I Became a Legend Just by Studying in a VR Game Without Even Trying to Beat It – Chapter 142

「あげる」

「え？あ。ありがとう？」

マターことメッキールーマターが骸さんの弟子となってから数日。もう彼女が骸さんの下へ行き学ぶという光景は見なくなり、伊奈野がいる間ずっと彼女は寝ているか誰かと雑談するかしかしていない。

そんな中、マターから伊奈野へプレゼントが贈られる。貰ったのは、

「人形？」

「ん。お揃い」

「あっ。そうなんだ」

ウサギのぬいぐるみだった。伊奈野に渡されたものと似た形で色違いなものをマターは持っており、お揃いだというのも理解できる。

ただ、理解できないのはなぜ今、ぬいぐるみを渡されたのか、ということ。

プレゼントをもらえたのは気に入られたからだろうというのは分かるが、

「それ、死体入り」

「へ？」

「弱いけど、私の僕」

「……………」

貰った人形は普通の人形ではなく、どうやら死体を入れてマターの配下にした人形らしい。

（え？大丈夫？この人形から腐乱臭とかしない？……………というか人形に死体詰めるって、やっぱり考えることが違うなぁ～。凄い殺人者っぽい）

伊奈野はある意味感心する。ただ、それと同時にもらったプレゼントの嬉しさは半減したが。

「マターちゃんの僕なのに、私がもらって良いの？」

「ん。暗殺対策」

「暗殺対策？」

「それ、身代わり」

「あっ。これが身代わりになってくれるんだ。凄いねぇ～」

どうやら伊奈野の貰ったぬいぐるみは、所持者である伊奈野が死亡するときに身代わりになってくれるらしい。

まず死亡するような状況になりたくないが、持っていて悪い物でもないだろうということでもらっておく。

（勉強してて死にそうになることなんてないよ？せいぜい満腹ゲージが０になったときに死んでたくらいだよね。今はもうそれじゃあ死ななくなっちゃったし……………あっ。でも、殺したと思わせておいて実は生きてましたみたいな展開にすれば格上とかにも勝てるかな？覇者のシナリオ進展させるのに使えそう？）

諦めが悪いことにまだ『覇者』から転職することに考えが行きついてしまうようであった。

が、さすがに、

（それでどうにかできるなら格上とは言わないよね。そういうのはちょっと自分より実力が上とかの相手になら通用するっだろうけど、圧倒的な格上にはあんまり意味ないでしょ）

自分でありえないと否定する、

実際その程度のことで倒せると考えるのは、格上をなめすぎているとしか言えないだろう。

「………あっ。そうだ。マターちゃん」

「ん？何？」

ただそこで伊奈野は気づく。

格上との戦い方をわざわざ自分で考える必要はないかもしれないということに。というか目の前に、格上と戦うのが得意そうなプレイヤーがいるということに。

「格上の相手ってどうやって戦えばいいのかな？」

「格上の相手？……………仲間の、弱そうなの狙う」

「ほう」

「そこで視線が動いたら、急所」

狙ってナイフでつくといったような手の動きを見せるマター。

つまり、強そうな相手でも仲間に攻撃をすれば守ったり心配したりするために視線が動くから、その間に近づいて急所へと攻撃しろということだ。

ただ、そういった動きは明らかに初心者向けとは言えない。

そういうことを分かっているのかマターはもう１つの選択肢を提示してきて、

「デバフもいい」

「デバフ？能力低下とか？」

「ＨＰを減らすなら、毒」

ある意味弱者が強者を倒すための鉄板戦術と言えるかもしれない。

状態異常ガン積みであらゆる攻撃を封じてじわじわと殺していくというのはよく見る手だ。

「恐怖系で最大ＨＰを減らすのもあり」

「なるほど？」

そのあたりの細かい状態異常は知らないので伊奈野は何とも言えないが、状態異常というものにはなんだか夢を抱けるような気がした。

そしてさらに調度良いことにというべきか、

「屈辱さん、なんか強い毒とか知りませんか？」

「強い毒、ですか？色々とありますよ」

近くに屈辱さんがいる。

錬金術師であり、色々な薬品を作っている彼女は、様々な毒を所持しているのだ。

それはもう伊奈野が知っている化学の知識を超えた魔法的な毒など様々なものがあり、

「失敗作ではありますけど、一応毒性は強いのでどうぞ」

「ああ。ありがとうございます」

それをもらうことができた。１本や２本ではなく、箱に詰まった大量の失敗作を伊奈野は手に入れる。

（これを全部飲ませればさすがに格上の相手でも殺せるかな？いや、状態異常に耐性を持ってる相手だとマズいかもしれないけど………）

状況は大きく変化する。伊奈野は格上を殺害することも難しくはないと思えるようになってきた。

「あとはこれを、どこでだれに使うかということですが………」

「おぉ～。師匠が珍しく戦闘に意欲を」

「師匠が戦うんですか。楽しみですね」

弟子たちから期待の目を向けられるが、

（ここからバトルフィールドに出てボスを倒しに行くとかすると結構時間がかかっちゃうよね？さすがにそこまでするなら勉強してた方が良いかもしれない………遠距離からでも薬品をかけられる魔法とか作った方が良いかな？）