地中に潜り暴れるモンスターと戦い始めてからどれほどの時間が経過しただろうか。
イベントそっちのけで行なわれたその戦いは、だんだんと周辺へと話が広がっていき人が集まるようになり、対応力が上がっていく。
ただ人が増えればそれだけ犠牲者も増えるということにもなるわけで、
「た、倒した!1体目倒したぞおおぉぉぉ!!!!!!」
「「「「ウオオオオオォォォォォォォ!!!!!!!」」」」
「いや、盛り上がってるけどもうすでに1体倒したくらいじゃあんまり変わんない状況になってるんだけど?」
「まあ、もう6体くらい増えてるからな。今更1匹減ったところで」
どうにか1体倒しても、その時にはすでに大量に同じモンスターが増えている。
増えるペースに対して全く倒すペースが間に合っていないのだ。
実をいうとこのモンスターのような何かの出現条件は一定以上の人数が凍結し、さらに一定以上の人数がキルされること。
もしそれを知っていれば、もう少しプレイヤーたちの対処も変わったかもしれないが、知らないのだから仕方がないだろう。
「完全に別のイベントやってる気分なんですけど!?」
「なんでこれを運営用意したの?え?まず運営が用意したかもそういえば定かじゃない?」
すでにこの地中から出てくる存在の話は広まっているが、元凶だと思われるかまくらの群集に関しては伝わっていない。
そのため、これらは勝手に湧いてくるものだという風に思われてしまっているのだ。
そしてまた、凍結する範囲があることもかまくらで守られている場所があることも全く分かってはいない。
それこそ凍結してしまうような範囲が存在することを知らないというのは問題であり、なかなかに悲惨な結果をもたらすもので、
「こっちに逃げるぞぉぉ!!」
「おうっ!……………って、う、動けねぇ!もう凍結してやがる!」
「なんかさっきまでより断然凍結の効果強いんだが?」
知らないうちにその範囲へと入ってしまった者達は、それまでとは比べ物にならないほどの凍結を受けて無防備な姿をさらしてしまうのだ。
それこそ知らなかったのだから対策ができているわけもなく、全くダメージを与えることもできないまま大勢が丸呑みされていくこととなるのだった。
そしてこれにより、さらにプレイヤーたちに不幸が訪れることとなる、
「な、なんか新しい敵出てきてない?」
「え?……………本当だ。絶対あれ敵だよね」
プレイヤーたちが発見してしまうのは、新しい敵だと思われる存在。
とはいっても地面に潜り現れたかと思えば丸のみにしてくるような怪物とは違い、もう少し優しい攻撃をしてきそうな雰囲気をしている。
もちろんそれは雰囲気の話であり実態までその通りかというと少し違ってくるのだが。
「強さは兎も角敵の数が増えるのは純粋にマズいぞ!もっと攻撃の対象を絞って撃破の速度を上げるぞ!」
「OK!じゃあ俺がカウント出しておくから、5秒ごとに最初に出てきたやつを攻撃するってことにするぞ!」
「攻撃は雷属性で麻痺狙うか毒使うか、もしくは斬撃系使うかにしてくれ。貫通も効果はあるが、柔らかめだからそこまで突破は意識しなくてもいい!」
「ちゃんと刃物を地面に突き刺しとけよ!どうせ凍結で動けなくなるんだし足の踏み場がなくなるくらい出しとけ!口の周りへの攻撃は重要だからな!属性付きだとなお良しだ!」
より集中して地中から現れる敵の撃破速度を高めようと動き始めるプレイヤーたち。
ここまででだんだんとプレイヤーたちも慣れてき始めていて、連携能力も向上している。1体に対して与えるダメージは尋常ではないほど上昇していた。
2回くらい地面から出てくれば倒せる程度には集中して火力をぶつけられている。
ただそれでも少なくはない被害がプレイヤーたちには出るわけで。
それによりまだまだ襲い掛かる脅威は追加されていく。
さらに、雰囲気だけはそこまで強くなさそうな新手も到着してくるわけで、
「おい!一旦あいつ倒すぞ!」
「何してくるか分かんないし、遠距離で何もできないうちに消し飛ばせ!」
「次の攻撃はあいつに集中させるぞぉ!」
プレイヤーたちはそこまで脅威だとは思っていないものの、変に現在の状態を崩されても困るということで新手の方へ攻撃を集中させていくこととする。
彼らの考えでは、1度火力を集中させればそれで終わるだろうということになっていた。
だが、その存在は残念ながら考えているほど甘くない。
まず、出てくる条件に問題があるのだ。
地中から姿を現し丸のみにしてくる化け物は一定数を凍結することと一定数がキルされることになっているが、この新手はさらに条件が厳しくなっており、一定数が凍結されたうえでその凍結された者達がキルされなければならないのだ。
凍結状態にあるか否かという部分に差があるということはそれだけ条件でカウントできる存在が限られるということで、そこまで限定されるということはそれだけ、
「何もできずに消えなぁぁ!!」
「あまり図体は大きくないから範囲攻撃を使っても意味がないんだがな『アローレイン』」
「爆ぜろ!」
魔法がとび矢が飛び爆弾がとび。新手に様々な攻撃が降りかかる。
しかしそれらはすべて、
「嘘だろ!?」
「っ!?デ、デカい!?」
「こんな規模のアイスシールドとか初めて見たぞ…………」
巨大な氷の壁により阻まれる。
流石にそれだけの火力が集中したのだから貫かれたり砕けたり溶けたりという状況にはなっているが、だからと言ってその氷が攻撃を通した様子は一切見られない。
完全にすべてを阻んでいるようだった。新手は無傷であり、全く攻撃を気にする様子もなくゆっくりと近づいて来る。
何をされたとしても問題などないといった風に。
「え?マ、マジで言ってる?」
「は?誰だあれが雑魚だとかいったやつ」
「侮っていた俺をぶん殴りたい」
その圧倒的な防御力を見せつけられ、プレイヤーたちは戦慄することとなる。
この人数がいるからいつかは解決できるだろうなんていう甘い幻想が見事に打ち砕かれた瞬間だった。
それとともにやはり警戒するのがその新手の攻撃手段なのだが、それは思いがけないところから始まって、
「え?ちょ、ちょっと待て!あの壁!」
「ん?あの氷の壁、なんか傾いてね?」
「ちょ、ちょっとどころではなくマズい気がするんだが気のせいだよな。気のせいだよな!?」
残念ながら気のせいでも何でもない。
プレイヤーたちからの大量の攻撃を防いで見せたその氷の壁は、ボロボロになりながらも最後の仕事だとばかりにゆっくりと倒れていく。
プレイヤーたちに向けて。