「これは何処で作られたものだ?」
「はい、そちらはヘドリック領にて最近作られたものになります」
「え?ヘドリック領?キリアン様のご実家?」
「おや?奥方様はキリアン様をご存知でしたか?」
「学友だ。同じ学園に通っている」
「そうでございましたか。そちらの生地は最近そのキリアン様が独自に開発され、我が商会に販路の相談に来られたので、我が商会が独占販売するという契約を結ばせて頂いたものになります」
「そうか、キリアンが…ふむ、この生地で決まりだな」
「ありがとうございます。では早速デザインの方も…」
それからあれよあれよという間にデザインも決定し、この世界の標準的な新生児サイズから生後半年位まで着られるものが大量に作られる事が決まってしまった。
「そんなに必要?!」
「多いに越した事はない。汚れたら破棄しなければならないしな」
「洗えば良くない?」
「赤ん坊の肌着はすぐに黄ばんでしまうと聞く。我が子にそんな黄ばんだ肌着を着せていたくはないからな」
赤ちゃんの半年なんてあっという間だよ?
そこにこんなにお金を掛けていいもの?
すぐに着られなくなっちゃうんだよ?!
「あっという間に成長したとしてもあって困る物ではない」
ミューゼ様は凄く満足気だった。
*
2日目の卒業試験も無事に終わりホッと出来るかと思っていたのだが、今目の前にキリアンがいる。
ミューゼ様が我が家に呼んだのだ、あの生地の事で。
「新しい綿の生地を開発したそうだな」
「はい!既存の綿生地は固くて肌触りが良くないものが多く、どうにか出来ないかと思っていたんです。そんな時にフェリー様が綿花をワタとして使用する画期的な方法を考えて下さり、その時に閃いたのです!このワタのように柔らかいまま生地に出来れば素晴らしい生地が出来るのではないかと」
「ほぅ…」
「これまでの固く丈夫な糸という概念を覆し、柔らかくそれでいて切れにくい糸を紡ぐ方法を模索し、完成した糸を使って生地を織ってみた所とても柔らかい布が出来上がったのです!ですがまだ何かが足りないと思い織り方も変えてみた所、満足いく物が出来上がりました!」
「まずは糸そのものの紡ぎ方を変える、か。今までにない発想だな」
「まだ大量に生産出来る工場の確保が出来ていない為に領内で織り機を持っている者に頼んでの生産になっていますが、これが成功したら」
「その工場、俺が建てようじゃないか」
「はい?!え?建てる?」
「前々から思っていたが、何故自領に工場ラインを作らない?自領で収穫から生産まで行えれば効率も良く、他領に工場との契約を奪われる事にもならないだろう?」
「そ、それはそうなのですが、何分我が家にはお金がなく…」
「当代や先代達は何故作らなかったのだ?」
「それは、分かりません」
「では作れ!金がないのならば俺が出資しよう。なに、タダでくれてやるつもりはない。10年だ!10年で利益を出せ」
「10年?!」
「このような生地が作れるのだ。お前の発想次第ではもっと良い物が作れるだろう。その為の投資だと考えればいい。勿論収益が出るようになればこちらも多少見返りをもらおう。悪い話ではないだろう?」
「は、はい!よろしくお願いします!」
「あ、あの!それならば是非作ってもらいたいものがあるのですけど」
「何だ?」
「何ですか?」
「その…女性用の、下着を…」
言って恥ずかしくなった。
キリアンは「え?」って言って顔を真っ赤にするし、ミューゼ様は「こいつ、何言い出すんだ?!」って顔してるし。
でもね、でも下着って大事なの!
この世界の下着ってシルクの妙にツルツルしたやつか綿のやたらとゴワゴワしたやつしかなくて、履き心地が良いとは言えないんだよ。
形は限りなくダサいし。
しっかりしたゴムがない(あるけど何かゆるゆる)からシルクだと少し動いただけでストーンと簡単に落ちちゃうし、綿はそもそもの履き心地が悪いから布と肌が擦れて痛くなったりする。
本当はゴム紐から開発して欲しいけど、ゴムは他国からの輸入品ばかりだし、どうやって加工してるのかとかも全く知らないから口出し出来ない。
だったらせめて下着の生地を変える事で履き心地位良くしたい。
前世を思い出す前は何の不満もなかったけど、思い出した今は不満しかないのだ。
「フェリー、ちょっとこっちへ」
ですよねー。
キリアンを置き去りのまま隣の部屋に連れて行かされて「どういう事だ?」と話を聞かれた。
下着の不満を話すと「だからってキリアンの前で言う必要はないだろう」と呆れられた。
「でも…」
「他の男の前で妻の口から下着なんて言葉が出る俺の気持ちも考えてくれ…キリアンの息の根を止めてやろうかと思ったぞ」
「え?何で?」
「キリアンがフェリーの下着姿を想像したかもしれないなんて思ったら許せるはずがないだろう!」
「想像…」
「フェリーは美しく魅力的な女性なんだ、想像しない方がおかしいんじゃないか?!」
いやいや、いやいやいや!だって私妊婦ですよ?!お腹大きいんですよ?!
そこいらのボンキュッボンのご令嬢ならまだしも、お腹ポッテリな妊婦の下着姿なんて想像しないでしょ?!
「でもまぁ、フェリーの不満は理解した。俺も下着の不満はある。この話は俺の方からキリアンに伝えておく。キリアンに要望がある場合も今後は俺に言うように!」
「はい」
という事でキリアンに下着を開発してもらう事が決定しました!
といっても領地内にいるデザイナーさん達と共に私の意見を参考に試作品を作ってもらうんだけどね。
本当はブラジャーも作って欲しいんだけど、私、前世の自分のカップ数は分かってても、アンダーとトップの差が何cmで何カップなんて事は全く分からないし、ブラホック的な物を作れるのかも分からないし、そもそもブラってどういう風に作られてたのかも分からないから諦めた。
そのうち「こういうの作れます?」とさり気なく伝えてみようかな?とは思ってるけど、絵心もないから上手くイラストで伝えられる気もしなくて、ミューゼ様に自分の口で細かく伝えなければならない訳で…え?羞恥プレイ?