ランキングの表示が変わったのに慣れないです……
「ん？何者ですか？」
警戒した様子で伊奈野に尋ねてくるのは、メガネをかけた短髪の男性。
落ち着いた格好をしており、いわゆるクール系と呼ばれる雰囲気を醸し出している。
「何者といわれても、身分を証明するものは…………あっ。これとかどうですか？」
「ん？それは…………なるほど。許可証をお持ちの方でしたか。邪魔をしてしまい申し訳ない」
「いえいえ」
伊奈野が取り出したのは金色の許可証。以前図書館へ入る際に許可証が必要だということで、伊奈野をお得意さんと呼ぶ店主さんから貰ったものである。
これを見せれば向こうもすぐに引き下がり、
「………ああ、そうだ。ご挨拶が遅れてしまい申し訳ありません。私はこの図書館で司書を務めている者です。どうかお見知りおきを」
「ご丁寧にどうも。あなたが司書さんなんですね」
「ん？私の名前をどこかで？」
伊奈野の納得顔に司書さんは首をかしげる。
その疑問に答えつつ、
「魔女さんから何度か聞いたことがあるんですよ。これ、どうぞ。お貸しします」
「え？…きゅ、急に何を！？」
伊奈野はアイテムボックスから１冊の本を取り出し、司書さんに押し付ける。その本は、先ほど魔女さんから司書は興味を示すかもしれないと言われていた黒い厨二臭のする本である。
いきなりであったので動きを固めてしまった司書さんは、その手に強制的に伊奈野から本を持たされることになる。
「この気配は邪神の！？あなた何者ですか！…………って、あれ？何を書いてるんですか？」
司書さんは驚き質問するが、すでに伊奈野は問題集を広げて机に向かっていた。司書さんの声は届かない。
それどころか、
「きょ、強烈な威圧感。本当に何なんですか………」
称号の効果で周囲を威圧してしまうほどには集中し、さらに司書さんを困惑させることとなった。
あまりにも意味不明なので司書さんは伊奈野の動きを止めて質問に答えさせようと考えるのだが、
「あっ！師匠！もうこんなところに！」
「…………おや。賢者様ですか。それに、教皇様もご一緒で」
実行に移す直前で、魔女さんが現れた。さらにその後ろにはうるさい人もついてきている。
2人とも突然消えた伊奈野は図書館にいるのだろうと予想し、わざわざ走って追ってきたのだ。残念なことに2人は店主さんから腕輪をもらっていないのである。
「あっ。もう師匠からその本貰ったの？早いわね」
「え？師匠？この本？…………あぁ。もしや、この方は噂のあなた方の師匠ですか？ということは、この本は例の邪神の分裂体である寄生虫の封印された本？」
「その通りです。もしや師匠は何も説明をなされていらっしゃらないのですか？」
「ええ。何も聞いていないですね。今聞こうと思ったところなのですが」
3人の視線が伊奈野へ集中する。当の伊奈野は全くその視線に気づかず、ひたすら問題を解き続けていた。
その様子を見れば魔女さん達は察することができ、
「あぁ。無理よ。師匠は集中しだしたら、しばらくはたいていのことを無視するから」
「………………えぇ？」
普段はこれでもクールで落ち着きのある様子の司書さんだが、さすがに伊奈野があまりにもあんまりなのでドン引きする。
その表情が新鮮で面白いため、魔女さんやうるさい人は小さく声を漏らして笑っていた。その様子に司書さんは不満げな様子を見せるが、
「………………ん？侵入者のようですね」
感じた侵入者の気配に意識を移す。
「あら。まだ侵入はあるのね。でもトラップとか新しくしたわけだし問題ないのよね？」
「ええ。そのはず………なのですが」
数日間図書館を閉めてかなりの改良を行なった。だからこそ、この図書館の警備が簡単に突破されることはないと考えていたのだ。
伊奈野が転移してきたのは仕方がないとして、真正面から来るのなら余裕と言って良い。
「そのはずなんですけど、かなり突破されてますね」
「おや。大丈夫なのですか？」
「大丈夫かと言われると怪しいですね。いかんせん数が多いようで、9割ほどはすでに削ったようですが今の計算だと数名がここまでくる可能性が」
そこまで言った時だった。
遠くから声が響いてくる。
「「「「………ぇ様あぁぁぁ！！！！！！お姉さまああああああああぁぁぁぁぁ！！！！！」」」」
とてもよく響いてくる、息の合ったお姉様コール。
伊奈野以外の部屋にいる面々は、その声で顔を見合わせた。その声に聴き覚えがあったのである。
「もしかして、私かしら？」
「そうでしょうね。お姉様と言えば、一部の人々が賢者様のことをそう言っているようですし」
「賢者のファンの方々でしょうね」
「………………頭が痛くなってきたわ」
その声は魔女さんのファン達。自称「妹」である。
どうやら小屋から図書館へ移動するところを目撃されたようで、追いかけてきたようだった。
そのまま部屋で待機する３人の下に、不思議パワーで妹（笑）たちは迷わずやってきて、
「どうする？」
「どうしましょうか？」
「賢者様の魔法は図書館内だと危険ですので、できれば私か教皇様で対応したいところですが」
とりあえず、部屋へ侵入してくるのならだれかが攻撃する。それは決まっていた。
決まっていたのだが、
「「「「お姉様あああああぁぁぁぁ、ひぃっ！？」」」」
お姉様コールが突然途切れ、悲鳴が上がる。
そしてそのまま、その集団は姿を消した。まだ３人は何もしていないというのに。
「………今のってもしかして、師匠の？」
「おそらくそうでしょう。師匠の威圧により恐怖で死亡したのではないかと」
「不思議ですが、まあ消えてくれたのならばよかったです。予想以上に素晴らしい方ですね」
姿を消した原因は、間違いなく伊奈野である。どうやったのかは分からないが、侵入者を撃退してくれたということで司書さんの伊奈野を見る目が明確に変わったことは間違いない。
ちなみに妹（笑）が消えた原因は、恐怖により現実世界で膀胱が決壊したことにある。
現実世界でのそういったことを感知すると強制的にログアウトさせられることになっているので、妹たちはキルされたわけではなくログアウトさせられたのだ。もちろんこの段階でログアウトさせられたからといって、間に合っているかどうかというのは全くの別の話だが。
………………………………まあ、以前魔女さんもさらに伊奈野が集中している時にちびってしまっているので、愛しのお姉様とお揃っちということで許されるだろう。
ちなみに伊奈野のログには
《ユニークスキル『必殺』を獲得しました》
というものが流れていたとか。
この間のステータスで「ん？強い、のか？」みたいな反応が多かったのでチートっぽいの付けてやりましたよ！
おらぁ～こういうのが欲しかったんだろ、おらぁ～w(セクハラしてるみたい
