「お嬢様聞きまして!?」
「ん?どうしたの瑠季ちゃん」
ゲームからログアウトした後、朝食後何やら情報を拾ってきたらしい瑠季から話しかけられる。
普段は何かしら瑠季から伝えたいことがあっても登校中などの一緒になるタイミングで話をしてくるのだが、今回は自分から伊奈野の方に来て話し始めるということでかなり珍しいこととなっている。それだけ衝撃的なことがあったのだろうということが読み取れた。
ではその瑠季が知ったことの内容はというと、
「特殊なイベントがあるらしいですわ!しかもワールドアナウンスが流れたうえでのイベントという話でしたし相当特別なイベントですわよ!」
「あぁ。イベントね?そういえば確か朝ゲームやってるときにワールドアナウンスとかいうの流れてきたかも」
「そうなんですの!?では何かイベントの事ご存知でして!?」
「いや~。さすがにイベントのアナウンスが流れてきただけでどういうものかまでは分かんないなぁ。逆に、瑠季ちゃんは何か知らないの?」
伊奈野がマターを起こした後に流れてきたワールドアナウンス。それに関するものらしい。
ワールドアナウンスは相当珍しいもの。それこそ伊奈野が聞くのは何か月ぶりなのかといったほどのものであるため、瑠季が驚くのも当然と言えば当然かもしれない。
朝にゲームへログインしなかったらしい瑠季はそれを人づてなのかインターネットで仕入れたのかは分からないが伊奈野とは別の経路で情報を手に入れてそうであり、そうなれば当然持っている情報も、
「あまり私も詳しいことは分かっておりませんわ。とりあえず公式の発表によると大罪系のスキルの持ち主、もしくは持ち主たちとの戦いになるという話でしたけど」
「大罪系?」
「そうですわ。いわゆる七つの大罪というものでしてよ。イベントなどで上位に入るとたまにもらえることがあるという話ですけど」
「そうなの?じゃあ私も何か貰ってたりしたのかな?クイズ大会とかで」
「え?お嬢様ご自身のスキルならわかっているのではなくて?」
「いや、あんまり見て余計な知識増やして記憶の容量を使っても嫌だから基本的に獲得したスキルとか称号とか確認してないんだよね。どうしようもない時にログとか見て直近の獲得スキルを見るくらい?」
「……………なる、ほど?」
伊奈野から告げられる予想していなかった言葉に瑠季はついて行けずフリーズする。
まさかここまで伊奈野が徹底してゲームの情報をシャットアウトしているとは思っていなかったらしい。スキルや称号などは知らないのにイベントには参加するしクイズ大会とかいうその余計な知識というものがなければ絶対に優勝できないようなイベントでトップになるし、困惑するのも仕方がないことだ。
全ては通常とはあまりにもかけ離れたプレイングを行なっている伊奈野の責任である。
「……………一応お嬢様の持っているスキルですと、クイズ大会での優勝ということから大罪ではなく美徳の可能性もありますわよ?」
「美徳?あの、七つの大罪に対抗する感じで7個あるやつ?」
「そうですわ。確か美徳系は大罪系と違ってデメリットが少なかったはずですし、それならあまり影響を受けていなくてもおかしくはありませんわね。逆に、大罪を獲得してたらまともに勉強なんてできていなかった可能性もありますわよ」
「ほぇ~。そうなの?大変だね」
「で、ですわね……………完全に他人事ですのね」
確かにクイズ大会で手に入れたのは『勤勉』であり美徳系スキルではある。が、両者とも全く予想していないが伊奈野は『暴食』などと言う大罪系スキルも同時に所持しているのだ。しかも、デメリットの影響を全くと言っていいほど受けることなく。
つまり今回もイベントに参加するとすれば瑠季の話を聞く限り大罪側というものになることも考えられるのだが、それはそれとして、
「問題は内容ですのよね。私の場合『強欲』のスキルを持っていますし大罪側での参加になるんでしょうけど、どういったことで争うのかもよくわかりませんし」
瑠季が気にするのはイベントの中身だ。
サラッと出てきたが瑠季もまた大罪系スキルの持ち主であり、それはつまり今回のイベントに大きく関わってくるということになる。
「大罪スキル所持者と一般プレイヤーで争うということは書いてありますけど何で争うのかまでは言及されておりませんし。イベントの名前が『大罪破りの聖戦』であることを考えると大罪持ちとそれ以外に分かれて直接ぶつかり合うということになるのでしょうか」
「戦う系のイベントになるの?じゃあ勉強するのは厳しいかな?」
「かもしれませんわね。とは言いましても、もっと詳細なイベント内容が発表されないことにははっきりとは言えませんけど」
ここまでのことを考える限り、あまり勉強をするには向いていなさそうなイベントではある。
前回のように個室が与えられるといったものであればいいのだが、集団戦をする際にわざわざ個室が与えられるとも思えない。
「さすがに数の差が大きすぎますし、大罪のスキルを持っているプレイヤーはステータスが100倍になるとかいうこともあるかもしれませんわね」
「ん~。なるほど?でも、いくらステータスが上がったとしても勉強ができるようになるわけじゃないからなぁ」
色々と想像はできる。
何をするのか。どういったチーム分けになるのか。はたまたここまで基本的に大罪持ちのプレイヤーを1つのまとまりとして話してきたが、チームではなく大罪側は誰か1人だけなのか。そして何をもって勝利とし何を目的としているのか。
そのどれもが不明である。
伊奈野達は続報を待ちながら学校へと行くことになるのであった。
「もうちょっと『強欲』の使い方を今のうちに改良したほうがいいかもしれませんわね。ステータスではなく大罪系スキルの強化とかいう話になるかもしれませんし」
「なるほど?」