墓穴を掘り自身のロールプレイがひどい物であることを伊奈野に知られてしまった瑠季。
しかし一定の理解が伊奈野にあったためあまりそこへ深く触れられることもなく、そのまま2人はゲームの話をしながら瑠季の部屋で勉強をすることになる。
「ん。良い匂いだね」
「っ!そういっていただけると嬉しいですわ!お嬢様がいらっしゃるならと少しお高いアロマを焚いてみましたの」
「そうなの?ありがとう………匂いっていえばさ、ゲームの嗅覚機能凄いよね。ちゃんと再現されてるし」
「あっ、ですわよねぇ」
まずその技術力の高さで話に花が咲く。
フルダイブ型であることの利点がしっかりと活かされており、それは2人も目を見張るものがあった。
そしてひとしきりそういった話をした後は瑠季の愚痴に変わるのだが、
「装備にいろいろと装飾をつけると、全てを処理しきるのが難しいのか微妙に引っ掛かってしまいますの」
「そうなの?じゃあ、あんまり凝ったデザインにはできないんだ。お嬢様っぽい恰好をするならゴテゴテさせたいけどねぇ」
「そうなんですのよ!おかげでスカートのアクセサリーを150個ほど外す羽目になりましたわ」
「……150?元々何個だったの?」
「600ですわ」
「…………………それをつけれる職人さんがすごいね」
凝ったデザインで装備を作る際の注意点。装備品をどこまでシステムが装備品として扱ってくれるのかなど、そんな話が愚痴と共に伊奈野の知識に加わる。
必要のない知識ではあるのだが、伊奈野としてもこうして瑠季と共に他愛のないことを話すのは好きなので気にしない。誰かさん達の声と違って、無視するといったことはない。
「で、お嬢様はどのようなプレイングをしておりますの?」
「どのような?」
「そうですわ。生産しているとか戦闘をしているとか旅をしているとか」
「あぁ。そういうこと?私はゲームの中でもずっと勉強してるよ」
「………………」
伊奈野の言葉に瑠季の動きが止まる。
それは頭がそれを理解するのを拒否しているようである。が、瑠季は無理矢理伊奈野だからと思うことで納得させ、
「さ、さすがお嬢様。てっきり私のように息抜きの時間を長くしたいのだと考えているのかと思っていましたわ」
「まあ、私は勉強もそこそこ楽しんでできるからね。最適な勉強時間と頻度なんて人それぞれだし、瑠季ちゃんがそれで良いと思うならそれがいいでしょ」
伊奈野から受験ガチ勢なありがたい言葉を受けた瑠季は一度天を仰ぐ。ちなみにここまで瑠季は何度か動きを止めたり伊奈野の方へ視線を向けたり天を仰いだりしているが、伊奈野は一切問題から視線をそらしていない。
その様子からさらに格の違いを思い知らされる瑠季は少し話題を変えたくなり、
「………………あっ。そうだ。お嬢様。フレンド登録しませんこと?」
「フレ登録?別に良いけど………私は勉強したいから瑠季ちゃんに会いに行ったりはしないよ?」
「分かっておりますわ。私から会いに行くことにしますの………探すためにプレイヤーネームを聞いておきたいのですけど」
「ああ。プレイヤーネーム…特に決めてないね」
「決めてない?それって………もしかして『何度目?』を持っておりますの!?」
驚愕する瑠季。伊奈野はその言葉の意味が分からず首をかしげるが、瑠季もそれ以上何かを言ってくることはない。
「よくわかんないけど、瑠季ちゃんの方はどうなの?名前」
「私は普通にキャラメイクをしたのでありますわよ。『ロキ』という名前にしておりますわ」
そう言った瞬間だった。
初めて伊奈野の動きが止まり、瑠季の顔を見る。
「瑠季ちゃん、ネットリテラシーないの?本名から1文字の母音を変えただけって……」
キャラメイクの際ネットリテラシーを意識して様々なところをごまかしてきた伊奈野。
それからすればあまりにもその名付けはガバガバ。心配になってしまうのも仕方がないだろう。
「い、いや、私の昔から使ってる名前なので、変えれば余計に怪しくなってしまいますの!」
慌てて否定する瑠季。
彼女もかなり昔からネットゲームを楽しんでおり、その名前とは長年の付き合いだった。
「昔から使ってるって言っても、他のゲームの瑠季ちゃんと今の瑠季ちゃんが同一人物ってバレないんじゃない?」
「い、いや。私これでもギルドのマスターなんですの。昔から一緒にゲームをしている友人たちと一緒にゲームしたかったので……」
「え?瑠季ちゃんギルマスなの?」
伊奈野は今まで聞いた瑠季のロールから考えて、てっきりソロプレイなのだと思っていた。
悪口や嫌みの多い人間がまさかギルマスになっているとは思わなかったのである。
「私ギルマスなんですの。よければお嬢様もギルメンになりませんこと?」
「ん~。とりあえず勉強しかする気がないから受験が終わるまでは迷惑になるだろうしソロでいようかな。受験が終わってゲームができるようになったら…………もしかしたら入るかもね」
「本当ですの!?」
期待に満ちた表情をする瑠季。
ただ、本当に伊奈野がギルドに入るかどうかは定かではなかった。
「あっ。じゃあ、私とPVPして勝てたら入ってあげるねぇ」
「へぇ?なら私達のギルドに入るのは確定ですわね」
「へぇ~。自信があるんだ」
「当然ですわ。トップギルドの1つなんですのよ?」
「あっそうそう。最近日本鯖混んでるから海外鯖を使ってみてるんだけど、なかなか海外も面白くて」
「えっ!?海外鯖ですの!?………それは思いつきませんでしたけど、ありですわね。今度私も調べてみますわ」
「海外は寄生虫の影響でとんでもないことになっているらしいですわね」
「え?そうなの?」
「そうらしいですわ」
「くっ!(海外鯖に行っておけば問題集をもっとたくさん作れてたってことか!混んでないからって油断すべきじゃなかったなぁ~)」
「(難しい顔をしてる?海外鯖に御友人でもいらしたのかしら?他人のためにそんな顔をできるなんて、お嬢様はお優しいですわね)」
《(偏った)知識を獲得しました》w