あまり理解できないシリアスな何かを見せられて非常にさめ切った気持ちになりつつも勉強を行なって精神を安定させた伊奈野。
勉強後は時間が迫っているためログアウトして朝の準備をしに行かなくてはならないのだが、
「明日もお願いできませんか？」
「明日も、ですか？」
魔女さんから翌日も同じように職場へ来てほしいと頼まれる。
先ほどの結晶が周囲へ被害を出した時には微妙に勉強時間がつぶれてしまったが、それ以外では特に不便に感じる部分もなかったため、
「まあ良いですよ。さすがにそれ以降はまた図書館で勉強しますけど」
「ありがとうございます！！」
伊奈野はあまり悩むそぶりも見せずに了承した。
もちろん、それには理由がある。朝の準備をしなければならず時間があまりないのは勿論なのだが、それよりも、
（研究してるもの、結構面白かったな～。魔法陣とかあんな形考えたこともなかったし）
伊奈野が今日見た研究の数々は、思っていた以上に彼女にとっては楽しい物であった。特に魔法陣などは彼女の考えたことのない変形をしていて、今まで考えたことのないような着眼点が非常に参考になった。
「新しい式変形、今度の模試で試せるかな～」
新しい問題の応用。それは彼女にとって大きな武器となる。
また明日もそれが見られるのではないかと期待を膨らませながら、彼女は気持ちのいい朝を迎えるのであった。
翌日、
「フハハハッ！魔力は封じさせてもらった！！」
「くぅ！まさかこんなことをしてくるとは……………」
高笑いをする研究者と、それに少し煩わしそうな顔で言葉をこぼす伊奈野の中に入った魔女さん。
何故かまた、魔女さんを体の中に入れた状態で戦うことになっていた。
最初は、前日の説明を受けていた時と同じように過ごせていた。
腕輪で個室へと転移し、軽く勉強。その間にマターもやってきていたので、一緒に見学へと向かった。もちろん、魔女さんを体の中に入れた状態で。
見学自体もその日の１度目はそこまで問題も起こることがなく順調に観ていけた。
「おぉぉ。斬新な形の魔法陣ですね」
「そうでしょう？私たちの開発したこの全く新しい魔法陣は……………」
伊奈野も新しい考え方を学ぶことができてウハウハ。マターはマターで派手な物や綺麗なものを見ることができて楽しそうな様子である。
両者ともに楽しみ、魔女さんも余計なことをしゃべる研究者に目を付けたりといったことをしていたのだが、
「ああ。あなたたち、先日もいらしていましたよね？」
「え？ええ。はい。そうですけど、それがどうかしましたか？」
２度目の休憩時間、伊奈野たちへ研究者が１人話しかけてきた。
そのまま３歩程度でお互いに届く程度の距離になったところで、
「ああ。やはりそうでしたか。実に研究対象として興味深かったので、自分から来ていただけて嬉しいです」
「っ！？『魔力障壁』」
寒気のする言葉。それと共に、いくつもの魔法が現れて伊奈野たちに襲い掛かる。
もちろんそれらは瞬時に伊奈野が生み出した『魔力障壁』によって遮られてその後に魔女さんが反撃とばかりに魔法の準備を行なうのだが、
「『アイスランス』！……………出ない？」
魔女さんが出そうとした魔法は、不発に終わった。
そこからさらにいくつか魔法を使おうとするが、
「『アイスフィールド』『ソイルランス』『ウィンドウィップ』……………出ないわね」
どれも発動せず、攻撃を行なえない。
伊奈野は細かい数値などは見ていないので分からないが、ＭＰのゲージが全く減っていないことは確認できる。
（ＭＰを消費するところかそれ以前の段階で問題が起きてるってことだよね？）
魔法使いにとってかなりまずい状況にあると思われ、そんなこちらの様子で調子に乗り始めたのか、
「フハハハッ！魔力は封じさせてもらった！！」
研究者も高笑いをしてそんなことを言い出す。
魔女さんの方もこれには悔し気に、
「くぅ！まさかこんなことをしてくるとは……………」
と言葉をこぼした。
が、だからと言って本当に苦戦しているかどうかというのは別の話ではあるが。伊奈野の頭には、
『おそらく一定以上の魔力を一度に使えないよう制限されていますね。気を付けてください』
という魔女さんの言葉が届いていた。
もちろんだからと言って、気を付けろと言われてもできることなどないのだが。伊奈野は特に何かたいしたことをするつもりもないのだし。
「そんなに大量に魔力を使うようなことって、何かありましたっけ？」
伊奈野は自身が大量のＭＰを消費して何ができるのかというのを知らない。それぞれの攻撃や魔法に何をどのくらい使うのかなどまったくもって把握していないのだ。
ただとりあえず知っていることでいうと、
「前回のあの小物をけしかけて戦力の方は確認させてもらった。魔力操作は上手いが、一流ではない。しかも使う魔法も簡単な物ばかり、ここで魔力を封じられた今、君が勝てる道理はな、」
「『牽制魔弾」『連射』」
「ぎゃふんっ！？」
攻撃力はかなり低いが、相手を麻痺させることができる魔弾。『牽制魔弾』の消費ＭＰが非常に小さいことは理解していた。
そして全く考えていないのだが、消費ＭＰが小さいからこそ永遠にマヒさせ続けるはめ殺しのように『牽制魔弾』を『連射』し続けることが可能で、
「『設置』……………はできないんだ。へぇ？」
だんだんと『連射』が終わるのを待つのも面倒になってきたので『設置』までしようとしたが、さすがにそれはできないようだった。
（このまましばらく放置するのは面倒くさいなぁ～）
とは思いつつも、魔女さんを体から放り出して魔女さんの体で帰ってくることを待つ。その間研究者は永遠にも思える魔弾による攻撃と麻痺を食らい続け、地獄が見えたという。
《称号『はめ殺し』を獲得しました》
