「……それでは、また来ます」
「そうしておくれ。久しぶりに話せて楽しかったよ」
朝の使える時間は短く、とりあえず魔女さんと勉強しながら話をして教科書云々を許可した伊奈野は残り５分くらいの段階で転移。そしてやってくるのは３度目となる場所で、店主さんと話をした。
また物を買った方が良いのかと考えていたのだが、雑談の中で教科書のことを伝えたらそれだけでいいと言われ、
「それは情報屋のやつに使うのに良い情報になるよ。クククッ」
とか言っていた。
伊奈野は店主さんが裏で悪いことをしていないかと少し心配になりつつも、時間がなかったのでなにも言わずに去るのだった。
現実に戻れば、
「「おはよう。伊奈野」」
「ん。おはよう」
下の階で待っていたのは父と母。
父はエプロンを身に着けてフライパンを揺すっており。母親はせっせと仕事の用意をしていた。
そしてさらにもう１人、
「おはようございます。伊奈野お嬢様」
「あっ。おは～」
使用人（伊奈野の同級生）もいたのだが、その辺の事情はややこしいので今回は割愛。
その後降りてきたまだ眠そうな弟２人を合わせた家族で食事をとり、
「それでは行ってまいりますわ」
「いってきま～す」
使用人と共に学校へと向かう。通学方法は電車と徒歩。
伊奈野レベルになると受験ガチ勢なので、
「体積２Ｖ圧力４Ｐの気体を等温変化で………」
「６Ｖですわ。ではお嬢様。こちらはＤＮＡ配列における………」
登校中もひたすら使用人と問題を出し合う。
こうして他人が出す問題は自分の勉強しているものと全く違う角度から出てきたりするので、非常に重要なのだ。おかげで巻き込まれる使用人の方もあまり勉強はしていないが、かなり安定した成績を出せている。
登校後は授業を受けるのだが、すでに伊奈野は予習済みであり無駄な時間と言ってもいいほど。
その後の休み時間や昼休みなどもすべて使ってひたすら勉強…………というわけではなく、
「でねでね。この参考書がさぁ～」
「あぁ。分かる！めっちゃいいよねそれぇ～」
シャンプーのことでも語ってんのかと思うようなテンションで語り合う同級生たちと参考書トークや問題集トークをするのだ。
伊奈野の周りは少ないながらもガチ勢がいるのである。
ここで仕入れた情報はとても貴重であり、伊奈野が今後勉強していく上でもかなり役立つ。実際、今後購入する予定の問題集が数冊増えた。
「帰りに本屋でも寄ろうかな」
「お供しますわ、お嬢様。以前買いたいとおっしゃられていた本のリストも持ってきていますので、そちらもご覧になってくださいまし」
「ありがと～。助かる」
伊奈野はネット注文ではなく、本屋に買いに行く予定である。
「本屋って、出会いがあるからいいよね」
「「「「分かるぅ～」」」」
新たな出会いが参考書というのも悲しい話だが、それが受験生の日常であった。
その後は授業と参考書トーク、勉強トークを繰り返し、学校が終われば即本屋へ寄ってから帰宅。
「じゃあ、宿題だけ済ませるよ。その後は私は部屋に戻るから」
「分かりましたわお嬢様。私は家事を片づけておきますので」
使用人と共に宿題をし、というかほぼ使用人への授業のようになりながら宿題を終わらせ。それから他の細々とした必要なことを終わらせて、やっと今日２回目の、
「ログイン！」
朝に引き続きゲームがスタートされる。
今回は人が多いようで、日本サーバではなく宗教勧誘少女とうるさい人のいるサーバだ。
「さて、今日もいつも通りの道で行こうかな」
移動手段は徒歩。
腕輪はどうしたのかと思うかもしれないが、装備やアイテムはサーバに固定されるものなのである。全サーバ共通なのは金とスキルと称号とレベル。
それ以外のバフ効果やＮＰＣ、アイテムや装備といったキャラデータは一切引き継がれない。
しかしそれらは伊奈野にとってほとんどどうでもいいこと。
腕輪がないと少し不便ではあるが、スキルのおかげで餓死することもなければ何か強い装備や魔法を使いたいわけでもないので問題ない。
ネット上のものを読み込むのにも多少制限はあるが伊奈野には関係ない程度なので好きなように持ってきては問題を解いている。
「今日も勉強日和だな～」
「別に良いんですけど、それ毎日言ってませんか？」
「私も毎日聞いてますね。たまには私とのお話日和にはなったりしないんですか？」
「………………」
「無視ですか」
「相変わらずですねぇ。たまには私の神の話を聞くのもいいことだと思うんですけど……」
こうして、空いていれば日本サーバ。混んでいればそれ以外という彼女の基本的な流れはできた。
後はひたすら毎日これを繰り返して勉強をしていくだけ。
なのだが、次の日の朝。
すぐにその順調な滑り出しがまた止められて、
「あっ。師匠。しばらく図書館利用できなくなるそうです」
「………………えぇ～？」
使用人ちゃんはめちゃくちゃ重要なキャラでこの作品のもう１人の主人公と言って良いくらいなので、ここでちょっと登場させておきました。本格的にかかわってくるのはもう少し先です。
しゃべり方はちょっと疑問に思うかもしれませんが、元からこういう設定です。決してよく感想をくださる方に影響を受けたわけではありません。ですので、変な口調で感想書いて次の新キャラのしゃべり方にしてやろうなんて思わないことです！
か、勘違いしないでよね！！（笑
