本日２話目です
勉強に没頭していた伊奈野。そんな彼女がもう一度顔をあげる。
前回とは違って覚悟はしてあり、
「……来るのは分かってましたけど、これはこれでなかなか」
何が来てもある程度流せるつもりではいた。
だが、さすがに伊奈野としても驚かざるを得ない状況となっている。伊奈野の前に長く伸びていた通路には、
『どうだ？余の配下たちは』
「あっ。骸さん。これは全部骸さんの配下なんですね。凄いいっぱい……」
いつの間にかいた骸さんに対応はしつつも、その視線は完全に目の前の１００を超えるのではないかと思うほど大量にぎっしりと通路を埋め尽くしているアンデットに向けられていた。
昔伊奈野が間違えて入ってしまった初心者救済用のレベルアップイベントにいたモンスターよりも数が多いかもしれないと思えるほどだ。
暫く伊奈野はその光景をボーッと眺め、骸さんはその反応に満足気にうなずく。
それから、
「骸さんって、結構配下がいるんですね」
『うむ。まあ、これでも墓場限定ではあるが王だからな。この世界で死す人間は全員墓場に運ばれ、余の配下となるのだ』
「ほぇ～。すごいですね」
半永久的に１勢力の配下が増えるのって大丈夫なのかと思うところはあるが、純粋にその大量の死者を骸さんが配下にできているのはすごいことだと思えた。そして、自分が協力者となり敵対関係でないことにも安心できる。
ただ、今敵対していないからと言って今後も安心できるわけではないので、
「骸さんって、目的は何なんですか？やっぱり、争いのない世界とかでしょうか？」
『む？目的は邪神を打ち倒すことだが…………争いのない世界とはどういうことだ？』
伊奈野の言う意味がよく分からないと骸さんは首をかしげてみせる。急に目的と言えば争いのない世界だよね？といったことを常識のように言われても困るのだ。
だが、伊奈野の中ではアンデットを従えるネクロマンサーなどの目的と言えば、
「世界中のすべての生物をアンデットに変えれば、全員が仲間になって争いがこの世からなくなる。っていう感じのことを目指しているのかと思ってたんですけど」
『………ほぅ？』
伊奈野のネクロマンサーのイメージを伝えたところ、骸さんは興味深そうな反応をする。
骸さんの価値観に、全員アンデットになれば世界平和！という平和と言いつつも侵略を前提とした考え方は存在していなかったようだ。
『そのようなことは考えたこともなかったが……面白いな』
「そうですか？ありふれた考え方だと思うのですが………そういう考え方だとダンジョンマスターの私と協力する理由も分かると思ったのですが」
伊奈野が納得する理由だと思っていたのだが、そうではないことが分かった。
ただ、そういう色々な考え方は伊奈野の中で完結してしまっており、骸さんにはサッパリ分からない。困惑しているといった様子で、
『ど、どういうことだ？』
「あぁ。私だけで進めてしまってすみません。私のイメージの話なのですが、ダンジョンはモンスターが何度も出てくる場所なので配下を何度でも作れるので便利なのかな、と」
『っ！配下を何度でも作れる、だと！？』
骸さんの驚く声。
それはつまり、
『できる？できるのか！？………いや、考えたところで分からんな。すまんが少し試してくる』
「あっ。はい。いってらっしゃい？」
伊奈野は見送る。
彼女の知る（ゲーム知識）ダンジョンにはいくつかの種類があり、その中の１つはダンジョンでキルされたモンスターは何のコストもかけずに復活させられるというものがあった。もちろんキルされた後リスポーンまでに時間はかかるが、そのタイプなのであれば時間がある限りいくらでもアンデットを作成することが可能だ。
「…………でも、ただ殺してアンデットに変えてってするだけだともったいないかな？」
いくらでも復活するからと言って、ただ殺すだけではもったいないような気もする。
どうせなら宝箱でも設置してそこからアイテムを何度も取るといったことをしてもいいような気もするが、
「…………まあ、その辺は２人に任せればいいよね。私は勉強しとこ～」
伊奈野はそれ以上考えることを放棄する。
ここでダンジョン経営に本格的に関り出したらこれ以降アドバイスを求められる可能性が高くなるし、伊奈野自身も楽しくなってしまいかねない。そうなれば、自然と誘惑に負けてダンジョン運営へ割くリソースが増え、勉強時間や意欲が減りかねないのだ。
それは絶対に避けなければならない。
「よぉし！勉強再開！！！！」
伊奈野は煩悩を振り落とし、再度机に向かって行くのだった。
ちなみにその後、伊奈野の予想通りノーリスクで配下が増やせるということでアンデットは大量に増え、伊奈野の前の廊下がさらに敷き詰められていき驚くこととなるのだった。
それからもう一度落ち着いた段階で骸さんとの会話を行ない、
『ああ。そうだ。言い忘れていたが、余が協力関係を持ち掛けたのは、そなたがダンジョンマスターだからという理由だけではない』
「え？そうなんですか？」
『うむ。そなたが禁忌を犯しているからこそ近づいたのだ。最初は排除しようかとも考えていたのだが、なかなかに優秀だったのでな』
「ふぅん。そうなんですね………………………………………………ん？禁忌？」
