食べ物の補充はなくなってから出て来るまで若干のラグがある。確かにそれは間違いないのだが、それが気にならない程度にはここには大量の食べ物がある。
そしてさらに言えば、お手軽に食べられるようなクッキーとて1種類ではなく何種類もある。
こうなればもうやることは簡単で、
「うん。これでたくさん食べれるね。両手もふさがらないし視界の邪魔にもならないし、丁度いいんじゃないかな?」
伊奈野は手を使うことなく延々とクッキーを食べ続けることができている。しかも視界に入ることもないため勉強の邪魔になるということも当然なく、心置きなく勉強しながらお菓子を食べるということができていた。
伊奈野の口には自動的にと言っていいほど機械的な動きでクッキーが運ばれてきており、ほとんど無意識なのではないかと思うような速度でかみ砕かれ食事は進んでいた。
「結構スキルのレベル自体が高かったはずだし、そんなに私が意識しなくても勝手にある程度私がやりたいように動いてくれてるんだよね?ラッキ~」
ここで伊奈野が使っているのは、スキルである。それも、当然ながら伊奈野が知っている者だ。
それが何かといえば、そう、『サイコキネシス』である。
少し前にも何もないところで勉強をするために本を固定する用途で使用したサイコキネシスなのである。
伊奈野は手を使わずともサイコキネシスでクッキーを運ぶことができることに気が付き、自分の口に勝手に運ばれてくる機構を作り上げたのだ。
本人はスキルのレベルのみだと考えているがいろいろな要因が組み合わさってあまり伊奈野が意識しなくともこの動きは行われるようになっており、全く勉強の邪魔になることなくクッキーを食べることができていた。
しかもクッキーに限らず食べ物を食べているのだから当然なのだが、
「ちゃんと魔法陣の設置も合わせてやってくれてるし、これは完璧だね。うん。これを完璧と言わずして何が完璧かって話だよ……………いや、こんなこと言ったらビールの泡と液体の黄金比の方が完璧だとか言われるかもしれないけどさ」
しっかりと魔法陣も『設置』されており味に関しても問題ない。
それはもう『繰り返し』に『繰り返し』を重ねたうえで『設置』する機構を作ってあるのだから、それこそ1時間くらいはずっと設置を続けてくれそうな状態にはなっていた。
このまま勉強していても休憩時間になるくらいまではずっと続けてくれそうな気配がする。
《イベント開始まで残り時間……………01:24》
「イベントまでもう少しか~。じゃあそろそろ私も本格的に勉強を始めようかな、っと」
残り1分半を過ぎたころ。伊奈野の準備も終わったためイベントの開始を待たずして勉強が開始される。
それと同時に、サイコキネシスによるクッキーの移動も始まるのであった。
伊奈野が真剣な顔をして問題を解き答えや式を書く間、その口には延々とクッキーが入れこまれ、ずっと口はクッキーを噛みのみ込む動きを繰り返している。
全く以て味わいかみしめている様子はなく、何とも贅沢な限りである。もしこれが現実であったら忍者の学校の食堂のおばちゃんに「お残しは許しまへんでェ」と言われていたことだろう。
そんな機械的な動作が繰り返されるため伊奈野は全く気付いていないが、彼女の満腹度は恐ろしいほどに変動を繰り返している。いわゆる0か100かという状態にいるのだ。
このイベントで出る食べ物の類がどれも恐ろしいほどに満腹度の回復量が高く、1口で満腹状態になり、しかしすぐに伊奈野はお腹を空かせるためほぼ0に。
それが行なわれるため満腹度がまるで反復横跳びしているようになるわけだ。略して満腹横跳びである(失笑)。
部屋の中には、普段とは違い伊奈野がペンを動かすカリカリという音ではなくクッキーをかじるボリボリという音が良く響いていた。