暖かな日差しが心地良い午後。
庭に用意してもらったティーセットを囲んでミューゼ様と穏やかな午後の一時を楽しんでいる。
私達の息子エリオンは現在7歳。
その後生まれた娘のルシェリーは現在3歳になった。
私達の視線の先でエリオンに手を引かれたルシェリーが蝶々を見て目を輝かせている。
ルシェリーはミューゼ様にはあまり似ず私と同じ日に当たると赤く見える茶色い髪に私より青を多く含んだ青緑の目をしており、ミューゼ様とエリオンに特に溺愛されている。
「フェリーに似て可愛い」
「ルシェリーはいいなぁ、お母様と同じ色で」
身内2人(時々お義父様も参加)にチヤホヤされているルシェリーはそれはそれは天真爛漫で、少々あざとさすら感じさせる女の子に成長している。
このまま大きくなったら魔性の女にでもなりそうで母としては少し心配である。
何処で覚えてくるのか可愛く小首を傾げての上目遣いや両手を胸の前で組んで大きな目をうるうるさせての「おねぁい(お願い)」は男性陣には効果覿面で、大抵のお願い(と言っても幼児なので大した事ではない)は通ってしまう。
「フェリーの幼い頃もルシェリーのように愛らしかったのだろうな…その頃のフェリーも見たかった」
私は割と小さい頃からの記憶を持っているので断言出来るが、私はルシェリーのような愛らしい幼女ではなかった。
廊下を走って装飾品の高い壺を割ったり、庭で虫を追い掛けたり、木に登ってみたいと大泣きしたり、馬番の男性の子供と一緒になって棒を振り回して遊んだり。
「性別を間違えて生まれてきた!」と言われる程に腕白で逞しい幼女だった。
ルシェリーのようなあざとさなんてなかったから壺を割った時は怒られたくなくて「割ってない!」と嘘をついた結果お尻を叩かれたし(軽くだけど)、虫を捕まえてお母様に見せに行ったら卒倒させてしまったし(その後虫を家に入れる事を禁じられた)、男の子みたいな言動に呆れられた結果4歳になる前には淑女教育の先生が付けられた。
今でこそ内面はどうであれ外面だけはしっかりと淑女の仮面を被れているが(本当に?)、あの頃のまま成長していたらきっとミューゼ様と結婚はしていなかっただろう。
「私、かなりのお転婆でしたわよ?」
「あぁ、義兄上から聞いている。木に登りたいと泣いたり虫を追い掛けていたと。そんなフェリーも可愛かっただろうと思う」
兄め!よくもそんな恥ずかしい話をミューゼ様に聞かせたな!
「ルシェリーも木登りをせがんだりしてくれないだろうか?」
「ちょっと!やめてくださいよ!そんな事絶対駄目ですから!」
「冗談だ…それよりもフェリー、今夜だが、久しぶりに」
言わんとしている事が分かり顔に熱が集まる。
私達は乳母を置かずに自分達の手で育児をして来たのだが、3歳になり一人寝が大丈夫だと判断すると子供を子供部屋へとお引越しさせている。
実は昨日からルシェリーはエリオンと一緒の子供部屋へとお引越しを済ませている。
昨日は何時泣き出しても大丈夫なように様子を何度も見に行ったが、こちらが心配するのが馬鹿らしくなる程に泣く事もなく落ち着いていたし、ベッドに入ると10分もしないで寝てしまい、朝までぐっすりだった。
エリオンが10歳になれば一人部屋を与える予定だが、それまでは2人で一緒に過ごさせる事は夫婦間で決定済みである。
自分が経験しているからなのだが、幼少期の1人部屋はなかなかに怖い。
何時もは平気でも突然心細さを感じる事があるのだ。
嵐の夜や雷の夜は特に心細いのだが、両親の部屋を訪ねるのも何だか罪悪感を感じてしまい、1人で布団に潜ってひたすらに耐える長い夜は辛いものがあった。
その事を踏まえての子供部屋なのだが、エリオンは子供部屋に移って以降一度も私達の寝室には来てくれないのは少し寂しかったりもした。
「…お手柔らかに、お願いします」
「ふっ…無理だな」
抱き潰す気満々の顔にゾクッとした。
*
夜。
何時もより早めに寝室へと連れて来られた私は、ミューゼ様が買ってくれた「これを夜着と呼んでもいいの?!」と聞きたくなる程に透け透けで着ている意味すら感じない夜着を身に纏い、ミューゼ様の膝の上に座らせられている。
「裸より官能的とは…凄いな」
私の夜着姿を舐め回すように見つめるミューゼ様の視線が兎に角恥ずかしい。
「フェリーは歳を重ねる毎に魅力を増すな」
「それはミューゼのことだと思うけど」
「昨日のフェリーよりも今のフェリーは綺麗だ」
危険な程に熱の篭った瞳が私をしっかりと捉えている。
唇が重なり深さを増していく毎に私の体も段々と熱く淫らになっていく。
私の体を知り尽くしているミューゼ様の手の中で狂おしい程に溶かされていく。
「あぁ、俺のフェリー…」
色気のモンスターと化したミューゼ様はその後も止まる事なく、空が白んで来る頃まで私を責め立て、私は気を失うようにして眠りについた。
『本気を出されなくて良かったわ』眠りに落ちる直前に思っていたのはそんな事だった。
ミューゼ様が本気を出すと一晩では済まないのだ。
ゆっくりじっとりと真綿で首を絞めるように焦らしながら愛され、気が狂いそうになるような渦の中で長々と丁寧に愛され続け、気付いたら翌日の昼だったなんて事は1度や2度の事ではない。
キリアンと結婚したアリザから「普通は1晩に1回です」と聞かされた時は『ミューゼ様!そんな所まで立派でなくていいのに』と思ったものだ。
因みにシャーリンとヘルドリアスも我が家と同じだと聞いた時は『仲間がいた!』とちょっと嬉しかった反面、『大変だろうなぁ』と私よりも体力がなさそうなシャーリンの体を心配した。
*
それから私は箍が外れたとしか表現出来ないミューゼ様に毎晩抱き潰され、午前中は完全に使いものにならない日々を半月程送り、その結果3人目の子供をお腹に宿す事になるのだが、その話はまた何時か。