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Just a Rear-Guard, Arms-Crossed Reincarnator—But When I Accidentally Applauded the Hero, I Got Labeled the Mastermind. – Chapter 14

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ただの後方腕組転生者、うっかり勇者に拍手を送ったら黒幕扱いされる。

第14話 黒幕は「第一の試練」を与える

誰もが綺麗事を愛していると疑わなかった。

きっと、俺の人生で最大の過ちを言い表すならそうなると思う。

あの魔王ですら理想は同じ綺麗事だったはずだ。だからこそ、互いの理想を貫くために争ったのだから。

でも、この世には綺麗事を愛することがない者も実在する。生粋の悪がいるのだ。生まれながらに、人の不幸を愉悦とするような奴が……。

「どうして……」

仲間だった屍を前に、俺は痛感していた。

先生の背後に立つ三人の援軍は――共に旅をしてきた大切な仲間達だ。戦いの中で生きてきた俺には分かる。みんなは既に死んでいる。もう助からない。

「嘘だ」

何かの間違いだ。

冴えた頭で、正解を導き出す。それを感情が否定する。

いや、そもそも先生と戦うことすら受け入れられていない……。それが人生の大半を共に過ごした仲間達なら、尚更だ。

「……みんな、どうしたんだよ? なんでそっちにいるんだ。一緒に戦ってくれ」

「貴方と戦ってくれますよ」

先生の言葉を肯定するように、三人が武器を構えた。

死者を操るネクロマンサーがいるのだと、先生は言った。みんなが命令に従うということはつまり――既に死者であることを示している。

「やめて、くれ」

俺が一歩下がる度に、三人が一歩進む。

俺が隙を見せる度に、三人が攻撃に備えた動作をする。

「なんで、どうしてだよ!」

俺はなんのために、どうしてここへ来た?

ただ、仲間と恋人のために戦うと決めて、英雄オーダーに挑んだ。

なのに、それなのに、これはなんだ……?

「貴方は英雄――”勇者”なのでしょう? 少数を切り捨て、多数を救ってきた。身内だけを特別に扱うなどあってはならない事です」

「……っ」

先生は己を含めて葬れと、そう言っている。

俺が勇者なら、それが正解だ。

俺が英雄なら、それができただろう。

「無理、だ」

俺はただ、恋人や仲間とのかけがえのない時間を守りたいだけ。

それだけのために戦うと決めた。

人間らしい理由で戦うと決めてしまった。兵器であることを放棄したのだ。大義名分を捨てたに等しい。

その最後の理由すら失ったら……?

今の俺には剣を振るうだけの理由がない。大儀も、信念も、理想すら。

俺の剣には、もう何も宿っていない。

「……今の貴方を見て、スギルさんもガッカリするでしょう」

「俺はっ……。俺はあんな奴のために戦ってきたんじゃない! 先生に会いたくて、人類の笑顔のために、戦ったんだ!」

「なら、なぜ今になってそれを放棄するのですか? 私も、仲間も、斬るのが筋でしょう。違いますか?」

「それ、は」

斬り殺した魔族や、敵。

守れなかった人々。俺が見捨てた人々。

今までの犠牲に報いるためにも、俺は戦うしかない。それが唯一の道だ。

「嫌だ」

「では、立ち去りなさい」

「…………」

立ち去ったところで、戻ったところで、俺に何が残る?

今の俺の前に残されているのは、義務と使命感だけだ。過去に報いるためだけに、最愛の人達を終わらせなければならない……。

「やめろ、やめてくれよ!」

「……ヴルム」

「フリムラ! 意識があるのか!」

魔法使いの少女――フリムラ。俺の恋人が魔法を放ちながら、接近してくる。

回避していると、話しかけられた。

意思疎通ができるのか?

「ヴルム。貴方が、終わらせて……。お願い」

「なに、言ってるんだよ……?」

仲間達の攻撃を防ぐ。全員の動きや能力を把握している俺には通用しない。

ただ、先生が参加すれば劣勢になるだろう。

だが戦いに加わる気配がない。先生はただこちらを見ているだけ。

「先生! 本当に英雄オーダーで良いんですか!? 人類を、貴方が導いた未来の人々を裏切るんですか!」

「無駄ですよ。説得ではなく、討滅しか救いの道はありません」

「そん、な……」

俺は何のために、俺の人生は何だったんだ!

こんな結末だと知っていたなら、勇者であることを受け入れなかった。

本当に、何も残らないじゃないか……。

「グハッ」

回避しきれず、魔法が直撃してしまった。

普段ならくらわないだろう。しかし、動揺してタイミングが遅れた。

フリムラ以外の二人も、絶え間なく攻撃をしてくる……。

「やめ……」

「ヴルム、お願い」

フリムラが泣いていた。

俺はまた、彼女を泣かせてしまった。

いつも俺は手遅れなんだ。こんな結末なら、最後の夜に抱いてやれば良かった。願いを叶えてやれば良かった。

後悔の言葉ばかりが、頭の中で繰り返し浮かぶ。

「こんな、こんなのが……。俺達の最後なのか? 人類のために戦った結末がこれなのかよ? そんなのってないだろっ!」

「見返りを求めるくらいなら、最初から己のためだけに戦うべきだと、昔言ったはずでしょう? 知った上で、勇者である道を選んだはずです」

英雄は見返りを求めてはならない。

英雄は生前に報われてはならない。

時代に肯定されただけで、命を奪う存在だから。大義名分のある悪のようなもの。

この三つは先生の教えだ。

「貴方は、昔から綺麗事が好きでしたね……」

「好き、でした」

俺は誰もが綺麗事を愛しているから、争いがあるのだと思っていた。

根底にある願望が同じなら、みんなが笑顔になれるのだと、信じていた。人と人は繋がっていて、最後は理解し合えるのだと……。

「ぅぁ……うっぐ……」

手が震える。

これから最愛の仲間を終わらせる。

俺のこの手が、聖剣が、人類の敵を斬る。いつものように。

「うぁあああああああああああああああああああああああああああああああああ!」

俺は叫びながら、聖剣を振る。

苦しまないように、一撃で両断する。

僧侶のガーテエルド、精霊使いのアウロラ、その二人が塵になっていく……。

「ありがとう」

二人は安心したような顔で、そう言った。

聖剣は、死者を消滅させる特性がある。だから、骨すら残らない。

人類の敵になるくらいなら、終わらせてほしい。せめて俺の手で終わりたい。そんなことを思ったのかもしれない。

「憎しみで剣を振らないで。貴方が好きよ、ヴルム」

「俺も、愛して――」

恋人のフリムラも、斬った。

無理やり作ったような笑顔で、フリムラはそんなことを言う。俺の言葉が、最後まで届くことはなかった。その前に消滅した。

俺は膝から崩れ落ちる。涙は出ない。あまりにも実感のない喪失だから。

「あーあ、消えちゃった」

「……?」

いつの間にか、一人の少女がいた。

先生の背後に立っている。

絶大な魔力を感じる。魂を掌握されるような気色悪さと、それに反する綺麗な声。

「貴方が、兄弟子の勇者?」

「え」

少女は俺を兄弟子と呼んだ。

その一言だけで、どんな存在なのかを理解する。

「私は、ラーズシャルテ・アルルガン。先生の教え子なのに弱いんだね」

「……君、が」

「うん、死者を操ったのは私」

「なんで、こんな事を?」

「幸せになりたいから」

「は?」

聞き間違いだろうか?

この少女は、ラーズシャルテ・アルルガンは理解不能な発言をした。

「誰かの幸福は、誰かの不幸で成立している。そうやって、世界はバランスを保っている。私は自分の不幸を受け入れて生きてきた」

「……?」

ラーズシャルテ・アルルガンが話し始める。

禍々しい邪気を放ちながら、淡々と語る。

「でもそれは、私が異端だったから。生まれる世界を間違えた私が悪いんだって、言い聞かせて、森の中で孤独でも、一人で死ぬつもりだった」

「……帰らずの森に?」

先生を操っている経緯は理解した。

少女の思想は共感し難いものだ。しかし、そう考えるくらい特殊な境遇だったのだろう。生きづらかったのだろう。

「けど違った。英雄オーダーという居場所があった」

「……っ」

この少女は紛れもなく敵なのだと、ここでようやく俺は悟った。

ラーズシャルテ・アルルガンは笑った。

背筋が凍るような、邪悪な笑みを浮かべている。

「なら、私だけが不幸を受け入れる理由はないよね? 幸福を目指す権利は私にだってあるはず。だからね、この世界を絶望で染めるの。他の全てを不幸にすればきっと私は幸せになれるから」

俺は言葉を失う。あまりにも酷い。あまりにも惨い。

この子がここまで壊れる程、放置されていた事実も、利用されている今も、全てが許せない。

「そんな、そんなはずがないだろうっ!」

「でも、きっと喜んでるよ?」

誰が、俺がそれを聞く前に、音が聞こえる。

コツコツと足音が近づいて来る。

音が止まると、やって来た人物は拍手をしてくる。心底愉快そうに笑顔で。

「お前、は……」

「素晴らしい……!君らしい光景に、僕は感動してしまうよ」

僕がダンジョンの中を歩いていると、勇者を発見した。膝をつきながらラーズシャルテと会話しているみたいだった。

迷子だと思ったのだろう。怖がらせないように目線を合わせてあげるなんて、勇者らしい優しさで溢れている。

「あぁそうだ。サプライズは楽しんでもらえたかな?」

「……っぁ」

勇者も感動しているのか、言葉にならないようだ。

パーティメンバーの姿が見えないけど、もう解散しちゃったのかな?

聞いてみようか……。

「おや? お仲間はどうしたんだい? 彼らにはお礼を伝えないとね、なにせこんなにも愉快にイベントを盛り上げてくれたんだからさ」

「おま、お前っは……。どうして、どうしてそうなんだっ!」

勇者がワナワナと震えながら、大声で言った。

やれやれ、前にも言ったんだけどねぇ? きっと何度でも聞きたいのだろう。

案外、そういう欲しがりさんなところもチャーミングで素敵だと思う。

「ファンだから」

「うあぁあああああああああああああああ!」

勇者が叫びながら、こちらに走って来る。感動のあまり抱擁してくれるのかな?

嬉しいけど、流石に恥ずかしいよね。いい大人だし。

「”止まれ”」

ラーズシャルテがそう言うと、勇者が動かなくなる。

空気を読んでくれたみたいだ。良い子だなぁ。

幼い少女に言われて、勇者も冷静になったのだろう。ピクリとも動かない。

「くそっ! くそぉおおおおおおおおおおお!」

「えぇ……?」

勇者は叫びながら、涙を流している。

そこまでして、抱擁したかったの? ファンサービスの精神が凄まじいね。

「僕もね、君とこの喜びを分かち合いたい。でも我慢だ。君はいつも僕を笑顔にしてくれる。だから今回のプレゼントに、ファンサービスは不要だよ」

「ふざけるなぁあああ! お前だけは、お前だけはあああああああああああ!」

うーん、酔ってるのかな?

今日はやたらと叫んでるし、祝杯の後だったのかもしれない。

酔っ払いでも迷子を見過ごさないなんて、やっぱり素敵な人だと思う。

「残念だが、時間だ」

「――っ」

僕は勇者の背後に出現した、ワープホール的な大穴を見て言う。

魔将さんにお願いして、外に帰れるようにしてもらったのだ。

流石の勇者も疲れてるかもしれないし、帰り道を用意してあげるべきだからね!

「お前は、人を、命を、想いをなんだと思ってるんだっ!」

「強いて言うなら……そうだね。舞台装置とか?」

「は……?」

勇者が最も輝くのは、救う対象がいるからだ。人類を背負う想いがあるから。

そういう意味では舞台装置のようなものだろう。

君が主役だよって伝わったかな? ちょっと恥ずかしいね。照れてしまう。

「こんなタイミングでなければ、言えないことだけどね」

流石に魔王軍との戦争中だと不謹慎な言葉だろう。でも今は平和だ。

彼が命がけで手に入れた平和。だからこそ、今はこんなことが言えるのだと、感謝の気持ちを伝える。

「笑ってこんな話ができるのも、君のおかげさ」

「……っ」

勇者が大穴に吸い込まれていく……。

まだ何か言いたそうな顔だけど、今回はここまでだ。

「エモ・スギルぅうううううううううううううううううううううう!」

僕の名前を叫ぶと、勇者はこちらに手を伸ばす。

最後の最後まで、ファンサービスを忘れない姿勢は流石だ。

それにしても、手を振ろうとしてくれるなんて、アイドル意識みたいのが芽生えたのかな?

「嬉しいなぁ」

勇者は完全に吸い込まれて、消えた。

少し寂しいけど仕方ない。

僕も手を振り返すべきだったかもしれない……。まぁ拍手はしたし、セーフかな。

「勇者に会った感想は?」

「……哀れな人」

「そうだね。だからこそ、僕らが彼を輝かせてあげよう」

「私は先生と部屋に戻ってる」

「うん。魔神さんと合流したら僕も行くよ」

ラーズシャルテと先生さん。二人が勇者と顔合わせできて良かった。

僕の推し活に付き合ってくれるのは嬉しいが、みんなの推しを応援するイベントとかも欲しいよね。

確か、魔神カーラさんは初代勇者が推しだったはず。次はそれ関連のイベントにしようかな……!

「ぁ」

雨の音がする。

俺は水溜まりに転がっている。

もう、ダンジョン内ではない。外へ出たのだろう。

「ぁあ、うああああああああああああああああああああああああああ!」

俺は叫ぶ。

ひたすらに地面を、水溜まりを叩く。

自分の手が壊れてしまいそうなくらい、強く叩く。

「俺には何が、何があああああああああああああああああああああ」

仲間を失った。

信じていた教えを、尊敬する師を失った。

愛する恋人を失った。

「違う……」

失ったのではない。奪われた。

エモ・スギルという――巨悪によって、俺の全てを塗り替えられた。

人類のために戦う英雄譚は、黒幕を喜ばせるためのお遊びで、全てはこの時のために仕組まれていたのだ。

俺に師を与え、仲間を与え、恋人を与え、使命を与えた。

そして――この日に全てを塗り替える。

「こんな世界のどこに、綺麗事があるって言うんだ……!」

子供の頃の自分の言葉が憎い。

勇者を目指した己を呪わずにはいられない。

どうして、俺だけは殺してくれないんだ……。どうして俺だけがこんな……。

「フリムラ」

恋人の名前が口からこぼれた。

彼女は最後に、憎しみで剣を振るうなと言った。

俺はもう剣を使えない。戦う理由も気力もない。ある意味ではその言葉は達成されることだろう。

「疲れたよ。もう、何も考えたくない……」

俺は立ち上がり、歩く。

目的地はない。

ただ、雨の中を歩く。ふらふらと、おぼつかない足取りで、歩く。

何時間歩いたのだろうか? 何時間泣いていたのだろうか?

あれから随分と景色が変わった。

本当に何も考えずに歩いたから、現在地が分からない。

「……なんだ?」

村だろうか、古びた場所だった。

村人らしき声が聞こえる。

いや、これは悲鳴か?

「おいおい、勇者じゃねぇか! ……仲間はいねぇみたいだなぁ?」

「バサラーデ?」

魔王軍の四天王――バサラーデ。

巨体の魔族で、蛇のような尻尾と虫のような羽。牛のような顔。

一番最初に遭遇して戦った相手だ。当時の俺達では殺しきれず逃げられた。

「……勇者一人なら、我が勝つ」

「もう魔王軍はない。お前は残党だ。戦う必要があるのか?」

「……お前、本当に勇者か? 我はこの村の人間共を皆殺しにする予定だが?」

「そうか、俺はコンディションが悪い。今お前と戦っても勝ち目がない」

「勇者とは思えない発言だなぁ? 前とはまるで別人のようだ」

俺は臆病者だ。

もう勇者じゃない。誰かのために戦う勇気なんてない。

「俺にはもう関わらないでくれ」

「……随分と、腑抜けになったなぁ? あぁそうか、お前――」

バサラーデはニヤリと笑うと、言った。

「仲間が死んだのか?」

「……っ!」

「そりゃあ、腑抜けても無理はねぇよなぁ……。歴代の勇者の中でも、お前は”第二の枷”までしか外せないもんなぁ? 仲間との連携でそれを補う戦い方も、死んでるんじゃ頼れねぇもんなぁ?」

「……黙れ」

「すげー殺気だ。しかし、魔王様ですら殺せなかったのに、誰にやられた?」

「お前には関係ない」

勇者が継承する聖剣には――”四つの枷”が存在する。

歴代の勇者の中で、第三の枷まで外せた者は五人だけと聞いている。俺は第二の枷までしか外せていない。

初代勇者ですら、第四の枷は外せないと文献には残っていた。

一つ目を外せば身体能力が三倍になり、二つ目を外せば闘気(生命力)が三倍になり、三つ目を外せば魔力が三倍になると言われている。

「言い忘れたがよ、お前を見逃すつもりはねぇ! 腑抜けたお前なら簡単に殺せそうだからなぁ!」

「そうか」

「おいおい……」

バサラーデは呆れたような顔だ。

俺が死を望んでいるのが伝わったのだろう。歓喜よりも失望が勝るのだと、バサラーデの表情が物語っている。

「なら、死んでおけ。人類の守護者」

「勇者様をいじめないで!」

「……っ!」

バサラーデの前に、小さな女の子が飛び出してきた。

村人だろうか?

両手を広げて、震えながら俺を守るように立っている。

「邪魔なガキだ」

「やめろ――」

バサラーデが子供を殴り殺そうとする。

その前に、俺は全力で間に入り、バサラーデの拳を聖剣で受け止めた。

「どういうつもりだ勇者」

「さぁな……」

本当に、俺は何をしているのだろうか?

見捨てたはずの村人――しかもこんな幼い少女に守られて。無意識に動いていた。

反射的に目の前の存在を守ろうとしたのか、いや違う。使命感や義務感で動いたわけでもない。

ただ、思い出した。

この少女のように、幼い頃の俺も、ただ救いたいと願った。

「勇者様……?」

「大丈夫、俺が君を救うから。勇気をわけてくれてありがとう」

大人になるにつれて、考えることが増えた。

救う対象を選ぶようになったし、救うだけの理由を求められるようになった。兵器としての役割を与えらえ、背負うべきものばかりを見つめるようになった。

でも、俺は義務や使命感で戦ったわけじゃない。

せめて手の届く範囲だけでも、救いたい。そんな純粋な願いだったはずだ。

ただ人を愛して、笑顔を守るのだと誓ったはずだ。

「バサラーデ」

「……?」

「俺は全てを失った。兵器としての役目も、信じる師も、仲間も、恋人も何もかも。手元に残っているモノはたった一つだけだ。だからこそ、これだけは失いたくない……。守りたいという、この思いは!」

どれだけ成長して大人になっても、決して忘れてはいけない。

どれだけの痛みを伴うとしても、忘れるべきじゃなかった……。

力なんて後付けだ。

「勝てるかどうかは関係ない……。ここでお前を斬って、この子を救う!」

「無理だなぁ、今のお前じゃ――」

バサラーデの言葉が途切れた。いや、止まった。

カチッと、何かが外れた音がする。

降り注ぐ雨が、その一粒に至るまでが静止している。時が止まった?

「なん、だ……?」

聖剣が光っている。黄金に輝く炎があふれ出している……。

三つ目の枷を外せたのか?

だが、こんな炎は伝承にはない。何が起きているんだ?

「人?」

聖剣から出ている炎が、人型に変化していく……。

女性だろうか?

「んー? およ? 今代の勇者も”第三”まで至ったんだ。やるじゃん」

「……貴方は?」

それは――絶世の美少女だった。

目を奪われるような、吸い寄せられる魔性的魅力がある。

腰まである水色の長髪、金色の瞳。完成された曲線美のような肉体。裸体の美少女がこちらを見ている。

「……っち」

「え?」

絶世の美少女に舌打ちをされた。

「なんだよもー。また男かよ。ないわ……。次は美少女にしろって言ったじゃん!」

「えぇ?」

わけがわからない……。

時間が止まったと思えば、いきなり聖剣から美少女が出てきて、舌打ちされた?

「アタシは最初の勇者」

「え」

「色々あってさ、聖剣の中に魂だけ封じてあるんだよね」

「初代様なのですか……?」

俺が憧れ続けた初代勇者――伝説の存在が、目の前の美少女?

初代様? はイライラした様子で地団駄を踏んでいる。

「ねぇ」

「は、はい」

「君、チェンジで」

「へ?」

「美少女が良い。アタシは女の子が好きなの、男はお呼びじゃないわけ」

「はぁ?」

ちょっと何を言われたのか分からない。

……いや待てよ?

確か、初代様って生涯独身で異性には興味がなかったと文献に……。同性とのみ、親しかったというのはそういう意味なのか?

「まさか?」

「まぁいいや……。ちょっと体借りるよ?」

「え」

「大丈夫、後輩君の体で美少女と交尾する気はないよ。今は。……今は」

「へ? え? んん?」

誰もそんな心配はしてないというか、今そんな話してたか……?

体を借りるって?

情報量が多すぎて、理解が追いつかない……。

「せっかくだし、後輩君にレッスンしてあげるよ。相手弱すぎてたぶん一撃だから、ちゃんと見ておくように。おっけー?」

「え、あ、はい」

俺の返事を待つことなく、意識がズレる。

気が付けば、俺は裸になっていて、目の前にはもう一人の俺がいた。

肉体の所有権を奪われたのか?

「魔力操作の練度、闘気の巡らせ方、肉体の扱い。どれも極めれば人の域を突破できる。聖剣の所有者に――成長の上限は存在しない」

初代様はそう言うと、指を鳴らした。

雨が再び降り始める。バサラーデも、怯えた村人の少女も、再び動き出した。

初代様が時間を止めていたのか……?

「今のお前など脅威では――いや、……何だ? お前は誰だ?」

上機嫌に話していたバサラーデが、引きつった顔で問いかける。肉体的には俺でも、放たれる桁違いのプレッシャーに怯えているのだろう。

敵ではない俺ですら、震える程だ。

まるで歴戦の古豪のような雰囲気すら感じる。やはり、本当に初代様なのか?

「アタシの名前が知りたいなら、美少女に生まれ変わっておいでよ。来世にご期待くださーい。アンタさ、下っ端魔族とはいえ弱すぎない?」

「……あぁ?」

バサラーデの顔から怯えが消えた。怒りで染まっている。

「我が四天王だと知っているだろうが、煽っているつもりか? 勇者!」

「へ? アンタが、四天王?」

「……ボケているのか?」

「うへぇ。この時代の魔族ざっこ。まぁ仕方がないのかなー?」

「…………」

バサラーデが我慢ならないと、手元にエネルギーを集め始めた。

魔力の塊だが、殺傷能力は凄まじい技で、バサラーデは遠距離での戦いにも長けている……。

俺達勇者パーティが戦った時はアレにてこずった。

「死ね。我を愚弄した未熟な勇者よ」

「だって本当に弱いじゃん」

初代様はそう言うと、放たれたバサラーデの波動を片手で弾いた。

波動は一瞬で消え失せてしまった……。

手の甲だけで、弾いて消し去った?

「強い魔族は、アタシが大体殲滅しちゃったもんなー。そりゃ、子孫も弱いわけだ」

「なっ……」

バサラーデが狼狽えた様子で、一歩下がる。

目の前の存在が、知っている勇者とは別の何かだと本能で察したのだろう。

「後輩君、魔力や闘気の操作はこれくらいを目指してね」

「……誰に話しかけている? お前は、誰だ?」

一瞬の出来事だったが、微かに見えた。初代様は魔力と闘気を手の甲に集めて弾いたらしい。

一秒にも満たない一極集中。完璧なタイミングでなければ成立しない。

次の数瞬には肉体全体を循環している。圧倒的な操作練度……。

「見て分からない?」

「……?」

初代様は聖剣を一振りする。

ただそれだけで、バサラーデは自覚すらないまま――跡形もなく消滅した。

後ろにそびえ立つ山すら原型を留めない。地形すら変える一撃。これが、こんな力が人の身に許されて良いのか?

あまりにも、次元が違いすぎる……。

「”勇者”だよ」

今のは特別な攻撃ではない。恐らく、ただの通常攻撃だろう。

初代様が使っているのは俺の肉体、そのはずなのに、強すぎる……。

この人の生前は一体、どれほどの怪物だったのか想像もできない。あの魔神カーラを単騎で封じたのも間違いなくこの人だ。

「ねぇ後輩君」

「はい……」

「綺麗事って、好き?」

「嫌い、です」

俺の肉体が凄まじい速度で再生していく……。

闘気の応用でそんなことまで可能なのか。英雄オーダーとの戦いの負傷やダメージを消してくれたらしい。

「嫌うのは誰よりも信じていた証。綺麗事を迷うことなく吐ける者ほど信じてない。人を動かす道具程度にしか捉えていない……。本気だったからこそ、嫌いになれる」

初代様は、怯える村人の少女の頭を優しくなでた。隠れていた他の村人達も出て来て、お礼を伝えてくる。

村人達は恐れながらも、人類の希望なのだと、笑顔で初代様を見ていた。

「俺は、大切な人達を守れませんでした……」

「なら、これからは守りなよ」

「怖いんです……。また、奪われるだけなんじゃないかと」

「恐れを知らないのはただのバカだけど、知った上で挑むんだから、君は勇者だよ」

この人は、どうしてこんなにも強いのだろう?

揺らぐことのない、旗印のような存在だ。まさに伝説の勇者そのものだ。

ちょっと残念なところもあったけど、それでも間違いなく英雄だ。

「潜在能力は生前のアタシに負けてない。君は経験と強靭な精神が足りない。ただそれだけなんだから、これから集めれば良いんだよ」

「初代様……!」

「まぁ、美少女じゃないからチェンジしてほしいけど」

「……初代様?」

ちょっとじゃなくて、かなり残念かもしれない……。

少しだけ、憧れを返してほしい気分だ。でも、俺の中にあった絶望が消えた。

「初代様、そろそろ俺の体を返してもらえ――」

俺が言うより先に、初代様はニヤリと笑う。そのまま村人の少女に抱き着いた。

頬ずりしながら、変態的な表情で言った。

「まったく、幼女は最高だぜ! 大人になったら、お姉さんと交尾しようねぇ」

「しょ、初代様……? それ、俺の肉体なんですけど?」

「大丈夫、アタシ達の会話は村人には聞こえてないから!」

「へ……?」

それだと、俺が幼女趣味みたいにならないか……?

「……勇者様は幼女が」

「しかし、村を救ってくださったしのう」

「ロリコン」

村人達がヒソヒソと話しをしているのが聞こえる……。

俺は全力で肉体を取り戻そうとしたが……。

この日を境に、俺は国内でロリコン勇者と呼ばれるようになった――

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Status: Ongoing
The protagonist—Emo Sugil—is a huge fan of the Hero. He constantly follows the Hero’s journey and observes his adventures… to the point that he’s basically a stalker. One day, after the Hero finally defeats the Demon King, Emo—who had been cheering from the shadows—can’t contain his joy and instinctively applauds. “Magnificent. Truly magnificent! You exceeded all my expectations! As expected of the Hero!” “……Who are you?” “Well, you see, I’ve been watching over your growth all this time. I’m so happy. Every battle you’ve fought so far has been in the palm of my hand (I recorded it with this magic device).” “W-What did you say…?” Through a series of coincidences upon coincidences, the protagonist is mistaken for the mastermind behind everything. By the next day, he’s wanted by the authorities, driven out by the kingdom, and—somehow—respected by villains. Criminals who unilaterally call themselves his subordinates go on rampages, only worsening his position… “I’m not getting caught thanks to these villains, but…” If it’s ever discovered that the protagonist is actually just a weak, ordinary person, he’ll be killed—or, if he’s lucky, spend the rest of his life in prison. No matter what, he has to keep up the act! This is— the story of a protagonist who has no choice but to play the role of a charismatic villain!

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