「図書館使えなくなるんですか?」
「はい。そうなんです。何度か図書館へ入る許可証がないのに無理矢理突破しようとしてくる人がいたり、襲撃があったりして。防衛体制を変更するために司書がしばらくこの図書館を閉めたいと言い出しまして」
「そうなんですか………それなら仕方がないですね」
襲撃まで受けているというのなら伊奈野は図書館の利用を諦めるしかない。
ただ、サーバを変えれば好きに使える場所があるのでそちらを使えばいいわけだし、
「……ん?」
「どうかされましたか?師匠」
「いえ、わざわざそんな手順を踏まなくてもいいのではないかと思っただけです」
「………………ほぇ?」
よく分かっていないような表情で魔女さんが首をかしげる。
しかし、それを伊奈野は無視。図書館から出て、伊奈野は覚えている場所まで向かって行くことにした。
「ちょ、ちょっと待ってください師匠!ついていきます!」
「ん。そうですか。どうぞ」
伊奈野は歩いていたので魔女さんが見失うこともなく、走って追いかけてくる。
2人でともに歩きつつ、伊奈野の目指す先へと向かって行くのだった。
彼女が向かった先にあるのは、
「え?ここ、ですか?」
「ええ。ここですよ」
目の前にある建物に驚愕した表情を見せる魔女さん。
だが、伊奈野はその驚きを気にせずに目の前の建物。海外サーバでよく使っている小屋の扉をノックした。
「はいはぁ~い」
ノックの反応が小屋の中から返ってくる。
その声に聴き覚えがあり伊奈野は少し嫌な気分になりつつも、扉が開くのを待つ。
数秒もしないうちにその扉は開かれるのだが、その扉から現れるのは、
「何の御用で………って、あれ?久しい顔ですね」
「ええ。久しぶりね。こんなところにいたなんて知らなかったわ」
うるさい人。なのだが、どうやら魔女さんとうるさい人は知り合いだったようでお互いの顔を見て驚いている。思わぬ再会というものだろう。
魔女さんも素のしゃべり方が出るくらいには親しい仲のようだ。
このまま放っておけば2人が思い出話に花を咲かせるのかもしれないが、
「すみません。この小屋借りたいんですけど良いですか?」
その空気をぶった切って自分の要求を通すのが我らが伊奈野である。
困惑した顔をうるさい人は見せながらも、
「え?あ、ああ。別にこんなところでよければ貸すのはかまいませんけど。どうやらあなたは教会に貢献してくださった方みたいですし」
許可が下りる。ここで初めて伊奈野は、
(あっ。うるさい人ってこの小屋使える許可出せるくらいの人だったんだ!?)
ということを知る。ずっと伊奈野の中のうるさい人は、もう仕事も辞めてやることがなくなったから小さな宗教の教会のような場所でやってくる人々に長話を仕掛けてくる面倒なだけの人だったのだ。
そんな新たな発見がありつつも、
「あっ。じゃあ失礼します。とりあえずこれ、利用料です」
「え?お、おぉ?お布施として受け取っておきます、ね?」
部屋を貸すということをこのサーバの教会はやっていなかったのでうるさい人は困惑する。が、それでも教会への寄付だと納得して伊奈野から料金を受け取った。
伊奈野は教科書として学会で配られたものの印税なんかがいつの間にか魔女さんから送られてきていてさらに所持金が増えていたので、数万G払ったことで痛くもかゆくもない。
料金を払えばあとはいつも通りの動きで机に向かい勉強を始める。
今まで使っていた小屋とは違うサーバの小屋なのでその前にいろいろと説明も必要なのだが、伊奈野はあまりにもなじみ過ぎた流れだったのですっかり説明なんて忘れていた。
そのままいつものように集中して周囲を完全に無視しだしてしまったので、
「え、えぇと。賢者。事情の説明をお願いしてもよろしいでしょうか?」
「もちろんよ。教皇…………とはいっても、私だってそこの師匠についてきただけなのよね。なんで師匠がこの場所を知ってたのかとか、そういうことは一切知らないわ」
「そ、そうなのですか?そういう話を今までも聞いたこともなかったので?」
「ええ。なかったわ。というか、数日前まで師匠どこかに行ってて会えなかったし」
「な、なるほど。そうなのですか」
こいつマジで何なんだよ、という目でうるさい人から見られる伊奈野。
だがもちろんそれに気づくことはないし、ただただ彼女の解くべき問題を解いていくだけである。いつもと何も変わらない。
…………ただ、いつもと違いがあったとすればここに宗教勧誘少女がいないこと。魔女さんが伊奈野を師匠として認めていたこと。そして、伊奈野が不思議で気になる人物であることというのもあり、
「………こ、これは!?」
「ん?何かあったの?」
「あったどころではありませんよ!これは、確実に我が教に必要な………」
うるさい人は普段、伊奈野に話をするばかりで伊奈野の行動に細かく関心を向けてくることはなかった。
しかし、普段の伊奈野がかかわるうるさい人とは色々と違ったがために、
「………ふぅ。終わりましたね」
伊奈野がペンを置いたとき。
その瞬間に、
「私も、弟子にしていただけないでしょうか!」
「「……………はぁ?」」
司書が防衛体制を強化する世界………