多くのサーバで国王と骸さんをつなぎ。
伊奈野も満足した様子で最近は過ごしている。
ただそれは、骸さんの手助けができてうれしいとか国王などとのつながりができてうれしいとかそういう感情によるものではなく、
「立ち読みしながら暗記したものを確認するのも意外と慣れてきましたね」
「あっ。そうですか……………」
伊奈野は立ち読みをしながら魔女さんと話をする。
魔女さんがいるということは日本サーバであり、わざわざ立ち読み等しなくとも勉強できるのではないかと思うところなのだが、
「それでは、またお手紙届けてきますね」
「はい。お願いします」
伊奈野はまた手紙を配達を頼まれたのだ。今度は、国王から骸さんに向けた手紙を。
伊奈野が希望したとおりに国王は魔女さん経由で依頼してきてくれた。そのため以前のように面倒な手順を踏んで面会までする必要はなかったし、移動にも時間がかからない。ということで伊奈野も受けたわけである。
最近否応なく立ち読みをする必要があるので、立ち読みでもある程度の効率が出せるようになっている。というか逆に、そんな微妙に気が散る中でも瞬時に記憶を引っ張り出せてこそ本当に暗記できたということであると考えて伊奈野は燃えているほどだ。
手紙を出すため腕輪を使って転移をする伊奈野は、
「こんにちは～」
『っ！？……………と、突然背後に現れるな。敵かと思ったではないか』
「ああ。すみません。それより、これお手紙です」
『それよりで扱うほど軽い話ではないのだが……………まあいい。弟からのものであろう？内容を見て返事を書くかどうかは決めるから、また後日取りに来い』
「分かりました」
やる仕事は終わった。
ちなみに転移してからこの会話が終わるまでに英単語１００個ほどの復習を終わらせている。慣れれば伊奈野にはこのくらい楽勝なのだ。
あとは帰って本気で勉強に集中するだけ、なのだが、
『ふむ。無償でやらせるのは貴き血が流れるものとしてよろしくないな。少し待て。駄賃をやろう』
「え？駄賃ですか？」
『うむ。とはいっても、あまり国民を我が配下に変えたものを渡したくはないから……………これにしよう』
伊奈野には何を言っているのかよく理解できないことをつぶやきながら、日本サーバの骸さんは勝手に伊奈野へ渡す報酬を考える。
伊奈野としては正直報酬などいらないから早く帰って勉強をしたいのだが、
（まあ、暗記の確認できるから良いかな）
自身が立ち読みして確認するものがあるためその口から出る言葉をとどめる。今までの伊奈野なら絶対に行わなかった行動だが、これを成長と呼ぶべきかどうかは定かではない。
『では、『脱魂』……………では、これに触れてみると良い』
伊奈野が暗記本を眺める中、骸さんは伊奈野へ渡す報酬、アンデットの魂を出してくる。
見覚えのあるそれに伊奈野はジト目になりかけるが、
（ま、まあ、これのおかげでサイコキネシス使えるようになったわけだし、悪くはないよね。もしかしたら今回も良いスキルをもらえるかもしれない………）
アンデットの種類によっては害を受けた可能性はあるものの、良い能力を手に入れられたということで思い直す。
その手を臆した様子もなく素早く伸ばして、
「これで良いですか？」
『うむ。其方は恐らく力を得ただろう？』
「ん～よく分からないです。何の能力をいただけたんでしょうか？」
いったいどんなメリットがあるスキルを手に入れられたのか。自分でステータスを確認したりなんて言うことは一切考えずに骸さんへと尋ねる。
もちろん、体が発光して若干本が読みづらくなり煩わしさは感じつつも、本から目を離すことはなく。
『能力の把握は楽にできると聞いたのだがな………まあ良い。説明してやろう』
そこから始まる骸さんのスキル解説。
色々とあるようだが、骸さんからはすらすらと言葉が出てくる。
だが、総評として、
「あ、あのぉ。もしかして全部戦闘系のスキルですか？」
『うむ。その通りだ』
「……………」
伊奈野には何の得にもならない時間であった。
日本サーバの骸さんは伊奈野のことを面白い人間程度にしか認識していないため、彼女が攻略や戦闘に一切の興味を持っていないことに気づけなかったのだ。
彼女の心は、
（二度とお手紙配達なんてしない………）
というもので決まっていた。また手紙を取りに来いと言われていることはいったん頭から追い出しながら。
『………ではまた来ると良い！』
「はい。何かあれば」
（二度と来ないよ）
心の中ではではそう思いつつも、表面上はにこやかにひたすら暗記の確認を繰り返しながら去っていく。
彼女の勉強時間は数十分近いものがつぶれてしまった。
「なんてこった」
伊奈野は頭を押さえつつ、急いで図書館に転移し戻ろうとする。
だが、
「ん？また邪神の使徒？」
視界に映る霧を通してやってくる霞んだ光。
一瞬邪神の使徒だろうかと伊奈野は考えて身構える。反射的にサイコキネシスで黒い本を飛ばそうとするが、
「ん？何か光が違う？」
途中で伊奈野はそれをやめた。
伊奈野の設定する光と比べ、目に届く光の色は少し違っているように感じられた。
しかも、
「２色くらいある？」
色は一色ではない、二色あるように思えた。
余計に何なのかよく分からなくなった伊奈野は、ゆっくりと霧の中を歩んでいき、
「言いたいことが、あるんだよ！やっぱり君は、かわいいよ！好き好き大好き、やっぱ好き！やっと見つけた、お姫様！俺が生まれて、きた理由！それはお前に、出会うため！俺と一緒に、人生歩もう！世界で一番、愛してる！ア、イ、シ、テ、ル！」
「…………………………は？」
伊奈野の耳には、ガチ恋コールが聞こえてきた。
ガチ恋コール
アイドルなどによく使うコールになります
いったい何の光だったんだ…………………
