「よぉしよしよし!これはだいぶ対応力上がったんじゃない?死亡リスクはだいぶ軽減されたはず」
黒い本に問題を出されたときも喜んだが、今回もそれと同じくらいではないかと思えるほど喜んでいる。今日はテンションが高まることが多い日らしい。
伊奈野は今回の結果に満足し、進歩を感じていた。
「私の『龍落とし』で近距離は行けるし、遠距離は黒い本が防げるようになった。これはもう、無敵に近いと言っても良いのでは?」
こんな勉強ばかりでまともにゲームをしてない人間が最強になってしまっていいのか、などと考えながら伊奈野はニマニマと笑みを浮かべる。そのまま黒い本と共に、また魔法と近距離攻撃の両方を使うボスへと挑んでいく。
実際このボスに関しては完全に対応が可能で、魔法はすべて黒い本が返して近距離攻撃は伊奈野が止める。一切ダメージを受けることなく永遠にこれの繰り返しでダメージを積み重ねていけそうな状況だ。
もともとかなりここに関しては鍛えていたため伊奈野の近接攻撃に対する対応力は高いし、さらに魔法限定ではあるものの遠距離攻撃は無効化できるようになった。これはかなり完璧なのではないかと伊奈野も思う状況になっている。
一応物理的な遠距離攻撃をされたり状態異常を使われたりするとどうにもならないし、伊奈野が対応できないような近接攻撃もあるかもしれない。
とはいえ、それでも十分すぎるほどの対応能力だろう。ほとんどの近接攻撃と魔法が無効化されるなんて普通は終盤の最初辺りでボスがやり始めるものなのだ。1人のプレイヤーはやって良い事ではない。
とはいえ、そんな1人でやるべきでないことをすでに何度も行なっているため 伊奈野の場合は今更なのだが。
「気になるんだけどさ。黒い本の魔法って溜めておいて後から出すってことができるでしょ?あれ、私が『龍落とし』でボスの動き止めた後に当てた方がダメージ大きかったりするのかな?攻撃中の方がダメージを受けるのか動きを止められてる間の方がダメージを受けるのか。どっちなんだろう?」
伊奈野は疑問を口にしただけで、直接具体的に何かをしろとは言っていない。
しかしそれでも黒い本の空気を読むというか、日本人にありがちな質問と言う名のお願い(命令)を読み取る能力はしっかりと育っていたようで、自分が魔法を使うタイミングを変化させる。
伊奈野によってボスが動きを止められた瞬間にある程度まとめて放つということを始めたのだ。
そんなことをするとタイミングの問題だけでなく、いっぺんに攻撃が来るという部分でも効果に変化が出る。まとめてぶつけられた魔法にはかなりの威力があるようで、若干だがボスがふらつくようにも見えた。
『龍落とし』を受けても魔法を返されても今までふらついたことはなかったため、これを見た伊奈野が受ける衝撃は大きい。
「これ、もっとたくさん溜めて使ったらどうなるんだろう……………凄いロマンあるじゃん」
使えると思うだけでなく、ロマンを感じるのだ。
今はまだ数発分をいっぺんにと言う程度でとどまっているが、数十発や数百発をまとめて使えばどれだけのの威力になるのか。そう考えただけでも、ワクワクが止まらない。
「………………って、いけない。そんなことが気になると勉強に支障が出るじゃん。あんまり考えすぎないようにしないと。ただ気になっちゃうから、まとめて使う部分の確認だけで終わっておくようにすればいいかな」
伊奈野は首を横に振り、それ以上の考えが出てこないようにする。
こういうことがあるため、今までゲームにあまり積極的に関わらないようにしていたのだ。これでも伊奈野とてゲーマーであるため、どうしてもこういう部分は気になってしまうものなのである。
こうして黒い本に試させて改良を考えてしまったことにより影響が出たことを思えば、やはり知らない方が良い事もあるのだ。
「……………いったん勉強して切り替えよ」
このままではまずいということで、冷静になって伊奈野は勉強へと向かうことにする。
気になって勉強に集中できないのではないかという不安がないわけでもないが、一旦冷静になればそこまで激しく感情が盛り上がってくることもなくなるので、あとはどれだけ勉強に一瞬集中できるかという部分にかかってくる。
一度深く集中すればある程度原因でもない限り集中が途切れることはないため、そこが大事になってくるわけだ。
先に気になってしまえば集中できないが、それを抑え込んで集中できればその後はどうにかなる。
ここが今、一番の正念場と言っていい。
……………なんて熱い感じになっているが、結局勉強ができることに変わりはない。
伊奈野はいつも通り机に向かい、集中してるのかしてないのかなんて全く分からないほどのペースで勉強を進めていくのであった。
と言うか逆に、
「なんか、いつもより覇気がありませんか?こう、まさしく覇者って感じの」
『うむ。言いたいことは分かるぞ、炎。やけに気合が入っているな。何があったのだ?』
集中をしっかりしなければいけないという気合が入っているためいつもよりも集中しているように外側からは見えた。
緊張よりも、よほど気合の方が大きく表れるタイプらしい。
それこそ、
《称号『挑戦者たる覇者』を獲得しました》
そんな称号が手に入るくらいには。
もちろんそれ以外にもこれまでの中で、
《スキル『簡易遠近無効』を獲得しました》
《スキル『簡易物魔無効』を獲得しました》
何やら凶悪そうなスキルまで手に入れていた
簡易なんていうおまけみたいな単語はついているが、無効なんて言う名前がついてるのは大概強いのだ。今まで獲得したもので言えば『餓死無効』など、伊奈野の持つ無効化系スキルが悪さをしないことはない。もちろんその悪さが、誰に対しての悪さなのかという話は別として。
そんなことがありつつも時間は流れていき、なんとなく満足したような雰囲気で伊奈野が勉強を終わらせ、
「それじゃあ黒い本、次はもっとたくさん集めて魔法をいっぺんに使うのやってみるよ」
「無理」
「………………ん?」