個室を生み出せるスキルがあると知り、少し興味が出てしまった伊奈野。ただ、だからと言ってそれを得るためにわざわざイベントをしに行きたいとまでは思わない。
たなぼたでチケットが手に入らないものかと少しだけ期待しつつ、伊奈野はその日2度目のログインを行なった。
2度目のログインで行くのは、当然日本サーバではない。ダンジョンのある海外サーバだ。
ではそこで待ち受けている者はというと、
「骸さん。その恰好は……………」
「む?なぜかは分からんが、神からこの格好をさせられてな。余もよく分かっておらんのだ。禁忌を犯しているというのにこういう時には寄ってくるという、神も不思議な存在よな」
骸さん。なぜかこのサーバはこういった他宗教に対して厳しい国のサーバであるにもかかわらず、クリスマスコスをした骸さんである。
しかも、驚いたことにその姿はサンタであり、
「ミ、ミニスカサンタ……………」
「む?そんな名前の格好なのか?これは」
大腿骨がしっかりと見える短いスカートをはいた骸さん。いわゆる、ミニスカサンタ衣装なのである。
(海外はそういうのうるさいし、ネタにしてもいい骸さんをミニスカ枠にしたのかな……………骸さんにやらせるくらいなら、やんなくてよかったようにも思うんだけど)
「しかしこの格好は威厳がないな。赤が明るすぎて王としての格がな……………」
「ハハハッ。まあそれはその恰好をする人の役割から考えると仕方ないとは思いますけど……………」
そうして軽く骸さんと雑談して骸さんのミニスカサンタへの複雑な感情があふれないようにした後、伊奈野は机に向かい勉強を始める。
それから1時間ほど経って休憩に入って伊奈野は気づくのだが、
「あれ?炎さんは普段と変わらないんですね」
伊奈野が視線を向けるのは、全身が炎になっているモンスターであり伊奈野のダンジョンマスターとしての仕事を補佐する炎さん。
今まで見てきたNPCな者達は皆クリスマスコスをしていたというのに、炎さんは普通なのである。
「ま、まあ私はモンスターですからね。骸様とは違うのですよ。というか、骸様以外に自分は変な格好をしてる人を見ていないのですが」
「あっ。そうなんですか?……………まあ、ここのことを考えればそれが普通に思えますけど」
本当はこんな格好をしている方がおかしいのだ。
人前に出ることがほとんどないから遊び心でも加えたのかと伊奈野は考えつつ骸さんのミニスカサンタをもう一度横目で見た後、炎さんとの会話に戻り、
「逆になんで骸さんはこの格好をさせられたんでしょう?」
「さぁ?それは自分にも何とも。ただ気になるのは、本当に骸様以外にこの格好をしてる人がいないかどうかということですね」
「というと?」
「先ほども言いましたけど私は骸様以外にこういう格好の人は一切見ていませんが、もしかすると、例の宗教の人間以外は骸様のような恰好をしているかもしれません」
「あぁ。なるほど。あれに属していなければそこまで過激ではない人が多いかもしれませんからね」
このサーバでもまだNPCの全員が同じ宗教を信仰しているわけではないと思われる。それこそ数か月前の話にはなるが、勉強場所を提供してくれていたこのサーバの宗教勧誘少女やうるさい人などはその典型的な例だろう。
そういったものたちは、もしかすると骸さんのようにクリスマスコスをしているのではないかと炎さんは考えたわけだ。
「……………まあ、ないとは言いませんけど、それ何か意味があるんでしょうか?」
「さぁ?それは自分にも何とも」
ただ、そんなことをする必要性はあまり感じられない。結局骸さんサンタコスをさせられている理由は汲み取ることができなかった。
「あっ。そうだ。骸さんが変わったなら、ダンジョンに変化は起きてないんですか?限定のアイテムが追加されたりモンスターが追加されてたり」
「む?それは考えなかったな。少し調べてみるとしよう」
ダンジョンにだって季節的な何かがあってもいいのではないかと伊奈野は考える。ということで骸さんに調べてもらえばやはり、
「あるな。見たことのないフィールドが」
「モンスターも知らないものがいくつか増えていますね。新しく雇うことができるのは期間限定と書かれてますよ。期間以降は維持はできますけど 新しく設置はできないみたいです」
クリスマス専用の階層やモンスターを追加できるようだった。しかもイベント用のものであるため、性能に対して通常のモンスターよりも若干必要なDPが低いらしく、
「新しく全て揃えるか」
「ですね。特にこの2番目のとか特殊ですし、かなり役立つと思います」
「そうだな」
次々と階層やモンスターが追加されていく。
中間あたりの階層として追加されるようなのだが、この階層がクリスマス期間中に日の目を浴びることはないと思われる。
この階層が何の因果関係もない普通の日に突入された時、一部の者達が脳を破壊されずに済むのかどうかは怪しいところだった。
「うわぁ~」
それこそ、伊奈野もドン引きしてしまうような階層が追加される。
その表情は今までダンジョン内で見せたようなものではなく、どこか悲しそうな、それでいてあまりにも信じがたい物を見たような、そんな目だった。
《称号『プレゼント交換のダンジョンマスター』を獲得しました》
《称号『1人クリスマスのダンジョンマスター』を獲得しました》
《称号『煙突のダンジョンマスター』を獲得しました》
《称号『プレゼントミッションのダンジョンマスター』を獲得しました》
悪夢は予想外な時期に、予想外の場所で待ち構えている。
そしてその予想外の奥底では、ミニスカの骸骨も待っているかもしれない。
わぁ~ミニスカですよ!これは鼻の下を伸ばす人たちが増加すること間違いなしですね!!