「はぁ~。ホワイトクリスマスだね~」
「そうですわねぇ。お嬢様、滑らないようにお気をつけてくださいまし」
「あははっ。大丈夫だy、おっとぉ!?」
「お嬢様!?大丈夫ですの!?……………フラグを立てきる前にフラグを回収しないでくださいまし」
「あはは~。ごめんごめん」
雪の降る中、伊奈野は学校帰りの道を瑠季とともに歩く。
この日はクリスマスイブということもあり学校の中もどこか浮ついていて、伊奈野や瑠季として少しだけ気分が重い日でもあった。
「この間のでA美ちゃんたちにも彼氏できたし……………皆これからデートなんだってね」
「らしいですわね。友達とクリスマスパーティするって親に言っておいて彼氏と出かけてお泊りまでするなんて……………正直言わなくてもブチキレそうですわ」
伊奈野達の周囲には、彼氏や彼女など恋人を持っている者も多い。そんな彼ら彼女らは親に友達とクリパをすると偽って、恋人たちとデートするだけでなくお泊りまでするというのだ。
しかも翌日学校に行ったあとクリスマスということでまたデートするということであり、爆弾を仕込みたくなるのも仕方のない事だろう。
使えるのであれば、「しゃべらない君は実にカワイイよ」とか言いながら、第2の爆弾でリア充大量爆発をして女性の手首だけ持って帰りそうなほどである。
「あれ?私がいつの間にかどっかの変態と同じ扱いをされてる気がするけど気のせいかな?」
「さ、さぁ?突然ですわね。さすがに気のせいではないですの?」
「そっか。まあそうだよね」
伊奈野はどこからか感じた悪意に一瞬顔をしかめたが、すぐに気のせいだということにしてまた瑠季と和やかに話しつつ帰り道を歩いて行く。
その会話の中で話題に上がってくるのは、むなしくということもありデートへとしゃれこむ同級生たちへの恨み節だけではなく、
「クリスマスイヴのイベント、色々あるんだってね」
「あっ。お嬢様もご存知でして?そうなんですのよ。朝は見ていないので分かりませんが、結構面白そうですし参加してみるつもりですわ」
「へぇ~。参加するんだ。どれやるの?なんか、プレゼント配ったりソリに乗れたりするって聞いたけど」
「とりあえずいけるところには全部行くつもりですわ。特にプレゼントをもらえるのは積極的に行きたいですわね。もらえるものは食料とかが基本だとは聞いてますけど、無料でもらえるなら行かない手はございませんの」
このクリスマスイヴという日に企画されているゲームのイベントの話も盛りあがってくる。
伊奈野も魔女さんから簡単に話は聞いていたが、詳しいことは瑠季の方が知っているということもあり瑠季からいろいろと聞くことで知識も増えた。それが必要かどうかはともかくとして。
「ソリって言えばさ、私チケットでソリ交換してみたんだけど」
「あら。そうなんですの?あのふざけるなって言いたいくらいチケットが必要で、なおかつたいして使えないソリと交換しましたの?」
「あっ。うん。そうだけど、ソリってそういう評価なんだ……………」
「そうですわよ。浮かんでるから空を飛ぶタイプのモンスターに引っ張ってもらえば空まで運んでもらえるのかもしれないですけど、そんなことするくらいならソリを付けずに自分が乗ればいいだけですし」
「そ、それもそうだね」
ソリはあまり必要性を感じられていないものなのである。伊奈野も理由に納得できる部分はあるし、もしかしたらソリを交換したのは間違いだったのかもしれないと若干心の中で思うのであった。
そんなショックを受けつつ、伊奈野達の家までの距離は短くなっていき。
最終的に瑠季がどこからか仕入れてきたらしいダンジョンのクリスマス限定の階層の話をし始めたところで帰りつき、
「ただいま~」
「ただいま帰りましたわ……………って、す、すごいですわね」
伊奈野は普段通りのテンションで。瑠季もそれに続いて普段通りにしようとしたのだが、目に入ってきたものにより驚かされその動きを止めることになる。
伊奈野達の目の前にあるものは、今朝学校に行く前には家になかったはずの、
「去年も思いましたけど、飾り付けが豪華ですわね~」
「だよねぇ。この時期は2人が張り切るからね」
クリスマスの飾りつけである。
しかも、非常に豪華なもの。芸術性に富んだ弟たちが視覚的な豪華さと聴覚的な神聖さや楽しさなどを引き出していて、正直家庭でやるクリスマスの飾りつけや演出にしては度が過ぎているにもほどがあるものだ。
この光景が毎年のものとなっている伊奈野は気にしないが、使用人としてまだ何年も仕えているわけではない瑠季は圧倒される。
「あっ。おかえり」
「おかえり」
「2人ともただいま~。相変わらずだね」
伊奈野と瑠季を出迎えるのが、飾り付けをした張本人である伊奈野の弟たち。
あまりはっきりと表情を作っているわけではないので分かりにくいが、どや顔をしている、そして、解説というわけではないが、
「まあね。少し去年との対比も作ってみたんだけどどうかな?」
「こっちも飾り付けに合わせて音楽変えたから印象変わってると思うんだけどどう?」
「あぁ~。去年との違いね。確かに何か配色とか物の位置とか変わってる気がする。瑠季ちゃん、どう?」
「えっ!?こ、ここで私に振るんですの!?私そんなに分かりませんわよ!?というか圧倒されててまだそんなにしっかり見れていないというか………と言うかあれっ!?こんなところに道がありまして?って、ここ錯覚で道があるように見えてるだけ!?手が込み過ぎですわ!!?」
昨年との違いを尋ねてくるが、伊奈野はそれを平然と流して瑠季に振る。振られた方はしっかりと細かいところまで見て違いを感じるとかいう状態ではまだないため、あたふたと慌てることしかできなかった。
「さてさて。じゃあ私は少しだけお父さんのお手伝いでもしようかな~。さすがに今日の料理は大変そうだしね」
「あっ。わ、私もお手伝いしますわ!!」
このままではしばらく放心して動けない可能性があると考えた瑠季は、伊奈野の発言に食いついて急いで移動する。
ただその日、いつもより料理中も注意が散漫になっていて伊奈野の父親に何度か怒られたという。
「……………この飾りつけの中で集中するなんて流石に無理がありますわぁ」
今日はクリスマスイヴ。
クリスマスは。まだまだ始まったばかりである。