日本サーバ初戦は理不尽で一方的だったものの、まだ何が起きているのか理解できてなおかつある程度プレイヤーの活躍も一部で見ることができた。
しかし、全ての試合がそうであるということは当然なく、
「何だよその装備。さすがに実力差がありすぎるだろ。降参したらどうだ?」
「馬鹿言ってんじゃねぇ!戦うのが嫌ならそっちが降参すればいいだろ!!」
とある国のプレイヤーたちの戦い。
それぞれその手には武器が握られているのだが、さすがにサーバによってある程度差ができてしまっているようで装備にもその違いがはっきりと出てしあっている。結果など分かり切ったようなものだった。
が、
「10秒で終わらせてやr、ギャアアアッァァァァァ!!!!?????」
「実力の差ってのを見せつけてy、グエエェェェェ!!!????」
そんな矮小なプレイヤーなどと言う存在に価値はないとばかりに、一瞬でその姿がかき消えていく。
その後、ほぼ同時と言ってもいいタイミングで奇麗になった視界の端で、
「な、何だその魔法陣!?」
「賢者か!?何するつもりだ!?」
プレイヤーたちをきれいに掃除した存在たちが、魔法陣を片手に展開する、
それも、全く同じものを。
それにより魔法陣を生み出した者達はすぐに状況を理解して、
「あら。あなたも救世主様にこれを?」
「ん?そっちは救世主様って認識なのね?……………まあそうよ。私の目標が、見せてくれた魔法よ」
両サーバの賢者という存在が、それぞれ近づき言葉を交わす。
両者ともに以前監禁されたりエネルギー源のように使われていたときに1人のプレイヤーから救われた過去があり、その話で同一人物であることを理解する。
こうなるとお互いなんだか共通点ができるとともに尊敬をしている存在に助けられた者同士ということで穏便な方法を検討し始め、
「あっ。そうだ。この間救世主様から魔法陣をいくつか見せてもらったのよ。それを見せたり救世主様の話をいくつかしたりするから、それで今回は手を引いてくれないかしら」
「あら。あなたは目標に何度かあったことがあるのね。うらやましいわ……………まあじゃあ、それで手を打つことにするわ。魔法も中断するわね」
一方の賢者が条件付きで手を引くことを決めた。何とも穏便な幕引きである。
その後しばらく情報を提供する側の賢者がプレイヤーのことを知っている限り話し、もう一方の賢者がそれを真剣に聞く。そんな構図となっていた。
そうしていると周囲の英雄たちは微妙な雰囲気になりながら戦うにも戦えないような雰囲気となり、武器を下ろす。
だが、残念ながら楽しい時間はすぐに終わりが来てしまうもので、
「あっ。そろそろ来るわね」
「ああ。そうみたいね。じゃあ私は失礼させてもらうわ」
一方の手を引くと事前に言っていた賢者が、その姿を消す。
直後、足元に巨大な魔法陣が現れ、
「え?賢者?」
「賢者帰った?というか、この魔法陣は…………」
「これはあれじゃないか?もしかして俺たちも帰った方が良いパターンの」
「ああ。ありえますねぇ。なら私はお先に」
「あっ!待て!それならば私も帰るぞ!!」
数名が帰ってしまった賢者に首を傾げ、数名が死ぬことこそないものの危険を感じて逃げていく。
そうして逃げたことが正しい選択だったと一概にいうことは難しいが、
「ギャアアアッァァァァァ!!!!!!??????」
「これは終わったか………」
「おとなしく逃げておけばよかったな………」
現れる巨大な怪物に次々と英雄たちは押しつぶされ吹き飛ばされ、敗北していく。
しかもどうにか固まって対処しようとしたとしても、
「あら。そっちにばかり注意が行ってると危ないわよ?」
「え?ちょっ、待て!こっちは味かt、グアアアアァァァァァ!!!?????」
同じサーバの味方かどうかなんて関係なく、賢者が誰かさんから教えてもらった魔法陣などを活用しつつ攻撃していく。
全てが終わるまでにそう長い時間はかからなかった。
だが、こんな戦いもまだ全体から見ればマシな部類と言えるかもしれない。
本当の地獄というのは、
「おとなしく消えろぉぉぉ!!!!」
「よくもやってくれたじゃないかお前たち!!」
「のこのこと出てきて、楽に死ねると思っているのかぁぁぁ!!!!」
怒れる英雄たち。彼ら彼女らにより、多くのプレイヤーがイベント的な敵味方関係なく吹き飛んで行く。
サーバによっては捕らえられ利用されてきたのは賢者だけではない場合もあるのだ。
何も守るものがない英雄たちに対抗できる力など、プレイヤーたちは持ち合わせていなかった。
「ん~。すごいですね。私たちがああなっていた可能性もあったと考えると、ぞっとしますねぇ」
「そうですね。見た目も私とほぼ同じですし、何が起きたかを考えるだけで心が痛いです」
そんな激しい戦いというよりも無差別な殺戮を見守るのが、英雄たちが狂っていない方のサーバの教皇と聖女。
狂っていないとは言っても、彼ら彼女らもまた理不尽な扱いは受けたことがあり、
「邪教徒を見つけたぞ!!」
「ここで仕留めるぞ!干渉させるわけにはいかん!!」
今もまた、理不尽な扱いを受けそうになっている。
イベント的には敵がかなり近くに数人いるにもかかわらず、なぜかプレイヤーたちは教皇と聖女へと武器を向けてきて、
「なぜわざわざここで私たちに武器を向けてくるのでしょうか」
「さぁ。この人たちの考えてることは良く分からないです……」
前々から邪教徒と呼ばれて排除されそうにはなっていたが、まさかここまでだとは思っていなかった。
わざわざ同じサーバの仲間であるはずの自分たちに武器を向けてくるプレイヤーたちに呆れた表情をしつつ、
「どうしますか?もうここから出ますか?」
「そうですね。それもいいかもしれません……………ただ、一応今後のためにも逃げながらしばらくまだ観察しておきませんか?」
「まあ、そうですね」
その後、結局最終的に宗教色の強い方のサーバが勝利こそ収めるのだが、聖女と教皇が非協力的、というか逆にプレイヤーたちが敵視している現在2回戦以降勝ち進められるのかは怪しいところであった。