クリスマスイベントも数日はあったが、伊奈野が勉強をしていると割とすぐに流れていき。
いつの間にかその日は、
「あっ。今日イヴじゃん」
朝起きた伊奈野は、その日が1２月２４日、つまりクリスマスイヴであることに気が付く。
寝起きでまだぼぉっとする頭の中ごちゃごちゃと色々と考えて、
「まあ、一応何かしておこうかな」
明日のクリスマスのため、少しだけ準備をしておくことを決める。
とはいっても、やることなどせいぜい以前店主さんに連れて行ってもらったお店でプレゼントを買ったり、
「……………あれ？」
買ったりしようと思ったのだが、出だしでつまずいた。
以前行ったお店が、いつの間にかなくなっていて全く別のお店に変わっていたのだ。
「どうしたんだろう？まあ、他のとこが閉まってたらここでも良いんだけど」
伊奈野は首を傾げつつ、別の店主さんに案内された店へと向かう。
先ほど変わっていたお店もオシャレな外見ではあったので、もし伊奈野が以前案内されたお店がすべて閉まっていたり特に良い物がなかったりするのであればそこにしようなどと考えて、
「あ、あれ？間違えた？戻ってきちゃったかな？」
伊奈野はまた首をかしげることになった。
なぜか、伊奈野が記憶を頼りに移動すると先ほどおしゃれだと感じたものと同じお店が現れたのだ。しかも、伊奈野が目指していたお店が本来あったはずの場所に。
同じ店を探してしまったのかとか、道を間違えて同じところへ戻ってきてしまったのかなどと受験勉強のしすぎで自分が少しポンコツになっているのかもしれないなどと思っていたのだが、
「……………ここも？なんか、おかしくない？」
次、また次と伊奈野がお店を回っていき、さすがに違和感を覚え始めた。彼女が目指す先々に、というか彼女が以前店主さんと一緒に来たはずの店に、まったく同じおしゃれなお店が現れてくるのである。まるで、どこにでもあるようなコンビニのように。地元のお店を完全に打ち負かして周辺を支配してしまうチェーン店のように。
「私、呪われてる？絶対呪われてるよね？」
もしかしたら自分には目的地がこの変なお店に変わってしまう呪いがあるのかもしれないと伊奈野は考え始める。
そして、
「あっ。さすがにそんなことはないっぽいね。うん。まあ、全部がおしゃれなお店になるとは思ってなかったよ。さすがにね」
すぐにそんなことはないことを理解した。まあ伊奈野も最初からそんなことはないと考えていたようで、誰に対してなのか分からない言い訳を延々と１人でつぶやいていた。
それはそれとして、こうなってくると気になるのがなぜあんな伊奈野の目指す先々でおしゃれなお店が現れてきたのかということなのだが、
「私が行ったから？」
図書館に転移した後。伊奈野はいくつか転移して他の場所に姿を現してみたりもしたが、どこもオシャレなお店に変わっていることはなかった。
昔から在ったお店がチェーン店に破壊されずに済んでいるのである。
となるとそう考えたくはないもののあり得る可能性、というか共通点として伊奈野が最初にあげられるのが、そこまでのお店は伊奈野が訪れたことがあるお店であるということ。つまり、伊奈野が訪れたからこそつぶれたのではないかという予測が立てられてしまうわけだ。
「さすがにそれはない、よね？いやでも……………」
伊奈野が訪れた時、伊奈野と一緒にいた人物。それは、体こそそこにはなかったものの意識は伊奈野の中にしっかりとあった。
それならば、
「店主さんが、潰した？」
潰したのか、それとも買い取ったのか。事の真偽は分からない。
しかし伊奈野としても今までの色々な出来事から店主さんがただ露店で店主をしているだけの人物ではないことを理解しているため、その可能性がないとは言い切れなった。
というよりも、その可能性は高いとすら思える。なにせ、
「魔女さんにも似たような使い方されたからな～。私を使って油断を誘い、何かを見たってことだよね？」
伊奈野が店主さんに店巡りを提案された時。店主さんは自身の顔が知られていて、自分のまま行くと警戒されて買い物が楽しめないといったようなことを言っていた。
警戒されてというのは間違いないのだろうが、伊奈野の推測では警戒されて起こることは隠蔽。店主さんから都合の悪い物を見られないように。
「……………やめやめ。なんか考えれば考えるほど怖くなってくるし、別の楽しい事でも考えよ」
伊奈野は首を振り、自身の考えを頭から追い出す。どれだけ考えたところで推測の域を出ることはないし、それ以上考える必要などない。考えたって、勉強の役には立たないのだから。
「気分切り替えて、お店でも見ようかな。このチェーン店がどんななのかも見ていきたいし」
伊奈野は思考を切り替えて、オシャレなチェーン店へと足を踏み入れる。期待というか予想ではチェーン店であることも考えてコンビニのようなものを考えていたのだが、
「コンビニというかスーパーというか……………」
店内はコンビニよりも広く、品ぞろえも多い。
というか、ここはゲームの世界であるため現実で伊奈野の周囲にあるような店とは違い、
「これは、武器？こっちはなんだろう……………なんか、完全に好きなもの置いてますみたいな感じだな～」
見た目はオシャレでチェーン店であるが、実際売っているものは店によってかなり違いそうな雰囲気のある商品のラインナップとなっていた。
武器から防具からアクセサリー、そしてインテリアや回復薬や何かのモンスターの素材など。売っている物は多岐に渡る。しかし当然、そういったものは複製の難しそうなものも大量にあった。
「まあ、プレゼントにはちょうどいいのかもしれないけど……………」
クリスマスプレゼントにするには、丁度良いのかもしれない品ぞろえ。伊奈野も資金には余裕があることだし、好きなものが買えると思われる。
ただ、少し気になることがあるとすれば、
「ん？や、安い？」
その店で売られているものが、明らかに安いということだ。確かに伊奈野は浪費することが少ないのでかなりの金額をためている方だとは思っているが、それにしても安く感じる。まるで自分の金銭感覚が狂っているのではないかと思うほどに。
（教科書にされてる本とか勝手に売れていってるし、働かなくても入っている所得があるから稼げている方ではあるのかもしれないけど……………それにしてもじゃない？私もしかして結構マズいかな？）
不安にはなるが、
「まあ、いっか」
だからと言って直そうとも思わない。この世界はゲームなのだから。現実のお金を浪費しなければいいだけの話なのである。
「さてさて～。見ていこうかな～」
少しだけ抑え気味で行こうと決めつつ、伊奈野は商品を見ていく。
結果として、
《称号『掘り出し物専門者』を獲得しました》
抑えたら抑えたで変な称号が付く伊奈野なのであった。
