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I Thought It Was My Second Life, But It Was Actually My Third!~I Will Challenge Unhappy History with Historical Knowledge and Domestic Efforts~ – Chapter 303

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交渉の席では、第一皇子グロリアスの処遇を巡って、クライン公爵とケンプファー子爵との間で、言葉の応酬が続いた。

それは、当人が聞いたら相当落ち込むぐらい、要らない者を互いに押し付けあうかの如く、お互いに惚けあいを繰り返しながら……

少しでも多くの対価、有利な条件で帝国に火種を送り返したい、カイル王国。

少しでも少ない対価、腹の痛まぬ条件で、いやいやながらも第一皇子を受け取りたいグリフォニア帝国。

第一皇子の身柄を帝国に返還するという点では、思いは同じなのだが、それ以外の思惑のために、互いにその部分は霞んでしまっていた。

クライン公爵は、狸爺の本領を発揮するかの如く、老獪で時には惚けた発言で揺さぶり、ジークハルトは素なのかそれとも意図的なのか、同じ陣営の者さえ判断しかねる返答で、論点をずらし続ける。

そろそろ両陣営で見守る者たちが互いに腹いっぱい、応酬に辟易し始めた頃になって、ジークハルトが切り出した。

「クライン公爵殿のお手並み、感服いたしました。

さすがタクヒール殿が、決して敵わない相手、狸爺と呼ばれているだけのことはありますね。

そして皆さま方、そろそろ議論も出尽くしたと思われますので、結論に移りましょうか?」

これまでと雰囲気が変わった彼を見て、クライン公爵は悟った。

『こ奴、これまでの議論で儂を測っておったな?

魔境伯のいう通り、油断のならぬ奴じゃな。

両陣営とも既に互いの応酬に辟易し、異を挟んでくる気持ちも削れておるわ。まさかこ奴はこれを狙っておったのか?』

そう考えると、寒気を覚えたが、それを微塵も表情には出していない。

「ほっほっほっ、魔境伯も口が軽いの。後であまり本当の事を言わぬよう、叱り付けておかねばならん。

儂もやっと、そなたの本意が見えたようじゃ。では、先に進めるとしようかの」

「それでは、基本的にグロリアス殿下の返還については、合意が取れたものという前提に立ち、戦については双方痛み分け、その理解でよろしいでしょうか?

その為、対価は殿下の返還、この一点に絞らせていただきます。王国側としては、何を望まれますか?」

「ちょっ、ちょっと待て! いや、お持ちくだされ。

先程、戦は双方痛み分け、そう仰られたように聞こえましたが、我らの右翼軍たる魔境伯は、帝国軍左翼に完全勝利し、中央軍は国境まで貴軍らを押し上げ申した。これを我らの勝利と呼ばず何とされるか」

カイル王国側の末席に座っていた者、王国南部を領有する伯爵の一人が、声を荒げて食いついた。

「ふう……、失礼ですが貴殿は、我らとの戦いの場に参陣されておりましたでしょうか?」

「応! 我らは当初より、ブルグを防衛拠点に貴軍らと対峙しておったわ!」

「であれば、我らがカイル王陛下の御前に、ご挨拶に伺ったのもご存じでしょうな」

「挨拶? そんなもの……」

「あの時の戦いは、単にご挨拶に伺っただけです。

なので敢えて手心を加えておりましたが、それがご理解いただけませんでしたか?

全力で戦えば我ら25,000、戦いの経験も浅い30,000名程度の軍勢など、簡単に討ち滅ぼしていましたよ。

あの時の戦いは、この交渉の場を作るための、ご挨拶に過ぎません」

「なっ……」

「正直に申し上げます。我らが警戒し恐れる軍は、貴国のなかで二つの軍のみ。恐れる将は、貴国の中で三名のみ。恐らくそれが、貴殿には分からないでしょうね。

因みにご本人を前にして大変恐縮ですが、それは王都騎士団でも、それを率いる軍団長でもありませんよ」

「くっ……」

その苦悶の声は、件の伯爵ではなく、王都騎士団を率いるゴウラスから漏れたものであった。

彼には、ジークハルトの言っていることが、身に染みて分かっていたからだ。

そして短く、言葉を発した。

「伯爵、控えよ」

「いいえ、騎士団長ご自身が、いえ王国が愚弄されたのですぞ!」

「あ、僕は愚弄したつもりも、軽んじたつもりも全くないですよ。逆に尊敬と畏怖をもって申し上げたつもりです。

一部の方を除き、皆様方の方が優秀な味方を軽んじておられると思い、ちょっと不思議なぐらいですよ。

皆様が想像すらできないであろう将ですら、我々は高く評価しておりますので」

「だ、だ、誰だと言うのだ!」

自尊心を傷付けられ、愚弄されたと思い込んでいる伯爵は、真っ赤になって激昂した。

だが、対するジークハルトは平然と、いや、にこやかに微笑すら浮かべている。

「ふふっ……、先ずは落ち着かれる事をお勧めします。せっかくの、互いに理解を深める場ですし、敢えて私どもの存念を教えて差し上げますよ。

我らが恐れる軍は、魔境騎士団と辺境騎士団、然るべき将に率いられ、実戦経験も豊富なこの軍団です。

恐れる将とは、言わずと知れた魔境伯、ソリス子爵、そして、双頭の鷹傭兵団の団長、ヴァイス男爵です」

「あ、あの、身分卑しき流れ者だと?」

「ご発言を否定も肯定もするつもりは有りませんが、戦は身分でするものではありませんよ。

そして、南方で戦いに明け暮れたわが軍は、数千といえど、歴戦の精兵を恐れ、数万といえど、実戦経験の乏しい、貴方たちの軍を恐れません。

ヴァイス男爵は一見魔境伯のいち配下、そう思われがちですが、魔境伯の考案した恐るべき戦術を理解し、実戦レベルで完璧に遂行できているのは、男爵の力に他なりませんよ。他の将では、魔境伯の智に、到底ついていくことすらできないでしょうね。

そして彼の真価は、数万の軍団を率いた時こそ、誰にでも分かる形で発揮される、そう我らは考えています」

「……」

ジークハルトの言葉に、誰一人として反論することは出来ずにいた。

「彼らの価値を知らぬ軍だから、我らは恐れない。

彼らがおらぬ軍だから、我らは勝ちを確信する。

まぁ、そう言うことですよ」

そう言うとジークハルトは、少しおどけた表情を見せた。

それに対し件の伯爵、そして後ろに居並ぶ随員の者たちは、怒りと驚きで何も言葉を発することができなかった。

「皆さまの感情を害するつもりは有りませんが、彼を見い出し囲い込んだ魔境伯、ソリス家の皆様方、彼を貴族として取り立てた、今は亡きハストブルグ辺境伯、これらのお方以外に、ヴァイス男爵の価値を理解していらっしゃる方が、貴国にはどれぐらいいらっしゃるのでしょうね」

そこにもう一人、舌戦に参加する者がいた。

「ははは、私もこの者の勧めに従い、今の十倍の額での傭兵契約、傭兵団全員の雇用、そして、将たる彼を将軍として、数万の兵を預ける条件で招聘してみたのだがな。

金と契約、それで動く傭兵という職業を生業としながら、なかなか見上げた忠義の男であったぞ。

だか、たかが数千の兵しか率いておらん現状は、真にもったいない話よの」

「んなっ! そこまで……」

誰もが知る剛の者、身分だけでなくその実力も諸外国に知れ渡っている、帝国第三皇子の言葉は、彼らを黙らせるに十分だった。

ヴァイス男爵は第三皇子すら見込んだ男、そして自ら招聘にまで動いた男。

その事実は、彼らにとって衝撃的であった。

それを伯爵が口汚く罵ったので、たまらずグラートも口を挟んだように見えるが、実は、効果的な追撃を加えたといった方が正解かもしれない。

実はタクヒールも以前、この時の話をヴァイスから報告として聞かされ、衝撃で思わず飲みかけていた盃を落とし、蒼白となって慄えた経緯があった。

そう、歴史が前回と同じ道を辿るよう、密かにその触手を伸ばしていたことを知ったために……

「伯爵、控えよ! 少なくとも我らは、現状認識という点で負けておるわ。それを謙虚に受け止めるべきであろう。醜態をお見せして、失礼いたした」

国王自らの叱責を受け、伯爵は蒼白となって黙り込んだ。

この時クライン公爵は、敢えてやり取りには参加せず、じっと黙ってジークハルトを観察していた。

『これまでの呆けた態度と異なりこの辛辣さ、これが奴の本質ということじゃな。やはり恐ろしい男じゃ。

他国にありながら、要所を見抜いた上で事前に、魔境伯の翼をもぎ取る手を打っておったとは……

それに比べて我が国では、彼らへの認識が低過ぎる。

復権派の者たちが表舞台から消え、それでかなり改善はされたが、貴族の間ではまだそれが根強い。

それをこの段階で、武器として出して来るとは……』

そう思い、嘆息せずにはいられなかった。

だが彼も只者ではない。

狸爺と呼ばれた男の本領は、こういった場面にこそ、発揮される。

『ふむ……、我々はこの一連のやり取りで、心理的に圧されてしまったわい。この先の交渉を進めるにあたり、その影響は計り知れないじゃろうな。

ここは一旦、楔を打つ必要がありそうじゃな』

そう考えると、クライン公爵は再び舌戦に参加を始めた。

「さて、見苦しい所をお見せして失礼いたしました。

我らに貴重な教えをいただいた代わりに、第一皇子の返還については、まず全面的に同意させていただく旨をお伝えする」

彼がそう伝えると、ジークハルトは無言で頷いた。

だがその眼差しはまだ、鋭いままだった。

「先ずは、詳しい条件を議論する前に、儂としてはこの際、恥のかきついでに是非教えていただきたいな。

返還の件じゃが、逆に立場を変え、もし仮に帝国軍が王国の世継ぎを虜囚としていたなら、どのような要求を科されるかの?」

クライン公爵は、切り返しのために、敢えて冒頭にあった質問を質問で返した。

こんなことで帝国から言質を取れるとは思わない。

ただ、議論を戻し、これからの交渉に一端の綻びを探りだすため、敢えて無駄な一石を打ったに過ぎなかった。

「そうですね……、少なくとも王国領の三分の一、そして、帝国金貨で100万枚、そんな所でしょうかね。まぁ、とても友好的な条件だと思いますよ」

「なっ!」

驚きの声を上げた、自身の後ろに控えていた者たちを一瞥し、ため息を吐いてからクライン公爵は続けた。

実はクライン公爵自身、こんなにも簡単に言質が取れるとは、思ってもみなかったからだ。

「では、大国である帝国の、第一皇子の身柄ともなれば、それ以上の条件かの?

子爵ご自身がそう仰ったことでもあるしな」

そう言われたジークハルトはにこやかに微笑んだ。

「それは到底無理なお話ですね。

第一に、帝国はさておき、我らの陣営は基本的にグロリアス殿下の身柄を欲していません。

第二に、領土の割譲と仰るが、対象となる土地は、戦いに勝った我らグラート殿下の陣営が領する地です。

第三に、そんな条件を我らが飲めば、売国奴の誹りを受け、自身の身すら危うくなります。

最後に、その条件を受けた場合、帝国は恥辱を雪ぐため、総力を挙げて復讐戦を挑むことになりますよ。

大国たる帝国の体面と面子、どうかそれをご理解ください」

暗に、帝国と王国では格が違う。

対等の前提など無意味である、そう言い切っているかにも取れる発言だった。

「ほっほっほっ、それは困ったものじゃの。

第一に、帝国第一皇子は次期皇帝候補、即ち帝国の皇帝に近しい。その身代が軽いはずもなかろうて。

第二に、彼のお方も近頃は衣食住に満足されてか、精力的に独自の交渉を始められておってな。

第三に、貴国が割れれば、貴軍が得た新領土は周辺国の草刈り場となろう。それはもったいない話じゃて。

最後に、我が国は今回、周辺四国から侵攻を受けた。

これを機に、専守防衛である国の方針も改めるべし、そんな声が今や大勢を占めておってな。

これも滅亡の窮地に陥り、方針転換も止む無しとなった我が国の現状、ご理解いただけると助かるの」

敢えて同じ論調で言葉を返し、老獪に笑顔で笑ってみせた。

これ見よがしに、第一皇子の指印で封印された封書を、懐から取り出しながら。

虜囚の第一皇子からの親書、これがタクヒールがカイル王に託した、交渉のための切り札であった。

捕虜となった第一皇子の元を何度も訪れ、予め言い含めた身近な者を世話役に置き、第一皇子にはこの先の交渉の余地を匂わせながら……

結果的に第一皇子が【自発的に】交渉を始めるよう誘導していた。

これは、戦後交渉を見越し、万が一自分が参加せねばジークハルトは全力で交渉に臨む、そう言っていたことに対する保険として。

「ふふふ、もはや地に落ちたグロリアス殿下の密約など、なんの実効力もないと思われますが?」

「ほっほっほっ、我らにとって、そんなものはどうでも良いことよ。

貴国が割れ、周辺国が蠢動すれば、密約で約された土地など、簡単に手に入れることができるでの」

「へー、それはなかなか、強気の仰りようですね」

「虚言ではないぞ、帝国軍がいかに精強であろうと、我らにも誇るものがある。

魔境伯の元には、フェアラート公国が誇る300名もの魔法兵団を葬った秘策と、彼らの集団魔法攻撃に対抗し、それを打ち破った魔法騎士団がおるからの。

公国の集団魔法攻撃の恐ろしさは、貴軍も十分にご存じであろう?

そして其方が恐れると言った三名の将が、軍を率いて現れれば、結果は目に見えておるのではないか?」

『ちぇっ、タクヒール殿も人が悪いなぁ。この場に居ないからと安心しきっていたのに。

ちゃんと僕が嫌がる事を見越して手を打って来ているし……まぁ、好意的に取れば、あれは僕らに対する警告かな?

彼が居なければ全力で交渉に当たる、そんなこと言わなきゃ良かったかなぁ』

このジークハルトの呟きは、隣に座る者たちにも聞こえないほど、ごく小さなものだった。

だが、その顔には微塵の動揺すらない。

『ならこちらも大きく妥協するしかないかな?

あまり使いたくはなかったけど、殿下たちには事前に同意いただいている案に、ちょっと悪戯も加えてあるし、最悪のなかの最良想定、これで一気に行くか?』

そう考えると、ジークハルトは笑った。

日頃の彼を良く知る者たちが時折、ぞっとして驚かされる、凄みのある笑顔で……

二国間交渉はこれより第二幕に入る。

それぞれの国の威信を背負った駆け引きは、これより山場を迎えることになる。

いつもご覧いただきありがとうございます。

皆さまの応援のお力で、一昨日、書籍版第一巻が発売されました。

多大なる感謝と共に、深く御礼申し上げます。

5日間に渡る特別編は、次回を残すのみとなります。

幾つかの不透明な部分は、本編の論功行賞などで随時明らかになっていく予定です。

楽しみにしていただけると嬉しいです。

なお、最後になりましたが、書籍版をご購入くださった皆さまには、この場をお借りして厚く御礼申し上げます。

よろしければ、活動報告などで、ご感想、ご意見をいただけると嬉しいです。

どうぞよろしくお願いいたします。

I Thought It Was My Second Life, But It Was Actually My Third!~I Will Challenge Unhappy History with Historical Knowledge and Domestic Efforts~

I Thought It Was My Second Life, But It Was Actually My Third!~I Will Challenge Unhappy History with Historical Knowledge and Domestic Efforts~

2-Dome no jinsei, to omottara, jitsuwa 3-domedatta.~ Rekishi chishiki to naisei doryoku de fukōna rekishi no kaihen ni idomimasu ~, My Second Life... or So I Thought, but It's Actually My Third Life: Using My Knowledge of History and Domestic Policies to Change the Unfortunate History, 2度目の人生、と思ったら、実は3度目だった。~歴史知識と内政努力で不幸な歴史の改変に挑みます~
Score 7.4
Status: Ongoing Type: Author: Released: 2022 Native Language: Japanese
Born the second son of a baronial family plagued by misfortune, Takuhir became the head of the household at the age of 16 after successively losing his family to calamities. Desperately working on domestic affairs, but being an ordinary man, he was unable to prevent the continuing disasters or restore his domain. He was called incompetent and defeated by a neighboring country’s invasion at the age of 20. Pleading for the protection of his people in exchange for his own life, he awakened to magical skills at the moment of his execution and transferred himself to the past to redo everything. Returning to the time of his birth as the second son of the baronial family, he also regained the sad memories of his first life, living and dying as a Japanese person. Utilizing the historical knowledge gained in his second life in another world and the knowledge of modern Japan from his first life, he resolves to avoid disaster and save his family and companions in his third life. However, being still a child, he cannot achieve overwhelming power or sudden reversals. He starts with steady proposals for domestic reform, earns funds, increases his allies, develops the town, and gradually accumulates power. Can he change history and save his family? Is there a bright future in this world of redoing? The grand rebellion of an ordinary man, who has resolved to fight against a history that brings one disaster after another, now begins.

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