コレクターさんに杖を渡して雑談したことで罪悪感がほとんど無くなり、『偽装』のスキルをもらったことでダンジョンマスターであることがバレることへの恐怖が緩和された伊奈野。
いつもの調子を取り戻した彼女はまた図書館へと戻り勉強に集中しだす。
「………また少し雰囲気が変わったかい？」
「そんな気がしますね。先程までと比べると少し緊張感があるような……す、凄い方なんですね」
「そうよ。師匠はかなり凄い人なんだから、愚痴を聞いてもらうのは良いけどあまり時間を取らせてもダメよ？」
「………はい。気を付けます」
新たな経験により伊奈野の精神面にも変化が起こる。それにより、威圧感にも変化が現れていた。どちらの威圧感が良いというわけではないが、伊奈野の周囲はその変化を凄いと感じたようである。
周囲の感心の理由は単純に威圧感を変化させたからではなく、その威圧感に乱れがないからだ。
「面会の前は乱れが見受けられましたが、たった少しの時間で持ち直してきたのは凄いですね」
「罪悪感があったんでしょうけど、それをあの短時間で消せるというのは素晴らしい技術と精神力ですね」
気づくことはないが評価が一段と高くなっていた。そんな周囲に見守られつつ、伊奈野はそれらに気づくことなく勉強を進めていく。
そうしているときだった。突如として、
「っ！？」
伊奈野が肩を跳ねさせる。
そんな彼女の目の前には、
「え？もう時間………？」
ログアウト時間が迫っているという表示が出てきている。
まだゲーム内では２４時間が経過しておらず、というか１６時間経過したかどうかというところであるにも関わらずだ。
「ちょ、ちょっとよく分からないんですけど帰る時間みたいなので失礼しますね」
「えっ？あっ、お疲れさまでした」
「お疲れ様です」
「またねお嬢ちゃん」
伊奈野は首をかしげながらも別れの言葉を告げ、ログアウトする。
ちなみに伊奈野以外は、普段から伊奈野が３時間くらいで帰るかほとんど会わないかのどちらかなので短いと感じることはなく、疑問にも感じないままに別れの言葉を告げた。
「じゃあ、ログアウト、っと」
伊奈野はログアウトし、すぐに原因を調べる。
そして分かることが、
「あぁ！入ったときはイベントやってたから余裕があったけど、イベント終了した後は普通に混んでたんだあぁぁぁ！！！！」
伊奈野が表示を確認したときはそこまで混雑しているわけではなさそうだったが、その後に混雑してサーバが重くなっていたということ。
伊奈野はもっと先に気づくべきだったと後悔しつつ、その心を紛らわせるためにかなり荒れた心境で前日の模試の採点へと向き合うのであった。
「ぐぬううぅぅぅぅ！！！！！」
心が荒れていれば、思考はマイナスな方向に向いてしまう。
そうなると採点もかなり厳しくなって、その点数からさらに精神状態が悪く…………悪く………悪く？
「あっ。思ってたより取れてたかも。全国模試の順位２桁前半には入ってるんじゃないかな？」
あまり悪くなかった。すっかり心は晴れやかスッキリである。何とも影響を受けやすい精神なのであった。
ただやはり微妙な後悔は残っており、その後は荒れた心をぶつけるように勉強に向かったとか。
「ただいま戻りましたわ～」
「あっ、おかえり瑠季ちゃん」
途中で喉が渇きリビングに降りたところ、ちょうどそのタイミングでどこかに行っていたらしい使用人の瑠季が帰ってきた。
彼女の話によると、
「あっ。１人で行ったの？」
「そうですわよ。お嬢様が全く反応してくださらなかったので仕方なく１人で行きましたの、寂しかったですわ」
「ご、ごめんね。ショック過ぎて……」
瑠季は１人でスイパ〇に行ったようだった。
反応すらしなかったのはさすがにかわいそうだったと考え、伊奈野も素直に謝る。
そこから２人は部屋に戻り２人で勉強をしつつ話もしていくのだが、
「ああ。大食い大会に出られましたの？」
「うん。すごい美味しかったってわけじゃなかったけど、結構楽しめたよ」
「それはよかったですわね………大食い大会と言えば、優勝者は２位にすごい差をつけて圧勝したようですわよ」
「そうなの？どれだけ食べたんだろう？すごいねぇ」
「すごいですわよね。最高効率って言われてたプレイヤーを打ち破って優勝したんですのよ。しかも日本サーバのプレイヤーらしいですわ」
「え？そうなの？フードファイターさんなのかな………」
かなり大食い大会の話で盛り上がった。
２人で優勝者のことをほめたたえたり考察したり。優勝者がこの空間にいるなどとは一切考えもせずに、２人で楽しんで会話を重ねた。
流れで食事関係のスキルや称号の情報も伊奈野はもらっていたが、それが役立つ日が来るのかは不明である。
そしてさらにその後、
「ただいま～」
「お帰りお母さん」
「おかえりなさいませ、奥様」
「今日は本当にごめんね！来週の土日のどっちか改めて行かない？」
「いや、行かなくていいかな？」「いえ、結構ですわ」
「えぇ…………？」
これでスイパ○関連の話は終わりです！
