完全な防御体制を作り上げてしまった伊奈野。
この空間の主の抵抗など何も効果はなくただただ伊奈野は快適に勉強ができるが、一旦休憩に入ると話は変わってくる。
勉強には適している空間ではあるのだが、休憩をするにしては何もなさすぎるのだ。もちろん魔法陣開発くらいであれば問題ないのだが、
「ちょっと小さく作りすぎちゃったかな？寝るのには適してないかも。これじゃあベッドを置けないじゃん」
今伊奈野がやろうと考えていたことは睡眠。なのだが、伊奈野のアイテムボックスに入っているこういう時のための（？）ベッドが置けないくらい今のかまくらは小さかった。
勉強をする事しか想定せずに作ったため仕方のない事ではあるのだが、こうなると不便である。
ということで、一度手をくわえようと考えて、
「まだ破壊もされてないから、敵は特にいないって考えていいのかな？そういうことならとりあえず全部解除してみようか」
全てのかまくらと魔力障壁をいったん消す、という選択をした。なかなか大胆なものではあるが、伊奈野もかまくら１つすら破壊できない敵がいるということは想定外だったため仕方のない話ではある。昨日の事を考えれば、かまくらは破壊されて当たり前という感覚なのだから。
この動きに歓喜するのは、敵のモンスターとこの空間の主である槍。やっと不壊のかまくらが消えて自分たちが攻撃できるようになったのだ。このチャンスを逃すわけにはいかなだろう。
そしてやはりこの効果は表れて、
「わっ、寒っ！？」
まず伊奈野は最初に観た時よりも格段に激しい吹雪と寒さに驚くことになる。勉強に入る前に観た時も十分ひどかったが、今ではもう視界が本当に真っ白で先がほとんど見えなかった。
しかも、剣が頑張って炎を出してくれているがそれでも若干寒いのだから相当過酷な環境であることは理解できる。
かまくらの再生成が急務であると瞬時に判断するには十分な状況だった。
そしてその寒さに加え、
「そういえばモンスターの声みたいな物は聞こえてたよね？あれを考えると、攻撃が来てはいなかったけどいないっていうわけではないのかも。やっぱり急いでかまくらを作らないとなぁ」
伊奈野はやっと、モンスターの存在を確実にする要素を思い出した。特に害はなかったが、声は聞こえてきていたのだ。前回の炎に包まれた環境にいた時のことを考えれば、油断することは良くないと思えるし早く対処しようという気持ちにもなる。
だが、それでも今回のモンスターもまたそれを許すほど弱いわけではない。かまくらは壊せなかったが、決して弱い相手ではないのだ。
ここで生み出されたそのモンスターは、槍の前所有者が倒した中で最も強かった相手。決して甘い相手ではないのである。
「っ！？何か来た！『龍落とし』」
「ガウッ」
伊奈野にはギリギリのタイミングで『龍落とし』を成功させられてしまったが、それでもかまくらを再び出される前に接近することはできた。ここからモンスターは攻撃を繰り返せばいいのだ。
間違いなく先ほどよりはマシな状況になるだろうとモンスターは考える。
実際、伊奈野としても苦戦しそうだという感覚はあった。
相手の動きが速いことはもちろん、
「あんまり『龍落とし』が効いてないような気がするなぁ。結構面倒かも」
触れた感覚から、伊奈野は『龍落とし』があまりダメージを出せていないと関考えていた。そんな伊奈野の感覚は間違っておらず、敵は全身が長い大量の体毛に覆われており、物理攻撃は威力をかなり吸収されてしまう。とてもではないが休憩時間中に『龍落とし』を繰り返し当てたとしても倒せるような相手ではなかった。
だが、
「ガアアアァァァァ！！！！」
「『龍落とし』」
「ガゥッ！？」
「うぅ～ん。吹き飛ばした後もすぐに復帰してくる。面倒くさいなぁ」
『龍落とし』も全く効果がないわけではないが、ダメージが少ないだけでなく相手の動きをしばらく止めるという効果もあまり長時間ではない。前回のモンスターよりもすぐに復帰して、伊奈野のもとへと復帰してくるのだ。
伊奈野も負けるような相手だとは思わないが、それでも倒せる相手だとも思えない。
伊奈野にとっては天敵にすら思えるような相手だった。
『龍落とし』だけでなく『牽制魔弾』を『繰り返し』てみたりもするのだが、吹雪の影響でまず遠距離攻撃はかなり威力が減衰され、魔弾の効果も薄くなってしまう。至近距離で叩き込む場合は別として、程よい距離感を保って相手の動きを止め続けるということは非常に難しかった。
もちろん相手は雪の中でも動けるタイプで寒さにも強いため『寒冷の瞳』もほとんど効果はなし。
『龍落とし』も『牽制魔弾』も『寒冷の瞳』も効果がないとなると、ほとんど伊奈野の取れる手段は無効化されることになる。相も変わらず黒い本はこの空間に呼ぶことができないし、魔法だって今の状態では使わせてはもらえないだろう。
「なら、ちょっと嫌だけど頼るしかないかなぁ………私の暖房、あんまり離れたところにはやりたくないんだけどな！」
それでも伊奈野が取れる手段はある。
使いたくはない手段だったが、即座に伊奈野は選択をした。自身の暖房代わりに使っていた剣を、ついに使ったのである。
今まで伊奈野に弾と明かりを提供するだけだった炎の剣が、初めて戦闘で使われることとなったのだ。若干だが、剣もテンションが上がって炎の勢いが少し強まったようにも見える。
『サイコキネシス』で操られる剣は、モンスターへと近づいてその体に触れると、
「ガァァァァ！！！？？？？」
「おお。燃やしてる燃やしてる。ちゃんとあの体毛も燃えるんだね。しかも、皮膚にもやけどを負わせてそうじゃない？このままあれをしていれば勝てるかも…………けど、さすがに無理かな。寒すぎる。剣、戻ってきて」
まずモンスターの全身を覆っていた体毛の一部が燃えた。完全に皮膚が見えるほどにまですべてを燃やしつくせたわけではないが、黒く焦げた部分はかなり体毛の分厚さが減っているように見えた。しかもその奥にちらりと見える皮膚はやけどを負っているようにも見える。
「私は私で低温やけどしちゃいそうだけど、とりあえず効果的な戦い方は分かったかな。それに…………『龍落とし』」
「ガァ！？」
「うん。こっちもさっきよりしっかりと攻撃を当てた感触があるね。体毛での衝撃吸収能力がだいぶ減ってそうかな」
体毛を減らしやけどを負わせた後は、かなり伊奈野に有利な状態となった。相変わらず『牽制魔弾』は吹雪のせいで使いづらいが、『龍落とし』は体毛が薄くなってくれたおかげで効果を出せるようになったのだ。先ほどまでと違い、かなりダメージを出せているだけでなく攻撃を受けた後の硬直時間もかなり長くなっている。
こうなってしまえば、あとは同じ作業の繰り返し。
龍落としで動きを止め、その間に体毛と皮膚を焼き、さらに効果を出しやすくした状態でまた『龍落とし』をくらわせる。これだけでモンスターの命を刈り取るには十分だった。
特に体毛を削ったことが影響して、モンスターは吹雪の影響すら途中からは受けるようになってしまっていた。寒さに耐えづらくなったことで動きが鈍り、伊奈野の『龍落とし』はさらに当てやすくなってしまったのだ。
そうしてただの雑魚に成り下がったモンスターは伊奈野の休憩時間内で倒れることとなり、
「よし！倒せたね！それなら今のうちに、『かまくら生成』」
伊奈野はかまくらを再度生成する機会を得てしまった。こうしてまた、勉強をする準備を整えてしまったのである。
倒したモンスターの場所から現れようとしていた前所有者を模した者を放置して。
《スキル『ムダ毛処理』を獲得しました》
《称号『丸裸にしてあげる』を獲得しました》
毛を燃やす！？
お、恐ろしい…（頭部をガード
