはずないだろう?」
「ちが、それは、ちがうの」
黙り込んでしまった怪しい光の後ろで、誰かが歩いてくるのが見える。
――時間は取りたくないんだが……
「お前の姿は、他人にも見えるのか?」
「隠れ、れば、大丈夫」
「場所を移すから、隠れてくれ」
――――――――
「わぁ!」
夜の公園であればひとけも少ないと踏んでいたが、幸いなことに誰も居なかった。月明かりに照らされた噴水の周りを、あやしい光が飛び回る。
「メリシアに公園があったなんて、知らなかった!」
「……お楽しみの所悪いんだが、そろそろ話をしてもいいか?」
「あ、ごめんなさい……」
しゅんとした様子で怪しい光がこちらに寄ってくる。
――ここなら、攻撃されたとしても反撃して問題ないだろう……
念のため身体強化を発動しながら、片手をあげた。
「それ以上近づかないでくれ」
「でも……」
「……」
「分かった。ここから話すね」
二メートルほど離れた位置で、怪しい光が目線の高さで浮遊し始める。
「改めて、私は鍛冶神様に作られた神器のラス。あなたには……私と契約を結んでほしいの」
「……契約の内容は?」
「それは……」