色々とあったが、ダンジョンにログイン地点の設定ができてこれからはダンジョンへ邪魔されずに入れることになった伊奈野。
これでまたしばらく憂いはなくなったのだが、
「他に何か私に便利な機能を隠してるとかないですよね？」
「な、ないですよ」
『う、うむ。ないぞ』
「本当ですか～？」
伊奈野はしばらく2人のことを疑うこととなる。
とはいえ疑うにしても具体的に何か伊奈野が２人を避けたりするということはなく、どちらかと言えば、
「あぁ～。水中のフィールドで結構死人が出たんですね」
『うむ。まああそこは水中呼吸ができなければ人間には厳しい環境であるからな。そういった環境になれていなかった冒険者たちは息絶えた』
ダンジョンの様子を聞くなど、協力的ともいえる姿勢を見せた。
流石にダンジョンが攻略されても困るので、どの程度まで侵入されているのかを確認しておきたかったのだ。
「一応ダンジョン内で人が死亡するとダンジョンマスターにも経験値が入るので、それで確認できると思いますよ」
「あっ。そうなんですね」
炎さんが解説を入れてくる。特に経験値の確認や、入ってきたプレイヤーやＮＰＣの殺害状況を知りたいわけではないので確認しようとも思わないが。
ただ、
「水中で呼吸ができるくらいの人たちだと、もうこのダンジョンじゃ相手にできない気がするんですけど。そこまでできる経験の豊富さだとどうしたって勝てないんじゃないですか？」
そこは気になった。
水中で呼吸できるということは、その練習をするなりそうしなければならない状況に追い込まれたりしたさまざまなことに巻き込まれているだろう者たち。そんな者たちにダンジョンの小手先のトラップで対応できるとは思えない。
「あぁ～。そこは確かに問題ですけど、さすがに何日も張り詰めた状態で過ごして疲れがたまってくると囲んで叩けばどうにかできないこともないんですよね」
「そんなものなんですか？」
「そうですね。特に後衛の魔法職なんかは魔法を詠唱できないように口をふさいで防御のための装備などをはぎ取る、というか盗めばほぼ無力化できますし」
「盗む？」
「はい。装備を盗むスキルを持ったモンスターもそこそこいますよ」
炎さんからこれまでの戦い方の説明が行なわれる。疲労がたまっているところを強襲して近接戦闘が苦手そうな後衛職をさらって、ということを繰り返していたらしい。
いくら強いとは言っても装備を奪って使える攻撃を封じればどうにかできるのだと言う。
（やってることが外道だなぁ～。そしてそれを許可していると言っても過言でない立場に私はいて……よし！考えないようにしよう！！）
最終的に伊奈野は考えることをやめた。都合の悪い現実からは目を背けるに限るのだ。こういう時にもやはり勉強が１番である。
が、
「あっ。ちょうどいいですし、実演しているところの映像を見せますね」
「え？実演？」
伊奈野の目の前に画面が現れる。そこには、ダンジョン攻略に来たのであろう数人の姿が映し出されていて、
『行かせるなぁぁぁ！！！』
『これ以上後衛を失うのはまずいぞ！多少の怪我は良いから取り返せぇぇぇ！！！』
『嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ！！』
悲痛な叫びが聞こえてきた。
映像の中では手足が生えて二足歩行も可能になっているのではないかと思うような魚のような何かが１人の男性を抱えて泳いでいた。
恰好から考えるとどうやら弓使いのようで、羽交い締めのまま運ばれている現状では何もできないようである。
「水中で１人１人攫って行く……………なんかこれ見る限り、慎重に攻略をしているというよりも進むことも逃げることもできない状況になっているといった感じに見えるんですけど？」
「『……………』」
伊奈野が何とも言えない気持ちになりながら２人へ視線を向けると、２人は顔をそむけた。
暫くジトっとした瞳を向け続けるが、一向に伊奈野の方に視線が戻る気配はない。
そんな間にもダンジョン攻略へ来ている者達の状況は悪化していて、
『ギャアアアァァァァァ！！！？？？？？』
「あっ。弓使いの人キルされちゃいましたね」
攫われた弓使いの男性は、魚のような何かなモンスターに集団リンチされて死亡してしまった。
そのタイミングで、
『であれば余の配下にせねばな。では余は少し行かせてもらおう』
「あっ。何かあるかもしれませんし自分も………」
２人は伊奈野の視線から逃れるように転移していくのだった。
（………はぁ～。ダンジョンで起こってることだし、責任はきっと私にあることになるよねぇ。さすがにひどい気がするしやめさせた方が良いのかもしれないけど、下手に向こうに甘くしてダンジョンが攻略されても困るしな～……………難しい）
心の中で溜息を吐きつつ、今後のことを考える。そうしていると、映像の中ではさらに続けてもう１人今度は回復職のように見える女性がキルされて、
《職業専用シナリオ『覇道』が開始されます》
突然そんな音声が頭に鳴り響き、メッセージが目の前に現れた。
「……………へ？」
伊奈野は困惑させられることになるのだった。
彼女は知らない。いつの間にか彼女が魔法職から転職していることにも、そして、
《称号『始まりの覇者』を獲得しました》
《称号『努力こそが我が身』を獲得しました》
《称号『真の覇者』を獲得しました》
《スキル『覇道１』を獲得しました》
こんなログが流れていることにも。
