ただの後方腕組転生者、うっかり勇者に拍手を送ったら黒幕扱いされる。
第4話 黒幕は誰かの人生を確かに救っている
「死にたくない、ですわ……」
死だけは平等だ。
人は生まれる環境も、才能も、選ぶことはできない。生き方や死に方すら選べない不運な者はどこにでもいる。
わたくしは天才だった。神童と謳われ、精霊使いとして期待されていた。実際、17歳にして既に数百年生きるエルフと同等の領域にまで辿り着いているのだから。
「こんな、こんな結末なんて……」
あんまりな人生だった。生き方を選んだつもりだったけど、錯覚だった。
わたくしは特殊な薬草の採取のため、この街の近くにある森で活動していた。精霊契約の触媒になるからだ。
しかし、流行り病がこの街で流行したことで、わたくしは瀕死の重体だ。
病院の誰もいない隔離されたベッドの上で、ただ死を待っている……。
「これから、でしたのに……」
恵まれた生まれではなかった。令嬢とかに憧れて、こんな喋り方をしていた。
もう少しで、あと少しで才能を世間に認めさせることができたはずなのに、道半ばで病を患って死ぬ。
何のための努力だったのか? 才能だったと言うのか?
「神に祈ることすら赦されない」
触媒も魔法陣も完成しているし、理論も完璧だ。最高位の魔法だ。
けれど魔力が練れない。
魔力が枯渇し、生命力があまりにも足りない。
もし、もし仮に魔力が残っていれば、高位の精霊召喚を行い、治癒魔法に期待ができたかもしれない。現代の医学では、人類ではどうにもならない不治の病だから。
「誰にも、理解されずに終わるなんて……」
この魔法陣の理論を理解できるのは、世界でまだ、わたくしだけ。
この魔法陣を起動できる程の魔力総量を持つ人間も、わたくしだけ。
つまり――無意味になったのだ。
「神も、勇者も、いらない」
神に祈っても救われたことなんて無かった。
勇者が人類を救っても、わたくしは不幸なままだ。いや、それどころか……。
「英雄なんか幻想ですわ……」
勇者がこの街の周辺で生息していたドラゴンを仕留めたことで、多くの人々が救われた。それが半年前の出来事だ。
ただ、その死骸が腐敗し、病の元凶となった。
もちろん、ドラゴンを退治しなければ被害は疫病とは比較にならない。だから、勇者は正しい行いをしただけ。
その結果として、わたくしが死ぬ。それだけ。
「誰でも良いですわ。助けて……誰、か。せめて、意味があったと言って」
どんな才能も、死んでは無意味だ。
どんな努力も、病一つで呆気なく崩れ去る。
どんな願いも、死の前では無力だった。
「……?」
体が起き上がらないから、確かめられないけど。人が来た。
気配がした。
感染するリスクから、医者達ですらもう近寄らないというのに。今更、誰が来たのだろうか?
「やぁ、お嬢さん。しばらくお邪魔するよ」
「……貴方、は?」
「僕かい? 僕はエモ・スギル。指名手配されている人気者さ」
「あら、悪い人……でしたのね。構いませんわ、寂しかったんですもの」
悪人だろうと救いだった。孤独で絶望に飲まれていたから。誰かが最後の瞬間にいてくれる。
この人に善意なんてない。分かっている。
「ここなら、追って来ないだろうからね。逃亡生活は大変でさ、いや、君の入院生活に比べたら大したこともないのかな?」
不思議な男だった。
覇気のない雰囲気で、けど一度みたら忘れない。そんな人。
容姿からは、何も想像ができなかった。
金持ちなのか、強いのか、特徴が掴めない。追って来ないからと疫病の巣窟に来るなんてどうかしている。
「わたくし、救われましたわ」
「うん? そうかな、僕には死にかけてるように見えるんだけど?」
「ええ……。もうすぐ死ぬでしょう。最後に誰かがいるだけで、救いですわ」
「ハハ、前向きだね君は」
不思議だった。まるで同情されていない。関心がないのだろう。
けど、だからこそ嬉しい。
対等に最後まで話相手になってくれるなら、幸せだった。
「君がどんな病気かは知らないけど、神様って奴はナンセンスだよね。その魔法陣、君が書いたんだろう? 精霊ではなく、神霊を呼び出し契約する超位魔法。勇者パーティのエルフですら挫折していたはずなんだけど、君は天才だね」
「え……?」
理解された? この魔法陣の価値が分かる人なんているの?
最後の力を振り絞って、机の上に広げた魔法陣。
常人には理解不能な代物。
「神様なんかよりも、特定の誰かを推しにした方が人生は幸福さ。君みたいに才能があっても、病なんかで死んじゃうんだから、この世界はナンセンスだよ」
「あ……」
わたくしの全てが肯定された気がした。
意味はあったのだと、言われた気がした。
「僕は英雄譚が好きでね。使命を全うする人を尊敬している。だから、勇者パーティの旅を観察していた。彼は兵器だった、魔王を討滅するための、国家の道具さ」
「あら、勇者が好きなくせに、酷い言いぐさですわね」
「そうでもない、そこも気に入っているからね。多数の人類を救うために、少数を切り捨てる選択を迫られた時、彼は泣きながら多数を選んでいたよ」
「……そう、でしょうね」
「君には、使命はあるのかな?」
「あったかもしれませんわ……。でも、もう終わりですもの」
「そうでもないさ、コレを飲んでくれるかい?」
「良いですけれど……」
何やら変な液体を渡された。不思議と怖くない。
安楽死させてくれるのだろうか?
わたくしは言われた通りに、小瓶に入った液体を飲んだ。
*
「使命があるなら、才能があるなら、死ぬべきじゃない」
僕は万能薬を少女に手渡す。
人気の無い病院に逃げ込んだのだが、そこにいた子だ。コレをあげれば、僕がここにいたことを黙っていてくれるはず。
あと、勇者パーティの助けになるかもしれない。
この子は凄いのかもしれない。勇者パーティのエルフが言ってた魔法陣ぽいし、いや知らないけど……。
なんかそれっぽい事言ったけど、本当は魔法陣の違いなんて分からない。勇者パーティのエルフが言ってた事をそのまま言ってみただけだ。
「嘘、ですわ……。こんな」
「現実だよ。まぁ、死にかけていたんだ、動揺するのも無理ないか」
「貴方は一体……?」
「名乗っただろう? ただの勇者ファンさ」
きっとこの場に勇者がいれば、迷わず万能薬を渡したはずだ。彼は多数のために少数を切り捨てられる人物だが、救えるなら妥協はしない。
兵器として育てられても、優しさを捨てきれない素敵な人だから。
「わたくしに、何をさせたいんですの?」
「別に何も」
「そんなはずがないでしょう。そんな薬、意味もなく使うはずありませんわ!」
「君の才能と人生は、君だけのものだ。好きに生きたら良いよ」
この少女は不思議な目をしている。
左が赤で、右が白色。
魔眼というやつだろうか? 魔王軍にも使い手がいたね、懐かしい。
「わたくしは、オルトリンデ・マルテーノという名前ですわ。こんな話し方ですけれど、庶民の生まれなんですの。笑ってしまうでしょう?」
「そうかい? 素晴らしいと思うけどね」
勇者も元は庶民の子供だった。才能と努力で使命を全うするなんて、素晴らしいことだと思う。
僕にはとても真似できない。だから尊敬しているし、推しているっ!
「スギル様、わたくしを受け入れてくださる?」
「はて、どういう意味かな?」
「いつか、恩返しをしますわ。強くなって、役に立って見せますわ」
「生き方を選ぶのは君だし、好きにしたらいいと思うよ」
僕がここにいることを黙っててもらう、それだけのつもりだった。とはいえ、恩返しと言うのなら受け入れる。その頃には僕、死刑になってるかもしれないけど……。
そもそも、魔法陣を作れるだけで、戦闘能力が高いわけではないだろう。僕の敵は国家だからちょっと強くなっても、正直あんまり意味ないし……。
「そうだ」
「なんですの?」
「元気になったら、英雄応援団に入ってみたら良いと思うよ。魔将さんなら、受け入れてくれると思うし」
仮面の魔将さんは推し活集団を作るっぽかったし、入ればいい。
僕ではなく、魔将さんに丸投げである。
この子も推し活の素晴らしさを知れば、幸福な人生がおくれることだろう。
「そろそろ、追手も去ったかな?」
「もう行ってしまいますの……?」
「僕は失礼するよ。病気も治ったし、もう一人でも寂しくないだろう?」
「ええ……」
「君が(推し活で)幸福になれますように……」
僕は手を振って、病室を後にした――
*
「なんて、なんて素晴らしい方ですの……」
こんなにも救われた事はない。
こんなにも、優しくされた事はない。
こんなにも、理解されたこともない。
「スギル様……。イヒヒ、第二の人生は彼に捧げますわ!」
わたくしの恩返しを、彼は過小評価している。
指名手配と言っていたから、国家が敵なのだろう。そんなもの、万全なわたくしの敵ではありませんわ……!
勇者パーティくらいしか、わたくしの障壁足りえない。
「さて、契約を済ませてしまいましょうか……。高まりますわ」
魔法陣が起動する。
超位魔法が発動する。
「神頼みすらできなかったのに、神霊を呼び出すなんて皮肉ですわ」
この魔法陣は格が違う。
わたくしの魔力も人間どころか、魔族でも存在しない領域にある。
勇者パーティの魔法使いは測定で最高点だったと聞きますけれど、わたくしは測定できなかった。かけ離れているから。
勇者パーティのエルフは一流の精霊使いと聞きました。けれど、わたくしは――――”神霊使い”ですもの。
「誰にも価値を理解されませんでしたわ……。理論も、魔力も、わたくし自身も」
わたくしは天才過ぎた。
わたくしは遅すぎた。
本来誰にも理解されず、何も成せず、死ぬはずだった。
「イヒヒ……歴史を変える時がきたんですの! あぁ、高鳴りますわ!」
無数の修羅神仏が舞い降りる。
これは一体だけを呼び出す魔法陣ではない。発動者の魔力量に応じて、格と数が決まるのだ。
人知を超えた魔力、完璧な理論、制御を可能にする魔眼。
「わたくしには、全てがあった」
足りなかったのは寿命であり、理解者だった。でも手に入れた。
ここから、始まる。
聞き取れなかったですけれど、英雄オーダー? とかいう組織で必ず幹部になる。
「スギル様の横は、誰にも譲りませんわ!」
手始めはこの街だ。無数の神霊の軍勢で絶望と混沌で満たしましょう。
そうすれば組織へ力のアピールになりますし、スギル様も逃亡しやすくなることでしょう……。
「第二の人生を始めましょう! イヒヒッ!」
わたくしは笑う。
乾いた笑みではない。絶望からくる笑いではない。
希望と幸福に満ち溢れた笑みだ。人生が始まった瞬間だから――高らかに。
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