世界中でプレイヤーが存在する、フルダイブ型VRMMOゲーム『new world』
そのゲームにおいて注目を集める人物というのは複数人存在しており、その中でも特に有名だと言われているのが全世界で1番の火力を誇る魔法を扱うことができるという噂の『日本サーバにいる賢者の師匠』
その存在は、実在しているという事実こそ表に出てきたことがあるのだが、名前や容姿、レベルやスキルや職業等、一切の個人的な情報が出てきていない。
今もなお多くのものが探し回っている状況であった。
ただ、そんな有名な存在を認識していないものというのも世界にいて、その中の1人である日本の受験生、画智是伊奈野はいつものようにマイペースにゲームの攻略など一切考えず勉強のためだけにゲームへログインしようとしていた。
………………………………が、
「あれ?ログインできない?………え?なんで?今日は勉強日和じゃ、ない?」
彼女はログインできないでいた。
いつものようにログインしようとしていた彼女はひどい焦りを覚える。
このログイン中時間が加速するゲームで他の受験生に差をつけようとしていたのに。そのためにわざわざ10万使ったというのに。
だというのに、ログインできないのだ。彼女の中で何かがガラガラと音を立てて崩れていく。
が、
「………………ん?あっ。アップデート中?そういうこと」
絶望しあと少しで発狂しそうになった伊奈野だが、視界に映った表示を読んで精神を安定させる。
そこに書いてあったのは、今日はアップデート及びメンテナンスのためにログインできないということ。
「なぁ~んだ。本当に今日が勉強日和じゃなかっただけか。まだ2か月くらいしか使ってないのに壊れちゃったのかと思っちゃったじゃん」
伊奈野は納得し、現実世界に戻ろうとする。
ただ、すぐにその動きを止めた。
現在彼女の目の前を流れているのは、このゲームのオープニング映像。
いつもはAボタンとBボタンを連打するような感じですぐに飛ばしてしまうオープニングだが、今日はログインできないのでずっと彼女の前ではその映像が流れているのだ。
ただ、伊奈野は以前このオープニング映像をかなり短くしたようなものを、初めてこのゲームをプレイする際に強制的に見せられている。
その映像が気に入っていたというとそんなことはなく。
ではなぜ今そんな映像を見ているのかと言えば、
「これ、プレイヤーかな?」
オープニング映像が変化していたのだ。
理由は、数日前に発生していたイベント。そこで、たくさんのプレイヤーやNPCに活躍の機会があったわけである。そういった者達がオープニング映像に使われるようになったのだ。
そんな中でも最初から映ることができるのはイベントの中で特に活躍が大きく画面映えのする者達。
「………もしかして、そうなのかな?」
伊奈野は芽生えた疑問を胸に今度こそ現実世界に戻る。
オープニングの開始からまだ1分も経過しておらず、NPCの活躍は映っていなかったというのに。
そうしてヘッドギアを外してベッドから起き上がった伊奈野は、一度部屋を出る。
そこから向かうのは、
「ねぇ。瑠季ちゃん」
「ん?どうされましたの?お嬢様」
この家の使用人、というより伊奈野の使用人。その名は、金野奈瑠季。
伊奈野の同級生であるのだが少し特殊な生まれをしており、雇っていると同時に保護をしている子である。
そんな瑠季の下へ伊奈野が訪れた理由は、当然先ほど見た映像がかかわっており、
「瑠季ちゃん『new world』ってVRゲームやってる?」
「なぁ!?」
特に遠回しに隠して聞く必要もないので、直球でぶつけた質問。それに何故か瑠季は非常に焦った様子を見せた。
「な、ななななん、なぜそれをご存知ですの!?もしかして、お嬢様もあのゲームを!?」
「うん。時間が加速されるのは便利だから、私も使ってるの」
慌てた様子の瑠季から発せられた質問に伊奈野は肯定する、
その返答を受けた瑠季は、焦りを消してどちらかといえば絶望したような表情となる。それから言い訳するように、
「そうなんですの!?…………あ、あの。私のあのプレイングはそういうロールプレイなんですの。決して本心からやってていることではないんですのよ?人を馬鹿にしたりとか嫌味を言ったりとか見下したりとか、そういうことはあまりしたくありませんの!」
「え?あぅ。うん。まあ、瑠季ちゃんならそうだよね?ていうか、別に私瑠季ちゃんが何やってるかとかそんなことは知らなかったんだけど」
「………………………………え?」
並べ立てられた言い訳に伊奈野は戸惑いながらも応える、
その返答は瑠季にとって完全に予想外のものであり、動きが固まることとなった。
「私、オープニングで悪役令嬢っぽい見た目の人がいたから瑠季ちゃんも(この人に憧れたりして)もしかしてこのゲームをやってるのかな~って思っただけなんだけど」
「そ、そうなんですの………………………………完全に私、墓穴を掘りましたわ!(でも、見た目だけで私だって気づいていただけるなんて………そんなにお嬢様はわたくしのことを深く理解してくれてるということ!?う、嬉しいですわ)」
微妙な食い違いが起きていたりするが、両者とも深く言及しないので気づくことはない。