本日2話目
クリスマスも終わり。
冬休み期間へと移行するためすぐに新年になる……………ということはさすがになく。
伊奈野は冬休み初日は必要な作業に追い込みをかけていた。その作業というのが、
「これで基礎部分は終わりかな~。後は応用問題をどこにどう追加していくのかってところだけど」
伊奈野の前にあるモニターには、びっしりと文字が書かれておりところどころに図や写真が載せられている。
使われている図は基本的に伊奈野が手書きしたものであり、そこそこの絵心をうかがわせる。
こうして書いてまとめてとしているのが、
「さすがに期限までには余裕で終わりそうかな~。(土下)座天使さんにあげる生物の本」
生物の本である。
熾天使な(土下)座天使さんに頼まれたものであり、怪しい服の人を経由して届けられる手筈となっている。
その怪しい服の人に伊奈野が本を届けに行く期限がそろそろなのだが、それには十分間に合いそうな現在のペースである。
ただ、やはりそうして書いたりまとめたりしていると気になってくるのが、
「本当にこれゲームの中で使えるのかなぁ?魔法とかの要素もあるしこっちの法則だと絶対に存在しちゃいけないような生物もいるしあんまり通用しない気がするんだけど……………唯一大概の生物に通用するのは、首がある場合首を切り落とせば死ぬっていうくらいだよね。まあ、骸さんとかは首を刈り取っても生きてそうだけど」
ゲームはファンタジーな世界である。そこに現実世界の生物の知識を使ったとして、実際にどこまで正しいのかというのは疑問が残る部分となっていた。
小さな核で柔らかい肉体を操るスライムや、骨だけであるにもかかわらず動くことができるスケルトン。果てには物理的な肉体を持たないゴーストやレイスと言った存在まで。様々な現実世界の法則は適用されないような存在がいるわけだ。
「まあ他の物理とか化学もあんまり通用しないような気もするけど、生物はそれ以上にね~。何になら当てはまるのかっていうのを探すのが大変そうだし」
とりあえず伊奈野が知っているのは、ゲームの中でも呼吸をしていて一酸化中毒にはなるということと、たいていの肉体を持つ生物は肉体を消滅させられると死ぬということくらいである。
それ以外の血液に関することやDNAに関することなどは本当に当てはまるのか怪しいと思っている。
「まず魔力を操る機構とか体の中で魔力を生み出してるのかとか蓄えてるのかとか、色々と私の知らないことが多いし……………うぅん。受験は関係ないし調べてられないけど、本当にこれ渡していいのか悩むな~。約束しちゃってるから渡すしかないんだけどさ~」
難しい顔をしながらも資料をまとめていく伊奈野。
ただ、1人で悩んでいても答えは見えないままだった。
だがそんな時、
「お嬢様~。一緒にお勉強してもよろしくて?」
「あっ瑠季ちゃん?良いよ~入って~。ちょうど聞きたいこともあったし」
「聞きたいことですの?……………よく分かりませんけどとりあえず失礼しますわ」
丁度良い相談役が現れる。
かなり長い間ゲームをやっており、攻略の最前線に近い場所にいて、話によるとNPCの知り合いも一定数いる。伊奈野よりもゲームの知識に関しては詳しいところが多い瑠季である。
早速相談してみて、
「うぅん。そうですわね。私も生物の構造がどうなっているのかとか、どこまで細かくつくられているのかは分かりませんわ。ただ、噂によると18禁バージョンでグロ関係のものがあるらしくて」
「え?そういうのあるの?」
「あるらしいですわ。そこならスプラッタな感じで血の部分とか内臓の描写とかされていると思いますしある程度現実に即した作りはされていると思うのですけど」
「そうなんだ……………それなら確かに細かい作りとかある程度はされてそうだね」
未成年には『エフェクト変更』などで表現をマイルドにするということが行なわれていた。その真逆に位置するように、18禁ではあるが残酷な内容を出してグロくリアルな映像をも見ることができるというのだ。
そんなグロにおいて、ただ血をたくさん出すだけというのはあり得ない。そんなものでグロテスクをうたっているのであればその運営はグロというものの良さを全く理解できていないニワカ勘違い野郎である。
グロにはやはり痛みや苦しみによる表情の変化、悲鳴、音、そして体の細かい状態を見れてこそなのである。血でごまかすだけでなくできるだけリアルな表現をすることこそが重要なのだ。
ということで、そういったグロ描写がある18禁バージョンがあるというのであれば、ある程度モンスター全てがどうかは分からないが一定数の種類の生物は体の構造などがしっかりと作り込まれているはずである。
1からそういった細かい作りを考えるとはさすがに思えないし、何かしら現実のものを基にして構成していると思われるため伊奈野も(土下)座天使さんに本を渡しても問題ないと考えられるわけだ。
「……………もしかしてお嬢様、生物の知識を使ってモンスターを殺すつもりですの!?頸椎を破壊すればそこから伸びてる神経が使えなくなって後はたこ殴りにできるぜぇ!ケケケッ!とか思ってますの!?」
「いや、思ってないから。というか、ケケケッ!て私をどういう風なキャラだと思ってるの?私そんな笑い方したことあったっけ?」
「あ、あら。違いまして?なら私の記憶が間違っていたようですわ」
「いや、本当にどういうキャラだと思ってたの!?」
軽口をたたきながら、2人で勉強を進めていく。
流石にこの時期になってくるとお互い会話中も一切相手を見たり顔を上げたりすることはなく、ひたすら目の前の課題を解き続けるだけだ。
「お嬢様は、まだそこまで勉強していても分からない部分がありまして?」
「まあなくはないかな?あと、単純に初めて見るタイプの問題は回答の導き方を模索するので時間がかかるから今のうちに解ける問題の解答時間を最短にしようとしてるって感じかな」
「なるほど?なんか見たことがある気がする問題でもよく間違える私とは大違いですわね~」
あ、あれ?現実パートの話は半分くらいですぐにゲームの方に戻ろうと予定してたはずなんですけど………次回ちゃんとゲーム戻すので許してください(土☆下☆座