とある場所で行われるとある会議。
それは運営により公にライブ配信されているのだが、
「それではこれより会議を行なう。まずは司会として我、国王が此度の会議を取り仕切らせてもらう。此度の出席者は我を含む英雄８人全員。そして、我がパートナーにして悪役令嬢。我が娘のパートナーにして下僕。聖女のパートナーにして狂信者。勇者のパートナーにして切り込み隊長。騎士団長のパートナーにして鉄壁の副団長。以上合計１３名となる」
「ん？待ってくださいまし。そこの３人のパートナーはどうなってますの？」
「賢者、教皇、そして大商人の３名のパートナーは欠席となっている」
「へぇ？」
悪役令嬢と呼ばれるプレイヤーの１人は意地の悪そうな笑みを浮かべる。
それを見た同じギルドに所属する切り込み隊長と鉄壁の副団長と呼ばれる２人がこめかみを押さえるのだが、彼女は止まらない。
「あなたたちのパートナーはその程度なんですの？この重要な会議にも参加できないような腰抜けとは、たかが知れてますわね。下民は嫌なものですわ」
心底馬鹿にしたような言葉。
これは彼女の本心というよりも、ロールによるものが大きい。彼女は今、悪役令嬢という役割を最大限に楽しんで嫌味を言っているのだ。
が、
「あぁ。申し訳ないわね。私の師匠はこういうのに一切興味ないのよ」
「ですねぇ。私の師は時間の無駄だと判断されるでしょう。というか、実際そう判断されたからこその欠席なわけですし」
「カカカッ。私のお得意様はこんな会議眼中にないからねぇ」
煽りなど大して気にした様子もなく。
というか、どこか憐れんだり楽しんだりするような様子の英雄３人。
「なぁ！？」
そこまではっきりと言われてしまえば悪役令嬢と呼ばれる彼女も言葉を失う。
この本イベントと言われる運営が用意した世界中で共通に起こっているイベント。それを、興味がない価値がないと判断するような図太い神経を持った人間がいるというのだ。
それはつまり、この会議がライブ配信されているのを見ている数千万人に対しても価値のない時間を過ごしていると言っているようなもの（ちなみに本人は一言もそんなことは言っていないし、思ってもいない）。
「………随分と、骨がある下民ですのね」
何とか言葉を絞り出した悪役令嬢だったが、その姿は誰が見ても敗北者だった。
この後ＳＮＳでは『＃悪役令嬢断罪』というのがトレンド入りするが、首も飛んでいないし平民にもなっていないし国外追放にもされていない。
ただ、その３人のパートナーとやらに興味がわいただけであった。
そしてそんな会議が起きているなどつゆ知らず。
その時間の伊奈野は、
「すぅぅぅぅすぅぅぅすぅぅ………………………」
静かな寝息を立てながら寝ていた。
この日は様々な人が見ることができるようにという理由で深夜に会議が行われていたため、伊奈野はすでに就寝していたのであった。
記憶の定着には睡眠も大切ということで、７時間は毎日睡眠時間を確保しているのである。おかげで健康な伊奈野なのであった。
次の日。
朝、伊奈野はログインしてきて、
「「あっ。師匠おはようございます」」
「おはようございます魔女さん。うるさい人。昨日だか一昨日だかが会議だったんでしたっけ？」
「そうなんですよ！色々と決まったんですけど………師匠は興味ありませんよね？」
「あんまり興味ないですねぇ………ここと図書館の利用に関係ありますか？」
「いえ。まったく関係ないです。私たちの戦いの話が主だったので」
「そうですか。じゃあ結構です」
会議で何があったのかすら聞くこともなく。いつものように勉強を進める。どこか話したそうな雰囲気を弟子２人が出していたにもかかわらず、だ。
これを見た弟子２人は、やはり伊奈野は他の人間と格が違うというのを感じるのであった。
「………………あっ。そうそう。うるさい人」
「うるさ………あっ。私のことでしたね。どうかされましたか？」
「昨日………ではなく、先日お渡しするものをまとめ終わったのでお渡ししておきますね」
「あっ、ありがとうございます」
まだ自身がうるさい人であることになじめていないうるさい人は、伊奈野からこれまた分厚い資料を受け取る。簡単にまとめられた時系列順の出来事や、関連する出来事。そしてそれらを覚えるためのさまざまな形式の問題と答え。
それらが宗教史だけであるにも関わらず詰まったそれは、下手な教科書の何倍も分厚いものとなっていた。
「うぅん。これは教会の宝物にすべきですね」
「いや、それは師匠から貰ったものであって神から貰ったものじゃないでしょ。何言ってるのよ」
「しかし、神の教えを広めるためには必要なものですからね………」
色々と大丈夫なのかと心配になる会話をする弟子２人を横目に、伊奈野はその渡した宗教史の資料と現在学会で教科書として使われている資料とさらにその他の諸々の勉強に必要なデータが合体された下手をすると本棚に入らないくらいの分厚さの本をパラパラとめくっていた。
「「………え？なんですかそれ！？」」
自分たちの貰ったものでも十分な厚さがあったため伊奈野からはほとんどの学びを得たのではないかと浅いことを思っていた２人は、その分厚さに絶句し、侮っていた自分を戒めるのであった。
ちなみにこれにより、
《称号『英雄ですら届かぬ者』を獲得しました》
また何かログが流れていたが伊奈野は気が付かない。
ログアウト後の会話
「おふぁようがじゃいましゅ。おじょーしゃま」
「ん？おはよう。そんなに眠そうなの珍しいね。どうしたの？」
「ふぁ～…………ちょっとゲームをしてて寝るのが遅くなってしまったんですの」
「そうなの？息抜きも大事だけど、ちゃんと時間は管理しなよ？寝ないと身長も伸びないっていうし」
「っ！こ、このまま１４５.４ｃｍで終わるなんて嫌ですし心得ておりますわ…………………あの３人のパートナーの方が有意義な選択をしていましたのね(ボソッ」
主人公より先に他キャラの身長が公開される作品ｗ
