明日はついにセンター試験………ん?名前変わったんでしたっけ?共通一次でもないし……
まあ兎に角試験ですね!読者の方にどの程度受験生がいらっしゃるのかは分かりませんが、全力でやりきって来てください。作者もどこかで応援してます。
「………ふんふんふ~ん」
鼻歌を奏でながら、伊奈野は順調に勉強を進めていく。
スライムもどきとの初戦闘を終わらせてから、現実世界で4日目になるといったところ。2日間のイベントが終了した次の日も伊奈野の前に魔女さん達が現れることもなかったため少し心配していたが、そんな心配すら忘れてこの数日間黒い本の問題に熱中していた。
そしてついに、
「これが、ラスト?」
合計50時間以上をかけ、ついにたどり着いた最終問題。
最後は英語の問題であり、伊奈野の知らない様な単語も大量に書かれている。
「なんでこの異世界設定のゲーム内で書き換えられた問題の中に英語が出てくるのかは分からないけど………やってみせる!!」
このレベルの問題になると、伊奈野であっても解くことができないようなものだった。以前までであれば。
しかし、今の伊奈野は違う。この数日間解いてきた問題達に影響を受け、伊奈野は現実世界でも新たな傾向の問題をいろいろと調べたのだ。そこで出会った問題や解説の知識と、そしてこれまでの努力を組み合わせれば、
「………………つまり、こういうこと!」
伊奈野は成長を続けている。難易度の高い物に出会えば、それへと適合していくのだ。そしてついに、彼女はその新たな影響を与えてくれた黒い本を、乗り越えた。
「よっし!」
普段は解き終わってもほかの回答を探したり次の問題に移ったりする伊奈野だが、この時ばかりは違う。
テストで高得点を叩き出した時のように、大きくガッツポーズをした。
彼女のスキルの数々も、この大きな伊奈野の成長と共に性能が向上していた。
そうして伊奈野が達成感に浸る中、
「ん?まぶしっ!?」
突然光があふれる。その源は、黒い本。
何が起きているのかと伊奈野が困惑するのにさらに混乱が加わるようにして、
「ただいま戻りまし、って!なんですかこれ!?」
「こ、この気配!邪神の力ですか!?」
「あっ。お二人ともお疲れ様です。すみません眩しくしてしまって」
「「えっ!?師匠!??」」
弟子2人がこんなタイミングで戻ってきてしまった。
これではまるで伊奈野が人のいない間に変なことをしていたかのように思われてしまう。
…………思われても特に問題ないかもしれないと内心は思いつつ、伊奈野もとりあえず外聞を気にするようにして、
「い、いやぁ~。問題集を解き終わったら突然こんな風になっちゃって」
「ど、どういうことですか?」
「どうして問題集を解いていてその力を……」
そんな風なことを話していると、次第に光が収まってくる。
光源であった黒い本に目を向けてみれば、いつの間にか本は閉じており表紙が見える状態になっていて、
「く、黒い表紙に金のタイトル………厨二臭しかしないんだけど!?」
伊奈野はそれを悪いとは思わないが、自身はそこまで憧れてはいない。そのいかにもかっこいいとか思ってそうな本の様子に伊奈野は頬を引きつらせる。
「せっかくいい本だったのに、こんなものになっちゃうなんて……」
伊奈野はショックを受けたという顔をしつつ、本をパラパラと読んでみる。
しかし、
「くっ!関係ない事ばかり!!」
そこに書かれているのは、伊奈野が求めているものではなかった。
このゲーム内の細かい設定といった、今の伊奈野にはあまり必要のない知識ばかりなのである。伊奈野は本を閉じ、天を仰ぐ。
そして、
「すみません。また勉強しますね」
「「え?あっ、はい?」」
伊奈野は黒くない新しい本を取り出し、また問題へと挑む。最近心が荒れた時、こうすると落ち着くことが分かったのだ。
中毒者のようになってしまっている。
「あのぉ。これ借りてもよろしいでしょうか?」
「ええ。どうぞ」
まだ集中しきる前にうるさい人が声をかけ、伊奈野から黒い中二病臭漂う本を借りる。
そして、魔女さんと共にその本を観察しつつ、
「………やはりこれから邪神の気配がしますね」
「そうなの?何で師匠がこんなものを持っているのかしら?」
「分かりません。幸いなことに強力な封印が施されているようですし、今は邪神の力だけを引き出すようにはなっていますが」
「封印って、邪神がそこに封印されるほどの強力な封印を使える人がいるってこと?」
「どうなのでしょう。以前の時はたとえ、この程度の力であっても封印など不可能でしたが………今も誰かができるとは到底思えませんね。どちらかと言えば何かエサで釣ってここに入れて、あとから封印をして閉じ込めたという方が現実的かと」
「ふぅ~ん。よく分からないわね。どうしてそんな風に封印されているのかも、どうして師匠がこれを持っているのかも」
「ですね」
弟子2人がそんなことを話す間、伊奈野は全くそれを聞くことすらなく勉強を続けている。
その胸の中には黒い問題集への感謝と、裏切られた悔しさが渦巻いていた。
《イベントアナウンスです。『英雄たる所以』が特殊条件『完全防衛』達成により特殊クリアとなりました》
「ん?」
突然聞こえてきた声。それに頭をひねる伊奈野。
そのアナウンスと同時くらいにログが大量に流れたのだが、伊奈野は当然気がつかない。
《イベントが完了しました。貢献度により報酬が獲得できます。アイテムボックスをご確認ください》
《称号『封印者』を獲得しました》
《称号『計画破壊者』を獲得しました》
現実では受験でもこの作品の本番はまだまだ先です。