I Became a Legend Just by Studying in a VR Game Without Even Trying to Beat It – Chapter 139

ゲーム内での睡眠。それは何を目的に、誰が一体そんなことをするのかと思うほどやる人は少なそうなことだが、

「意外と簡単に寝れるものなんだね」

「ね」

伊奈野も少女も睡眠を経験した。

２人とも寝転んで寝ようと思い目を瞑れば数十秒もかからず意識が沈んでいった。かなり簡単に寝ることができたのである。それはもう、圧倒的に現実よりも早いタイミングで。

（現実だと５分は絶対かかるんだけどなぁ……………明らかに普通の睡眠ではないよね？ゲーム側で何か特殊な処理されてるんだろうなぁ）

伊奈野はさすがに睡眠に時間を取りすぎるわけにもいかなかったため１０分ほどで起きたが、少女の方は数時間寝ていた。

ただ、少女の方も学校があるということで今は起きているが。

「検証が必要かな～」

「検証、ですか？」

伊奈野は少し気になることがあった。

この睡眠という仕様を活用できるかどうか。そこを確認するために、

「じゃあちょっと、ベッドをＤＰで買いますね」

『む？ベッド？寝るのか？』

「はい。ちょっと気になることがあったので」

午後。海外サーバにやってきた伊奈野は少し高級そうなベッドを用意し、その上で睡眠をとる。

とはいっても、ここで伊奈野が確かめたかったのはソファーなどで寝るのと高級なベッドで寝るのとで睡眠の質が変わるのかどうか、ということではなく、

「………ん～。微妙に記憶力が上がってる？」

睡眠の効果の確認。

現実の睡眠では記憶の定着が行なわれるが、このゲーム内の睡眠でも同じことが行なわれるのかとどうかというのを確かめたのだ。

方法は、勉強をした後の休憩時間で寝る時と、いつものように魔法陣を描いたり雑談したりするときとで勉強したことの記憶の定着具合を比べるということ。

勉強時間に覚えられない難しい英語の熟語を勉強し、その後の行動に差をつけた。これにより、睡眠をとった時の方が少し記憶される量が多くなっていることが分かったのである。

当然一度だけでなく何度か繰り返して両方のパターンを試してみたが、結果は変わらなかった。

「これは本格的に睡眠、取り入れるべき……………？」

これ以降伊奈野のルーティンの中に、休憩時間を削って睡眠が入れこまれることとなる。

ちなみにこれにより雑談の相手をしてくれる時間が減ってしまったため骸さんは少しさびしげな様子になったという。

《称号『ショートスリーパー』を獲得しました》

一度の睡眠が（ゲーム内の）１０分以下であり、それにより称号も手に入れる。

彼女の求める睡眠の恩恵に補正はないが、伊奈野や少女が睡眠をとることはシステム上でもある程度想定されていることであった。

そうして新しいルーティンに慣れてきたある日の朝、

「不満」

「不満？」

この睡眠という新しい発想を伊奈野へと伝えた少女が不満という単語を口にした。

少女が学校に行くためログアウトするギリギリの時間だったのであまり詳しい話を聞くことはかなわなかったが、

「レベルが、上がらない」

「レベルが上がらない？当たり前では？」

「ん。でも、時間あるし、もったいない」

「は、はぁ？」

困惑する伊奈野。だが、それ以上のことを説明することもなく少女は消えていってしまう。

取り残された伊奈野達は顔を見合わせて、

「何でしょう。寝るだけだと満足できない、ってことなんでしょうか？」

「今の話を聞く限りそう聞こえますよね。かなりの時間寝ていますし、ずっと寝てると時間がもったいないというのも理解できないわけではありませんが」

「えぇ？寝たいのなら寝るのに集中すればいいのに」

確かに少女は睡眠をとる為にこのゲームをプレイしてる。だがだからと言って、伊奈野ほどの狂気を持って取り組んでいるわけではないのだ。

誰もかれも、伊奈野のように楽しそうなゲームや中毒性のあるレベルアップなどに流されないようにできるわけではない。

たとえ求めていた１つのものを手に入れられたとしても、すぐにその幸福に慣れて他のものまで求めてしまうものなのである。

「……………まあ純粋にレベルを上げたいという話なのであれば、自分が寝てても上げられる方法はありそうですけど」

「そうですね。配下を作れる職業だったりスキルを持っていたりすれば、自分は何もしなくとも配下に働かせるだけで経験値は稼げますし」

伊奈野の言葉に魔女さんが肯定を返す。

（配下を作る……………つまり私みたいにダンジョンマスターに？っていうはさすがにダメかな。バレたらまずいし、変なことはさせない方が良いよね）

パッと思い付いたのはダンジョンマスターとなること。

しかし、さすがにそれは危険性が高いと考え、

「…………あっそうだ。そういえばあの人がいました」

代わりに最適だと思われる人物を１人思いつく。

伊奈野が押し付けることができそうな人物であるため、事前にアポを取ったり根回しをするということもなくさっそく次の日少女が来れば連れて行って、

「じゃあ骸さん。この子に死霊術教えてあげてもらえますか？」

『む？急だな………何が、じゃあ、なのだ？』

伊奈野が選んだのは骸さん。

彼に少女へ死霊術を教えさせれば良いのではないか、と考えたのだ。何もしなくとも働いてくれる下僕として、アンデッドは非常に優秀だと思われるのである。

《称号『禁忌の伝搬者』を獲得しました》