最近盛り上がりに欠けるらしいので主人公のテンションを上げさせておきますw
「ん?PVPイベント?」
伊奈野は首をかしげる。そんな彼女の目の前には、イベントのお知らせが表示されていた。
イベントの内容はPVPでプレイヤー同士の戦いらしく、
「ん~。興味ないかな。寄生虫もいないってことでしょ?」
PVPならば当然のごとく勉強は関係ない。そして、本を高度な問題集に変えてくれる寄生虫も出てこない。
伊奈野が参加する理由などなかった。
興味をなくした伊奈野だったが、
『む?何か催し物あるのか?』
「あっ。そうみたいです。私たちみたいな外から来た人間が戦って、誰が1位になるのか決めるみたいですね。私たちは死んでも復活できますから自由にやれるということなんでしょう。まあ、私は興味がないので参加しませんけど」
『そうか。戦いが行なわれるのか……興味がないとは言っても、戦う力はあるだろう?少しくらい腕試し程度でもいいから行ってきたらどうだ?』
「やめておきます。そこまで私も時間に余裕があるわけではないですし」
『……そうか』
骸さんは興味を持ったようだった。伊奈野へと参加を勧めてくるが、当然拒否。骸さんは不満そうな声を出した。
伊奈野にとっては、全く興味もないイベント。そのイベントが、字面通りのものであるかどうかということも伊奈野には関係のない話だった。
「まあ関係のない話ですし、今は勉強優先です。勉強」
『うむ。それは良いのだが、その前に少し今後の方針の相談をしたいのだが良いだろうか』
「はい。かまいませんけど」
『世界中を余の配下にするという計画を実行するにおいてだな。厄介になってくるのが……』
関係のないイベントの話など、骸さんから世界征服をする上での相談を受けているうちに完全に頭から押し出されてしまう。
それ以降思い出すこともなく、
「ん?今日プレイヤーが少ないのかな?………あっ。そういえばそろそろイベントの時期だったっけ?」
当日まで来てしまった。さすがに日本サーバが混雑していないということで伊奈野も思い出したが、そこまで使用人の瑠季に聞くことすらなく過ごしてきたのである。
お知らせには事前にイベントに参加するうえで、事前のエントリーが必要だということが書いてあった。そのため当日になった今伊奈野がこのイベントに参加するというのは不可能である。
当然参加するつもりもないので問題ないのだが、
「あれ?いない?」
伊奈野はログインしていつものように図書館へ転移し、首を傾げた。
今までのイベントの時と同じように、誰もいないのだ。魔女さんもうるさい人も司書さんも屈辱さんも。誰一人としてこの場にはいない、
「ん~?PVPのイベントなんじゃなかったっけ?」
なぜプレイヤー同士が争うイベントでNPCの者達が動きを見せたのか。その理由は謎である。
伊奈野は全く目的も分からずひたすら首を傾げ、
「まぁ、いっか、誰もいなくて集中できるし、今日もまた勉強日和ってことで」
深く考えずに机へ向かった。そこに心配する様子などは全くない。
だが、彼女は知らない。
これから先、心配している余裕なんてないような事態になる、というか自分が心配されるほどの状況に陥ることを。
事が起こったのは、ログインしてから数時間後。
何度か休憩をはさんで順調に、今までよりも圧倒的にハイペースで勉強が進んでいたのだが。
突然、ピカッと窓から見える空が光り、
「っ!?うるさっ!」
ドゴォォンッ!という唸るような音が聞こえてくる。
雷と共に一瞬にして空が暗くなり、今までに見たことがないほどのどんよりとした雰囲気の空が広がった。
「な、何だろ?PVP決勝の演出とかかな?」
決戦の時は大概天気が悪くなるという伊奈野の印象がある。
イベントが進んでそういう雰囲気を出す必要が出てきたのだろうと予想した。ただ、結局自分には関係ない話であるとは思うが。
「PVPイベントの演出をわざわざこっちにも適用するなんて、運営も凝ったことするなぁ」
呆れと感心と、半々にまじりあったような声を口からこぼす。
ただ、この天気の悪さもかなりうまく再現されていて、運営の技術力の高さが分かる。これは間違いなく賞賛できる箇所だった。
そんなことからもう少し長く眺めていたいと窓に近づいた瞬間、彼女の前に次元の裂け目のようなものが現れる。
そこから、
「あれ?いつもと雰囲気が違うね。なんか、昔に近づいた?」
飛び出してくるのは、伊奈野ともそこそこの付き合いになってきた存在。黒い本。
どこか慌てたような、それでいて本の癖に体調でも悪いのかと思うようなフラフラとした動きで伊奈野へと近づいてくる。そんな黒い本の表紙は金の文字が薄くなっていて、どこか黒い本を手に入れたばかりの状態に戻っているように感じられる。
「そ、そんな熱い演出みたいなことされると、ちょっと期待しちゃうんだけど?そういうことなのかな!?」
伊奈野は責めるような口調ではある。が、どことなくどころか非常にうれしそうな様子で黒い本へと手を伸ばす。
次の瞬間、
「あれ?ここ、どこ?」
伊奈野は全く知らない空間にいた。真っ黒な、しかし周囲が見えないわけではない不思議な空間。
突然変わった居場所に驚くそんな伊奈野の目の前に、
「ん?これは?」
数枚の紙が現れて近づいてくる。伊奈野はそれに、鼓動の高まりを憶えた、
なぜならそれは以前から欲しいと思っていた、
「新作の、問題!?し、しかもすごい難しそう!!!」
どうやら今日は彼女が思っていた以上に、勉強日和なようであった。
《称号『闇にとらわれし者』を獲得しました》
だから、こんな厨二っぽい雰囲気のある称号にも気づきもしない。